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日本酒外交 日本酒サムライ、世界を行く【読書感想】

饗宴外交という言葉がある。

フランス革命・ナポレオン戦争後の1814~15年のウィーン会議時に生まれた言葉で、敗戦国フランスのタレイラン外相は天才料理人カレームを帯同して、各国代表に美食とワインを振舞って敗戦国でありながらフランスに有利な形で交渉を進めた。

このウィーン会議の様子は「会議は踊る」というドイツ映画にもなっている。外交と言うと経済力や軍事力をベースにした「ハードパワー」が重視されがちだが、「魅力的な文化」などを通して他国が自発的に支持してくれる外交手段のあり方の「ソフトパワー」も重要な要素だ。

実は日本の文化外交に近年、日本酒が大きな役割を果たすようになっている。筆者は、外交官の立場がから日本酒を語る門司 健次郎氏。日本酒造青年協議から「酒サムライ」に叙された大の日本酒好きである。

日本酒は従来、外交に置いてはこれまで乾杯に用いられることはあっても、会食やレセプションの主役の酒ではなかった。その理由は饗宴外交の頂点である宮中晩餐会や午餐会では伝統的にフランス料理のフルコースだったからだ。これは多種多様な国籍の人を招く以上、伝統的に受け入れられているフランス料理を出すことは合理的な判断と言えよう。

外務省が力を入れ始める

しかし、1980年大平正芳総理が「日本酒は国酒。特に外国の方をもてなす時は日本酒がいい」と発言したことから、外務省でも最初の乾杯に日本酒を用いる向きが徐々に広がった。

とは言え、当時の外務省職員の中で人気なのはワインであり、90年代に筆者が日本酒の魅力を発信に努めはじめた時は、なかなか理解してもらえなかったそうだ。ある先輩からは「あまり日本酒にのめりこみ過ぎないように」と真面目にアドバイスされてしまったという。(後に先見の明が無かったと謝られたらしい)

チャンスが来たのは1998年。柳井俊二外交事務次官から、外務大臣のゲストハウスである飯倉公館に日本酒を揃えるように命名された筆者は、入手の難しさを度外視して「十四代」や「亀の尾」など含めてバラエティ豊かに備えたところ、レセプションで大好評だったのだという。

その他、2001年には在英時に文化イベント「ジャパン2001」で蔵元を招いて日本酒の意見交換に努めてコネクションを作るほか、ケンブリッジ大学のワインサークルに日本酒を紹介するセミナーをするなどの営業活動も展開。

2008年には「酒サムライ」の称号を貰う。実はワインには騎士号があり、なら日本酒にはサムライということで、日本酒の内外への普及に貢献したものに与えられる。「サムライ」はニンジャと並んで外国人ウケがとてもよく、とても関心を集めたそうだ。

こうした努力もあってか、2011年には外務省が良質の日本酒を全世界の大使館や総領事館の希望を受けて調達・送付する制度ができた。外務省の調達では蔵元のご厚意により手に入れやすい日本酒も手に入る他、航空便を利用するので品質を維持したまま調達が可能なのだそうだ。(筆者が自前で航空便で調達したところ30万かかってしまい、とても個人では継続できなかったそうだ)

あわせて2011年には日本酒研修も開始。日本酒・焼酎の国家戦略として国酒のプロジェクトも開始。2020年の外交青書には「日本酒は外交活動の武器」とまで書かれるようになった。

日本酒外交の実際ービジネスとしての日本酒の売り込み

外交官として筆者はどのように日本酒の啓発に努めたのか。カナダ勤務の時の内容を抜粋したい。

カナダでは基本的に酒類の規制が厳しい。連邦制であるため州によって規制は異なるが、公共の場での飲酒は禁止。販売面でも、例えばオンタリオ州では許可を得たスーパーやりカーショップで地元の低価格ワイン程度しか売られていないそうだ。

筆者は何をしたか。

酒類の輸入と販売を所掌(所管)するオンタリオ州酒類管理公社(LCBO)に対して、2017年に集中的に日本酒の輸入を働きかける作戦に出たそうだ。

まず、オタワ郊外に新規開店するLCBOの小売店舗のオープニング式典に出向き、ソレアス社長に挨拶。日本大使が挨拶すると聞き、入荷する日本酒を通常の3種類から10種類に増やしてくれたそうだ。

次にLCBO東部地域地区マネージャー会合で一時間の日本酒の講義を行い、引き続き関係者12名を大使公邸のディナーに招待して日本酒を味わってもらう。酒類のプロだけあって、技術的な質問を挟みつつ、彼らにとって新しいお酒を楽しんでもらえたことが伝わってきた。

さらにトロント本社でソレアス社長を訪ね、カナダにおける日本酒普及に対する協力を要請し、前向きの回答を得る。また、日本酒を充実させてくれたLCBOの小売り店舗を訪ね、冷蔵保存がされていなかったため、要請をした。

最後に日本酒ファンのマクラックリン最高裁長官夫妻を肯定の夕食会にお招きする機会にソレアス会長やワイン関係者も招待し、12種類の日本酒とペアリングを試してもらった。

その後、外務省の正体でソレアス社長の日本訪問も実現したという。ちょうど開催中の東京酒フェスティバルで多くの日本酒を試飲してもらったそうだ。

その他、カナダ最大の日本酒イベント「カンパイ・トロント」には毎年参加している。このような積極的な営業活動で、日本酒への理解が広がっているのだろう。

大使として会食を主宰

大使になると会食を主宰する機会が格段に増える。任国政府の閣僚、各省庁幹部、国会議員、ビジネスマン、学識経験者、報道関係者などカウンターパートが一挙に増えるからだ。限られた滞在時間の間で多くの人と意見交換できるようにすることもしばしばだったという。

そこでゲストが期待するのはやはり和食だそうだ。日本の大使に招かれて和食以外が出てきたらガッカリするというもの。

幸いなことに大使には公邸があり、和食の料理人がいる。筆者が大使になった時は外務省が日本酒を送ってくれるようになった。そこで和食のコース料理に日本酒とワインを両方出して比べてもらうということをしていたのだそうだ。

特に和食と日本酒の普及に焦点を当てて、「ミス日本酒」の方に手伝っていただくなどして、関係者を招いていたこともあったという。

「日本酒には和食」は思い込み

筆者は日本酒を啓発する中で、日本酒の存在をまずは知ってもらおうと努力を重ねてきた。その次のステップは日本酒を口にしてもらうことだ。海外ではレストランが出発点となる。

近年、和食が世界的ブームになり、日本食レストランの数は飛躍的に伸びている。農林水産省によれば約2.4万店(2006年)だった店舗数は約11.8万店(2017年)にまで伸びている。背景には和食の文化遺産登録や、ヘルシー志向の高まりなどがあるだろう。

日本酒と言う視点では、和食に限らず近年はフランス料理にも合わせて出る機会が増えている。

ここで重要なのが日本酒の種類だ。海外でも日本でも最上級とされ価格も一番高い日本酒として、純米大吟醸・大吟醸酒が歓迎されているのだが、「実は大吟醸に合う料理の幅はかなり狭い」と筆者は指摘する。

さらに燗酒もあり、「日本酒の多様性はあらゆる酒でも抜きんでている」と筆者は分析する。以下に、日本酒ごとに合う料理を分類したサイトがあるのだが、日本酒のポテンシャルは世界各国のあらゆる料理と合うと言っても過言ではないのだが、残念ながらそこまでの広がりは見せていない。


出典:酒みづき


とは言え、適切な日本酒を海外で提供するためには①高い平均アルコール度数②冷蔵設備③適切な容器など乗り越えるべきハードルがいくつもある。

近年、国内消費が落ち込む中で日本酒の輸出は希望でもある。今後も海外への広がりを期待したものだ。

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