マガジンのカバー画像

小説・「塔とパイン」

27
作:よわ🔎 概要:45歳、片田舎の洋菓子店のパティシエが、紆余曲折、海を渡ってドイツでバームクーヘンを焼き始めた。 ※毎週日曜日更新(予定) ※作品は全てフィクションです。著…
運営しているクリエイター

2023年3月の記事一覧

小説・「塔とパイン」 #18

小説・「塔とパイン」 #18

僕の住んでいるアパートは、7階建て。外壁の配色は薄いグリーン。周りのアパートの外壁も、ピンクやブルー、ホワイトと色とりどりだから、僕の住むアパートは目立たない感じもある。

東欧に見られるような画一的なアパートの並びと違って、西欧の国々のカラーリングだけじゃなく、装飾や意匠も様々だ。細かくみて見ると細部にこだわっているのがよくわかる。

こういうところが、中世から続く造形物の繊細さが形作られてきた

もっとみる
小説・「塔とパイン」 #17

小説・「塔とパイン」 #17

街のシンボルの教会と教会の前にたたずむ簡易的なストロベリーハウスの間を抜けて、住宅街を歩く。ここら辺一帯は、比較的新しい建物が多い。伝え聞くところによると、戦争のあとに建てられたものが多いからだそうだ。

それでも、十数年は経っている。ヨーロッパの建物は、百年前に建てられた家にそのまま住んでいるというのもあるそうだ。

夕闇が近づく時間帯に差し掛かり、街灯にも火がともった。この街灯も電気が使われる

もっとみる
小説・「塔とパイン」 #16

小説・「塔とパイン」 #16

「Konditorei Weise」から自宅までは、路面電車を使っている。店がある旧市街には駐車場がほとんどない。中世の面影残る石畳が毛細管のように入り組んだ街に、近代化の象徴物が入り込む余地は少ない。

でも、その方がいい。

街の景観や雰囲気、そのまま残っている方が、情緒を育んでくれる。

路面電車は旧市街の一画、南の外れと、北西部にある。僕はいつも使うのは、店から近いという事もあって北西の駅

もっとみる
小説・「塔とパイン」 #15

小説・「塔とパイン」 #15

そろそろ陽が傾いてきた。「Konditorei Weise」への客足も時間が経つにつれて少なくなっていく。店内の喧騒も小さくなってきた。夜遅くまで店を開いていることはなく、ディナータイムにはもう店は閉まっている。それがこの店のスタイルだ。

だから、閉店時間も決まっているようで、決まっていない。売り切れたら早めに終わることもある。とはいえ、延長して長く店を開けるということもない。

時間で縛るんじ

もっとみる