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『ゲノム編集』と『遺伝子組み換え』は何が違う?

こんにちは、ぷりごろたです。
僕は数年前まで農学分野の研究に取り組んでいました。
その頃、ありとあらゆる論文に登場していた『ゲノム編集』という技術、皆さんはご存じでしょうか?

名前から想像するに、生き物の遺伝子を改造する危険な行為に思えます。
しかし実はこの技術、2020年にノーベル化学賞を受賞し、IT革命にならぶ大発明として世界中で注目されているのです。

日本での認知度はとても小さく、全国消費者団体の調査によれば、技術の実態までを知っている人は全体の2割ほどでした。(*1)

この記事では、すでに危ないイメージがついている『遺伝子組み換え』とは何が違うのか、を交えつつ『ゲノム編集』の解説にチャレンジしたいと思います。


『ゲノム編集』とは何か?


『ゲノム編集』を端的に言うと、
自然界でも起こりうる突然変異を、人為的に発生させる技術です。

まず「突然変異」について、簡単に説明をします。

全ての生物はその細胞の内部にDNAを持っています。
DNAには生命活動に必要なタンパク質の設計図が刻まれていますが、細胞分裂時のエラー・紫外線などが原因で、設計図の内容が書き換えられることがあります。

この書き換えは僕たち人間の体内でも頻繁に発生している現象なので、生物はこれを修復するためのメカニズムもちゃんと持っています。

しかし時折、重要な設計図が書き換えられたまま修復されずに子世代に遺伝することがあります。この現象を「突然変異」といいます。

突然変異が起こると、その生物集団はこれまでになかった遺伝子を持つことになるため、集団内の遺伝的多様性が大きくなります。

遺伝的多様性が大きくなれば、いろんな個性を持った個体が誕生するため、その時代の環境に適応した個体が生き残りやすくなったり、突然の環境変化があっても種の全滅を間逃れることができます。

ここでお伝えしたいのは、「突然変異」自体は悪い現象ではなく、自然界でも起こりうる生物進化上の重要イベントである、ということです。

本題の『ゲノム編集』は、この突然変異を狙った遺伝子で引き起こすことができる技術なのです。

古来より農耕を続けてきた人間は、大きな遺伝的多様性を持った作物の中から優れた個体を選抜し、それらを掛け合わせることで、よりよい品種を作り出してきました。
優れた性質が発生するには、作物内での偶発的な突然変異に任せるしかないため、品種改良には膨大な手間と年月を要します。

『ゲノム編集』は突然変異の偶発性に囚われることなく、品種改良にかかる手間と時間を大幅に削減することができます。
今後世界的に食糧不足が加速する心配もある中、その救世主として期待されている技術なのです。

では、すでに多くの人に知られている『遺伝子組み換え』とは何が違うのか、次の章で解説します。

遺伝子組み換えとは何が違う?


次に『遺伝子組み換え』を端的に言うと、
ある生物由来の遺伝子を、他の生物に取り込ませる技術です。

自然界でもありうるイベントを狙って起こす『ゲノム編集』とは異なり、
自然界では決して起こらないイベントを作り出すのが『遺伝子組み換え』です。

実際に『遺伝子組み換え』が使われている例を見てみましょう。

https://agrijournal.jp/renewableenergy/36411/ より

こちらは青色の菊です。淡い青が美しいですね。
実は、青い色素を持つ菊は自然界には存在しません。
ですので、この世界の菊をどのように交配したとしても、青色になることはありません。

ではどうしたのかというと、カンパニュラとチョウマメという他の植物から、青色の色素を作る遺伝子を『遺伝子組み換え』により取り込むことで、この菊は青色を獲得したのです。

このように、人間の狙いに忠実な植物を作り出す意味では、『遺伝子組み換え』の方が『ゲノム編集』より強力な手法であると言えます。

ただし、『遺伝子組み換え』により自然界では起こりえないイベントを引き起こすことは、環境や人体に影響しないのか?というところに不安を残します。

今回のまとめ・次回予告

この記事では『ゲノム編集』と『遺伝子組み換え』は大きく何が違うのかを解説しました。
以下にまとめを示します。

次回は、それぞれの手段の実現方法を紹介し、環境・人体への影響について迫りたいと思います。

それでは、また👋

(*1)全国消費者団体連絡会_2022 年度ゲノム編集食品に関する調査 報告書
https://www.shodanren.gr.jp/Annai/pdf/800_01.pdf


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