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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(61)アクセスして
Chapter61
『束の間の旅はどうだった? その小僧とも巡り会えて、ハッピーエンドを迎えられた⋯⋯というわけか』
ダンは、水面に浮かべていた美しく輝く「モノ」の柄を掴み、それを慎重に拾い上げた。彼の声には皮肉が込められており、その冷たい眼差しはレナに向けられていた。彼女は黙ってその様子を伺い、ちらっと後ろを見る。子供のトムとレナが、赤い布にくるまり顔を出した状態で小さくしゃがみ込んでいるのが確認できた。
『主演女優「レナ・テノール」と、その小僧「トム・ホーソーン」か。お前らの記憶は読ませてもらった。やはりな⋯⋯その溢れる才能は「鏡の世界」の力によるものだったか』
そう言いながらダンはゆっくりと水の上を歩き出し、レナの方へと向かった。彼女は自身の記憶が侵されたことに対して強烈な嫌悪感を抱き、吐き気を催した。
『お前らの記憶を根こそぎ奪ってやるつもりだったが、小僧の持つ「通信デバイス」のせいで、非常に中途半端な状態になってしまった。だが、そんなことはもはやどうでもいい。これの場所さえ⋯⋯わかればな』
ダンの手に握られたその輝かしい「モノ」は、途端に禍々しいオーラを放ち始め、やがてその真の形が顕になった。それはレナが以前に手にした「金色の斧」とは異なり、まるでダンの冷酷非情な性格を映し出すかのように、恐ろしい新たな形状へと変貌していた。
かつての温かみのある煌めきは消え、その代わりに冷たく鋭い刃からは青白い光が放たれている。この光は不穏なエネルギーを纏い、見る者の心に深い恐怖を植え付けた。
「あなたの持っている、その斧⋯⋯それは間違った使い方をしているわ。まるで絶望の中で、泣いているように見える⋯⋯」
『フフ、素晴らしいセリフだ。その落ち着きよう⋯⋯すでに「鏡の世界」とのリンクを確立しているか?』
「⋯⋯何の話?」
『とぼけるな。お前は自身の記憶に蓋をしたつもりだろうが、あの鏡⋯⋯「永霊鏡」のデータは既に検出済みだ。それを隠し、この俺を追って来たのだろう?』
「えいれいきょう⋯⋯? 一体、あなたは何を言ってるの?」
レナにはダンの言葉の意味が全く理解できなかったが、彼女の心は「全てを受け入れる」という思考に導かれ、彼のさらなる会話を引き出す方向へ自然とシフトした。それが、何らかのヒントに結びつき、この状況の打開策に繋がるのだと強く信じていた。
『お前らの言う、「エテルナル・ミラー」の事だ。奴は⋯⋯「エマ・テナー」は元気か?』
ダンの足が池のほとりへと辿り着くと、レナは接近してくる彼に少し後退りをした。聞き覚えのある名前に触れられ、彼女は複雑な表情を浮かべながら答えた。
「え、ええ⋯⋯そうね。とても元気よ」
『お前の名⋯⋯ふむ、レナ・テノールか。テノール⋯⋯「tenor」テナーとも読めなくもない。わざわざ俺を挑発するような名前をつけて、ヤツはお前を送り出したと言うわけだ』
「そうよ⋯⋯あなたがまた、私たちを追ってくることは分かっていたし、その手に握っている斧の事だって⋯⋯あなたの知らない秘密を、私は知ってるわ?」
『何だと?』
レナの出まかせの言葉に、それまでの余裕のあるダンの表情が一瞬で曇り、彼の足がぴたりと止まった。意表をつかれたダンの眼差しは突然鋭くなり、レナに対して警戒し彼女を見つめ直した。
──スペル照合確認⋯⋯『エマ・テナー』との、リンクを開始する──
レナの戦略が功を奏し、ダンとの会話から必要なキーワードを導き出したことで、黒装束のレナが彼女の身体へのアクセスに成功した。その瞬間、凄まじい光が周囲を包み込んだ。
『ぐっ⋯⋯!! この光はっ⋯⋯!?』
ダンは、その突然の閃光に驚いてのけぞった。彼の表情からは、予期せぬ展開に対する困惑と衝撃が読み取れた。
『お前に⋯⋯この斧で打ち付けられてできた、俺の顔面の傷跡が⋯⋯痛み出したぞ!? その光⋯⋯お前は「エマ」かっ!!』
レナが放つ眩い光に目を細めながら、ダンは叫んだ。美しい光のローブに身を包んだレナの姿は、直視することができないほどの明るさで輝いていた。彼女が手を前に伸ばすと、ダンの顔の傷口がひどく割れ始め、そこから瘴気が立ち込めた。
「あなたが奪った、二人の記憶を返してもらう」
顔を抑え、地面に片膝をついたダンは苦痛に歪んだ顔でレナを睨みつけた。その目には激しい憎悪と、彼女との「因縁の歴史」が復讐の炎となって燃え上がっていた。
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