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飲食で1店舗目を失敗しないために、自分がしたこと

東京・神楽坂通り。通り沿いに建つ目的の店を見つめながら、少し離れた物陰に、私は立っています。

手のひらには交通量調査に使われる数取器をにぎり、店前を通る人数をカチカチとカウントして、計っていました。

WithGreenの1店舗目となる神楽坂店を出店する前、私は弟の謙太と交替しながら、この調査を毎日、昼食時と夕食時の2回、2ヵ月繰り返していました。

店前通行量に対して、何パーセントのお客さんが店に入るのか。

1.「出店を狙っている店舗」
2.「出店予定場所近くにある、似た業態の他店」
3.「(ほかの場所にある)競合となるサラダ専門店」

この3つのお店の前で、何人通って、何人入店するのかを調べていました。
1日に何人の来客があるか。その数字と単価予想から、1日の売り上げや月商を算出していたのです。

今回は、WithGreenの1号店が神楽坂にオープンした前後について。飲食店の開業を目指す方には特に、参考になると思います。

WithGreen 1号店となった神楽坂店

日本のサラダボウル専門店だから。出店候補地は「昔からの食のまち」

まず、通行量調査をしたのは、本に書かれてある通りそのままやったんです。

飲食での創業を考えたときから、100冊は読みました。100冊読めば共通点が見えてきます。「押さえどころ」の目星がつくんですね。その中の1冊『飲食店の開業の仕方教えます 3店までの財務』が、通行量を測るにも、13時~14時の1時間をすべて計らなくても15分を4倍すればいいなど、とても実践的な方法が書かれていました。著者の田中繁明さんの講演にも行きましたし、そのまま取り入れました。目的のためには、先人の知恵はとことん借りる主義です。

全国に、サラダボウル専門店を出す。そう創業前から決めていた私たちにとって、「1号店」は特別な意味がありました。最初がうまくいかなかったら、何も始まりません。絶対に失敗できない出店でもありました。

WithGreenは、「日本の生産者や日本の四季に根づいた、サラダボウル専門店」です。出店場所は「昔から続く食のまち」がいいと、神楽坂、銀座、麻布十番あたりを候補に考えていました。そんななか、いまも続く神楽坂店の場所が「半年後に空く」と、神楽坂でふらふらと探しているときに見つけた、家族経営の不動産屋さんが教えてくれました。

そこから数ヵ月、この場所に出店するかどうかの判断材料にすると同時に、物件を貸したいとオーナーさんを説得するためにも、通行量調査をしました。

法人を立ち上げて間もない私たちに貸すオーナーさんは、不安でしょう。私だって、スターバックスやマクドナルドに貸すなら、家賃の支払いが遅れることもないと安心して貸せます。信用というものがなく、半年の間にほかの入居希望者も出てくるなかで、私たちを選んでもらわないといけません。

私個人の住まいも、証券会社を辞めて会社を立ち上げるまでの無職だった間、住宅審査にことごとく落ちていました。家も借りられないほど実積がない自分ができることは、情熱しかない!

目的の物件は2階にあり、その下がオーナーのいる不動産屋さんでした。顔をおぼえてもらうべく、足しげく通い、実家の岡山で買ったきびだんごを持って行っていました(笑)。(実積はないけれども、あれだけ「がんばる!」と言っているならWithGreenに貸そうか)と、未来を見て、仲間になってもらいたかったんです。

ほかからの申し込みも数軒あったようですが、「WithGreenさんにお願いします」と、正式に入居が決まりました。前のテナントさんが退去される、2ヵ月前(2016年2月)でした。

神楽坂店の工事中の風景

交通量調査から緻密な収益計画書をつくる

1号店を、絶対に成功させる。そう考えていた私は、収益計画をつくっていました。収益計画書の内容は、「カチカチ」で調査した①出店を狙っている店舗、②出店予定場所近くにある、似た業態の他店、③(ほかの場所にある)競合となるサラダ専門店。
この3つのリアル数値から、「通行量に対する入店人数の割合」を算出。それを基に、曜日ごとの入店数、1日の売上げ金額予想から、月商を1円単位で出す綿密なものです。

神楽坂の出店予定場所の店前通行量をまとめた資料

さらに、最低赤字にならない売上予測を「弱気」「通常」「強気」と、3パターンつくりました。出店場所が決まれば融資の申請ができるので、オーナーさんと賃貸契約が済んだらすぐに、この収益計画書を持って銀行に行きました。

銀行の担当者には驚かれました。「こんなところまで予測数値を出す人は、いませんよ」(笑)と。刻々と変化する株式や債権の価格を追っていたトレーダーの経験が、活きたのかもしれません。あっという間に、融資審査に通ったんですよね。

創業当初、私と弟を合わせた資本金は600万円でした。そこに、銀行から2500万円の融資が加わりました。入金があったのは、5月のオープン直前の4月です。現金は、手元に3100万円ある。1500万円を見込んでいた初期費用に、余裕ができました。開業する人向けの話になりますが、この余裕は重要です。

どの業界でも初期費用は、見込んでいた1500万円の1.2倍~1.3倍になります。開店時に結局1800万円かかる。そこで2000万円しか調達できていないと、残高は、200万円です。200万円だと、赤字の場合に会社がもちません。

私たちは3100万円調達して、初期費用に2000万円弱かかっても、1100万円のお金がある状況をつくれました。この余裕があることで、スタッフを採用できたり、赤字でも延命しつつ、次の手を打てるのです。

起業と経営に必要なのは、「情熱と論理」

起業家としての熱意や創造性があっても、事業計画や数値などの論理がなければうまくいきません。実際、銀行は、情熱だけではなかなか見てくれません。想いと同時に、成功確率を1%でも2%でも上げるための論理や数値を、積み上げていく。この信条は、いまも昔も変わっていないです。

オープン前にクラウドファンディング、届かない売上げは「外」へ

1号店の成功のためにやれることは、全部する。2016年5月のオープンの2ヵ月前、3月には、WithGreenのサラダチケットを売るクラウドファンディングをしました。

店舗というのは、開店してお客さんが来てくれてはじめて、売上が立ちます。そこにクラウドファンディングを用いれば、開店前からお客さんにお店を知ってもらえます。また、先にサラダチケットを買ってもらうことで、応援してもらえるんです。

5万円分のチケットを買ってくれた人は、これからのお客さんでありながら、すでに30食分を買ってくれて、30回来てくれていることになります。開店前からお客さんに出会うことができたのは、とてつもなくありがたかった。

開店の前後に考えていたのは、「どうやっても成功させる」に尽きます。

綿密な収益計画書からの月の売上目標は、400万円を掲げていました。ところが、開店してみると、300万円~350万円と届きませんでした。この不足分を、どうプラスしていくか?

飲食店の特徴とは、「待つ」ことです。お客さんが来てくれて、売上になります。それをどうにか攻撃できないか?

外に出て行って、案件をつくるしかありません。近隣のオフィスに営業をしたり、ストアマネージャーをしていた謙太が30食、40食を神楽坂通りを歩いて売ることもしました。店を貸し切りにした夜プラン「5000円/1人」も用意しました。400万円にどうにか届かせるために考え抜いて、できることをしていました。

店舗スタッフがいなくなる大ピンチ

苦労したのは、パートナー(店舗スタッフ)です。開店に合わせて募集をしたら、20名採用の予定に、なんと300人も集まってくれたんですよ。60人の方と面談をして、20名が一緒に働いてくれることになりました。「いっしょに、がんばりましょう!」。そうみんなでスタートしたところまではよかったのですが、半年後には20人のうち半分以上が辞めていました。

「絶対に1号店を成功させないといけない!」という目線の私と謙太と、パートナーの意識の乖離が大きかったことに尽きます。

私たちが掲げるビジョンや価値観を説明して、だから「お客さまにこういう接客をしてほしいんです」と共有しないといけませんでした。しかし、私たちもまだ未熟で伝え方が分からない。自分たちの思い描いている意識ややり方についていけずに、辞めていってしまう。そんなループでした。

パートナーが足りない焦りのなか再び募集をかけながら、私と謙太の態度も見直しました。パートナーの育成は長く課題として残ったものの、神楽坂店でその時に採用したメンバーがいまはWithGreenの主力として働いてくれています。苦しくも、自分たちの課題に気づけたいい機会でした。

どんなに計画が優れていても、形にならなければ0点

神楽坂店オープンから3ヵ月、店のことは弟の謙太に任せ、私は、2016年8月から2店舗目に向けた場所探しと、資金調達に取りかかりました。

痛感したのは、1つお店が存在することの価値です。

投資家たちに2店舗目以降の計画をプレゼンするにも、神楽坂店でサラダを食べながら話ができます。「私たちはこういうことをしていて、日本全国につくっていきたいんです!」とビジョンを伝えるにも、実際に店がある。説得力が違いました。

ゼロなのか、1店舗でもあるのかこの差は、世の中への発信の仕方も、受け取った人の刺さり方も大違いでした。

1号店に向けて事業計画書をつくりましたが、いくら緻密でも形にしない限り、0点です。粗削りでもいい。私たちにも、粗いところはたくさんありました。それでも、イチがあるかないか。形にする、やりきることの大事さ。2店舗目を進めるときに、よくわかりました。

「出店ペースが早いのでは」と銀行が融資してくれない2店舗めから、10店舗までの苦労話はまたの機会に。

▶︎第1話はこちら
▶︎第7話はこちら

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WithGreenのサラダボウルで、日本のおいしさを

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編集協力/コルクラボギルド(文・平山ゆりの、編集・頼母木俊輔)


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