介護をしている全ての人へ#60 ~ 壊れてゆく父

 父の検査と母の不調が重なり、介護休暇を取得したと日記にあった。
 父の脳が干からびて死につつある。父との良い思い出は少ないが、確かに一緒に過ごした月日はある。それが壊れて消えていく。
 つないでいた手が解かれる感覚を思い出した。

2019年3月1日(金) 母の日記

 寒い朝、左足は冷たく鈍い痛み、末端の感覚が鈍い。
 今日は、夫の膵臓に見つかった腫瘤をMRIで詳しく検査する。
 左脚の不調を訴えると、長男が有給休暇を取って、病院に付き添ってくれた。私独りでは運転もできなかったし、心身ともに耐えられそうもなかった。度々休みを取って会社での居心地が悪くならないか心配。
 出かける予定が決まると、段取りも時間も関係なく外に飛び出していく夫、これも認知機能の低下が原因なのだろうか。
 朝9時前に市立病院に到着、すぐに診察がはじまった。MRIが怖くて失禁。
結局お昼近くまでかかって診察終了。検査結果は3月5日とのこと。
 左脚が言うことを聞かない私に代わって、夫の世話をやいてくれる息子に感謝。
 午後は、いそえ脳神経外科で東部MRIの検査、病院詣で少し疲れた様子。かわいそう。前頭前野の委縮顕著、アリセプトが5mmに増量された。
記憶テストも14/30、芳しくないとのこと。
 夜、結婚する前からの事がいろいろ思い出された。目頭が熱くなる。

2019年3月1日(金) 私の日記

 出社前、母の部屋を見舞うとシクシク泣いていた。心がちぎれてしまいそうになった。
 今日は、父の検査の日だが、病院に連れて行く自信がないという。すぐに上司と人事にメールを打って、介護休暇の取得を伝えた。
 9時過ぎ、メールを見た上司から電話。いつもいつも急な話、仕事をなめていると嫌味を言われる。無給なのだから文句を言われる筋合いはないと言いたかったが我慢。上司のご両親はご健在の様子だが、状況は異なるだろうが、彼も必ず通る道。その時、部下にどう言い訳をして仕事を休むのか聞いてみたい。
 父、MRIが怖いといって粗相、検査台を汚してしまう。技師さんは時々あることだから気にするなと言ってくれるたが、申し訳ない。
 膵尾に3cmの腫瘤が見えるとのこと。そんなに大きくないというが……おそらく、がんなんだろうなという予感がする。血液、リンパ、そして穿刺の検査もして、全部終わったのは昼過ぎ。検査結果は3月5日とのこと。
 午後2時、脳神経外科で脳のMRI検査。脳の萎縮が進んでいると言われた。
母がその場で泣き始めた。普段、不満ばかり言っているが、何十年も夫婦でいると、いろんな感情があるのだろう……そこにどんな感情があるのかは、家庭を持つことができなかった自分にはわからない。
 帰宅後、「悲しい」とか「寂しい」とか「悔しい」とか名前のある感情ではない感情に心が支配されてしまっている。整理がつかない。
 父は、疲れて寝室で眠っている。母は、ぼんやりテレビを眺めている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?