ぺンを売らない筆記具店

僕は昔、世界の高級筆記具をネット販売する会社で働いていた。僕の仕事は基幹業務で注文を確認して、在庫確認や仕入先に発注する事と、お客様からの問い合わせやクレーム対応だった。この会社はネット販売の筆記具界でNo.1だ。SEO対策や自社HPに力を入れていて、社内にも強いWebチームがある。ネット販売なんて何処も似たようなモノで、商品も価格も他と大差ない。SEO対策やチャンネルの数で勝負はほぼついてしまう。Webチームが集客をして基幹業務チームが注文後の処理をする。Webチームはクリエイティブな仕事だが、基幹業務チームはただの作業だ。入社当初からなぜ注文確認→在庫確認→仕入発注が自動化出来ないのか不思議で仕方がなかった。

それでも基幹業務の僕にしか出来ない事がある。

僕の顧客で1人のおじいちゃんがいる。電話で僕にしか注文しない。僕が昼休憩中で他のスタッフが電話に出ると切る。そのおじいちゃんは芦屋に住んでいる。若い頃にフランスで料理の修行し、日本に帰って芦屋でフランス料理店をOPENした。引退後に脳卒中で倒れた事がキッカケで生きている間にお世話になったフランス料理店の従業員などに自分が選んだ万年筆をプレゼントし続けている。これは電話の会話の中で教えてくれた事だ。ただのネット販売の1人のスタッフと1人の客が電話で、

桜の咲く季節には桜の話をして、雪が降る季節には雪の話をする。

会った事も顔も知らない2人は電話を通して声だけで繋がっている。おじいちゃんにとって息子ぐらいの年齢の僕との世間話が、1本4〜5万円する万年筆を買う価値が有ったのか…は分からないが、これがWebチームには出来ない僕が売っているモノだ!

最近この会社の基幹業務の僕の上司が退職した。再就職先は東京の高級デパートの万年筆売り場と聞いた。あなたなら今までの万年筆の知識とお客様対応の経験を、安売りをしない高級デパートの売り場で人対人の最高の価値を提供出来ると思います。AIによって多く職業が無くなると言われてる。世の中が正確で便利でスマートに成れば成るほど

人は人肌を求めてそれに価値を感じると僕は思う。

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