明日の種をまく 044_20231020
うぉん八、金八を語る2
『3年B組金八先生』第1シリーズの感想です。
唐突になんのこっちゃ?と思われた方は、まずこちらの記事でご確認ください。
第1シリーズで有名なのは、「15歳で妊娠・出産」というテーマ。
杉田かおるさん演じる「浅井雪乃」と鶴見辰吾さん演じる「宮沢保」という3年B組の中で起こった騒動。
この二人は185回目の最終回まで、事あるごとに登場する。最後には孫が来年桜中学に入学します、と言っていた。当然、子ども「歩(金八先生が名づけの親)」も卒業生で第4シリーズに生徒として登場する。
学校側は校長先生を始め、当たり前のように「中絶」という判断を下す。
浅井は自分の妊娠に気づき、誰にも相談できず(家庭環境難:第21回)、病院に行く勇気もなく、雨の中縄跳びをするなどして自然な流産を試みたが、お腹の赤ちゃんが生きていると訴えたと母性に目覚め、産むことを決意。その時点で7か月。中絶は難しくなっていた。
クラスメイトは宮沢と浅井を興味本位に囃し立てる。
金八先生は二人の生徒が親になることを応援すべく、養護教諭の天路先生(通称アマゾネス、のちの金八先生の奥さん、倍賞美津子さん演)とともに3年B組に「愛の授業」を試みる。
これが最終話まで「最高の授業」として、先生方や関係者の思い出となり、代々語り継がれていくことになる。
3年B組は一貫して「命」と「愛」をテーマにしていた。
これがだいたい第1シリーズの主流である。
放映当時、私は当時まだ5歳。それでも記憶に残っていた。
第7話に主役をはったやんちゃ坊主の中学生、星野清(マッチ)に私は一目ぼれしたのである。これが私の初恋だったかもしれないな。
第1シリーズは全23話。2クール。10月から3月の放映。
そもそも第1話でいきなり優等生が進路に悩み、母親とのいざこざから家出をするという事件が始まっている。
赴任早々で、新しいアパート生活。29歳。自分の生活もままならない。
同僚の先生たちともこれから信頼関係を築いていこうかといった矢先に起きる事件。
そう、子どもたちは大人の事情なんかお構いなしだ。彼らの青春は待ってくれない。
彼らの半年と大人の半年は全く時間の流れ(速さ)が違うのだ。
家に帰れば電話がかかってきて、息つく間もなく学校に戻る。夜中生徒を探し、明け方見つけたら、次の日の学校が始まり、いつもの朝がやってくる。
ほかの生徒にしてみれば、自分たちの朝である。それをやってこなさなければならない。
これは決してドラマの中だけではない。世の中の先生がこのようにして、各生徒の事情に合わせて日々奔走している。
「プライベートな生活がありますから」なーんて言ってられない。学校の先生の働き方改革は世の中の働き方改革と一辺倒にはいかないような気がする。一体どうしたら彼らのプライベートは守られるのか。
ご苦労様です、という気持ちとともに、先生個人のことも心配になる。
金八先生を見ていると「あーこの人はこれを生きがいとして、天職として金八先生をしているんだなぁ~」と思えてならない。
全ての先生にこれを求めるのは違うのかもしれないが、うぉん八の理想と言えば理想である。
いや、誰も真似できないからこそ、憧れの対象になるのかもしれないな。
金八先生を語り始めたらとまらない。
文字数がいくらあっても足りないので、全シリーズを俯瞰して、これぞ第1シリーズです!と言い切れるものがあるとするならば、私はこれを1つだけとりあげたい。
それは「中学3年生、とっても大人だ」ということ。
金八先生が全シリーズを通して、どんどん悩んでいくのは、中学3年生という15歳の「子ども化」にあったのではないかと思う。
それは時代背景が大きく影響しているかもしれない。
そもそも当時の金八先生の年齢29歳を今と比較しても、先生自体が大人びているように見える。
日本全体が大人になる年齢がどんどん遅れているのかもしれない(・・・の割に成人年齢が下がったりして・・・面白い現象である)。
自分だって当時の50歳と比べると30歳ぐらいの精神年齢だろうか?と思うレベルだもんな。仕方がない。
とにかく第1シリーズの15歳はちょっと大人びた子どもたちだ。
一番いいなと思うのは「言葉づかい」だ。
特に問題を起こした浅井雪乃と宮沢保の言葉づかいはとても綺麗なものである。
宮沢保は自分の奥さんになる浅井雪乃に対して「雪乃」とか「雪ちゃん」などと言わず「浅井くん」と呼ぶのだ。現代の人がみたら、この恋愛ドラマはもはや「時代劇」にしか見れないのかもしれない。私からしたらこの会話が15歳らしくとても初々しく思えてしまう。
金八先生の言葉づかいも丁寧。国語の先生だけあって言葉は大事にしている。
生徒のことを「君たち」という。「おまえたち」とは言わない。
けっして命令口調ではない。「~しろ」などと言った言葉は使わない。
必ず「〇〇しなさい」という言い方をする。どんなに怒ったり、興奮しても。
「うるさい!」「だまれ!」などとは言わず、「静かにしなさい」と注意する。
実際、私は先生たちのこの命令口調にとても敏感だ。嫌な気持ちになる。
女の先生が「お前」「〇〇しろ」という言葉を使うのに抵抗がある。
男の先生が同じ言葉を使うとさらに強い威圧感をもつ。
そうしないと言うことを聞かない、と言われるかもしれない。
そういえばつい最近、夏のドラマ「最高の教師1年後、私は生徒に された」で松岡茉優さんが演じた先生が異常に丁寧語を使っていたのを思い出す。最初は違和感があった。よそよそしいというか、生徒との距離感を強調していたように思うが、その言葉づかいと実際の彼女がとった行動、生徒への熱い思いとは全く別物であるというところに、このドラマの一つの良さがあるのではないかと思った。
語りつくせない第1シリーズ。
見どころが多すぎて、とても1記事では書き足りない。
正直、第1、第2シリーズは1話1話の質が高い。1話(55分)がとても丁寧に作られている。これも時代背景か。
55分でよくこんなに展開できるなと思う。
それが23話もあるのだから、23記事書いてもいいぐらいだ。
29歳の金八先生が等身大の若者教師として男子生徒と生身でぶつかる初々しさもとても魅力的。びっくりするような男同士の会話もしている。
そして金八先生と乾先生(森田順平さん)の教育をめぐるスタンスのバトルや田沢先生(名取裕子さん)への淡い恋心、下宿先のおばちゃん(都家かつ江さん)の愛情深い教育術、君塚校長(赤木春恵さん)の管理職としての手腕、野村教頭(早崎文司さん)の中間管理職としてのジレンマ、服部先生(上條恒彦さん)や国井先生(茅島成美さん)といった先輩教員との付き合い方などなど見所満載だ。
宮沢保をはじめとする生徒の保護者の子どもに対する向き合い方なども大変参考になる。
最後に、金八先生の良き理解者であった英語担当の左右田先生。金八先生のことを「ティチャー ゴールド エイト」と呼んだりして、日本語と英語のちゃんぽんを地でいく姿がとても面白かった。
左右田先生を演じられた財津一郎さんのご冥福をお祈りいたします。
タイトル画像は、仲良くさせていただいているnoterさん温水温(ぬくみず ゆたか)さんの作品です。