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私なら大コケしてた『書く人はここで躓く!』

小説を書いたことも、書こうと思ったことも全くない私が何でこの本を読んだのかと言えば、村田沙耶香さんの書評でとても興味をそそられたからです。ここで何度も登場しているこちら『私が食べた本』

エッセイには、大学生の頃にスランプに陥った村田さんを救い、その後の作家人生への道が開けるきっかけになったというこの本への想いが、短文ながらも尋常ではない熱量で記されておりまして。売れっ子作家がこんなに熱く語る、書くための本って、どんな??と気になって読んでみました。

『書く人はここで躓く!』- 著者:宮原昭夫さん


作家による、小説を書く人のための本だった

タイトルと村田さんの書評だけを頼りにこの本を手に入れた私は、読み始めてすぐさま大いなる誤解に気づきました。「書く人」というからには、物書き全般、日記でもエッセイでも何でも文章と分類されるものを書くコツやノウハウの本かと勝手に思い込んでいたら、、、小説を書く人向けの本だったのです。

いや、よく見たら表紙にも「小説の作り方」って書いてあるやないかーい。しかも、思いっきり赤字やないかーい。今回はちゃんと書店で手に取ってみてから買ったのに、なんでこうなるんだーい。まあでもせっかく買ったし読んでみよー!

ノウハウではなく、心得

こうすると売れる!とか、読者にウケるのはこう!とか。職業作家として食べていくには、きっともちろんそういう要素も重要なんだろうと推察するけれど、この本はそういった小手先のハウツー本ではありませんでした。

小説の構成、登場人物の動きや関係性、場面展開、文体、などなど…。なるほど小説ってこういう要素があって、こうやって作られていくものなんだ、と作家さんの頭の中のプロセスが垣間見えて、私みたいなど素人にも興味深く読み進めることができました。

どの章でも秀逸だなと感じたのが、たとえ話。常日頃、どんな分野においても、細分化された項目でさらに微に入り細に入った内容を読む際には、いかに俯瞰的な視野を保ちながら細部を学んでいけるかが重要だと思っているのですが。この本は、豊富な事例・実例もさることながら、何とも絶妙な比喩表現でそれらの理解をまるっと深めてくれます。

例えばそうねえ、主だったところだと…

中・長編は「尾頭付き」
短編は「切り身」
コントは「小魚の尾頭付き」
掌編は「小魚の切り身」

第7章より抜粋

これだけ読むと、はあん?何言っとん?って、何だか分かったような分からないような気持ちになると思いますが、本文第7章を通読すると、あら不思議。もうこれ以外に譬えようがあろうか?いや、ない!なんて思えてしまう。

ほかにも随所に、マクロ的・ミクロ的双方の視点に沿った譬え話がふんだんに織り交ぜられていて、全然退屈しませんでした。

登場人物は作者には制御できない?

どの章も面白かったけれど、個人的に特に興味深かったのは、「第4章 ストーリーかヒーローか 人間像」中の、<物語に逆らう「人間像」>の項でした。

ある登場人物に一定の性格が与えられると、ある場面で作者の思い通りにストーリーを進行させるために是非とも必要な言動を、その人物にどうしてもさせることが出来なくなる場合もあります。

P.80より

人間像とは、作者の当初に着想したストーリーに奉仕するというより、むしろそのストーリーに逆らって、作者の思いもかけない方向へストーリーをいざなっていくことで、作者の思い付きから出発した当初のストーリーに生命を吹き込み、作者にも思わぬ新発見をもたらす場合があるのです。

P.80より

作者が100%頭の中で生み出した登場人物なのに、作者の思惑に反して想定外の動きをしだして、ストーリーすら改変してしまうなんて…!
そういえば、先日読んだ『図書館戦争』

このあとがきでも、有川浩さんが続編を作る時について似たようなことをお話しされていたなあ。キャラクターが勝手に動いてくれるから、後はそれを書いていくって。これってたぶん、小説の作家さんだけじゃなくて、劇作家さんやなんかでも共感できる事象なんだろうなあ。すごい感覚だなあ…!

小説を書いてる人、書きたい人へ

私は今のところこのどちらにも該当しませんが、noteユーザーさんにもご自身で小説を書かれている方が結構たくさんいらっしゃいますよね。そんな方々には釈迦に説法というか、既にこの本なんて超有名なのかも知れませんが、とってもオススメです。

読了すると、小説がスラスラ書けるようになる!…なんってことは無いのですが、むしろど素人にとってはハードルが上がるきらいすらあるのですが、「ああ、なるほどそう言えばあの章に書いてあったあの構成やあの手法って、あの小説やこの小説にあったあれか!」(←代名詞多すぎ病)みたいな、ちょっとプロっぽい(←にわかにかぶれた)視点からも読書を楽しめるようになりそうです。

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