NHK朝ドラ主題歌の意外な事実
毎朝、日本中のお茶の間に笑いや涙や元気を届け続けているNHK朝の連続テレビ小説、通称「朝ドラ」。その歴史は古く第1作目の放送は今から63年前の1961年4月3日。当初は1年間を通じて1作を放送していたが、1975年から年2作制となり現在に至る。
記録が残っている中で最も視聴率が高かったのは1983年4月期放送の「おしん」で平均52.6%、最高は驚異の62.9%。これは民放も含めた全ドラマ史上ぶっちぎりの1位である。(ビデオリサーチ:関東/世帯視聴率)
他にも平均視聴率が40%超が15作品、30%超が30作品と国民的人気を誇っていた朝ドラだが、90年代半ばから雲行きが怪しくなり2000〜2020年代は半数以上が平均視聴率20%の壁を超えられていない。
だから、、、というわけではないだろうが、平均視聴率が30%に到達しなくなった1994年以前と以後を比較してみると、主題歌に大きな変化が見られた。
1961年〜1993年
インストゥルメンタル曲 58%
ボーカル曲 42%
1994年〜2024年
インストゥルメンタル曲 23%
ボーカル曲 77%
歌詞があり、ボーカルがある「歌」が激増しているのだ。
歴代主題歌を歌ったビッグネーム
1993年以前でも、森山良子、チェリッシュ、小椋佳、西城秀樹、桜田淳子、DREAMS COME TRUE、中山美穂、井上陽水など、昭和の人気歌手たちが華やかにオープニングを飾ってきたわけだが、94年からはそれに拍車がかかる。
J-POPの有名どころに手当たり次第に依頼しているのでは?と訝ってしまうほど錚々たるアーティストが名を連ね、なんなら紅白歌合戦より豪華だ。
【紅組】
松任谷由実
MISIA
中島みゆき
竹内まりや
DREAMS COME TRUE
アンジェラ・アキ
AI
宇多田ヒカル
椎名林檎
aiko
絢香
元ちとせ
superfly
あいみょん
松たか子
AKB48
平原綾香
いきものがかり
他
【白組】
福山雅治
桑田佳祐
山下達郎
ウルフルズ
森山直太朗
小田和正
SMAP
秦基博
ゆず
星野源
back number
スピッツ
BUMP OF CHICKEN
三浦大知
GReeeeN
Mr.Children
そして、来期は満を侍して米津玄師ときた!
J-POPのトップに君臨する彼に今まで白羽の矢が当たらなかったとは考えにくいが、おそらくタイミングや条件面など様々な事情で実現できなかったのだろう。
こうして米津玄師まで引っ張り出してきたとなると、もはや朝ドラ主題歌を歌っていない大物を挙げる方が難しい。ベテラン勢ならB'z、宮本浩次あたりか?RADWIMPS、Official髭男dism、Mrs.Green Appleなども候補に上がっていても不思議はない。
今の勢いから見ればYOASOBI、Vaundy、藤井風、King Gnu、Adoもありそうだが朝ドラの視聴者は40代以上が大半(女性が6割)で、30代以下、特に10代〜20代の若年層はほとんど見てないことを鑑みると親和性が低いような気がする。
いや?藤井風は中高年の女性ファンが多いので可能性は高いかもしれないがw
ちなみに110作品中、インストゥルメンタル以外で2度主題歌を担当したことがあるのは倍賞千恵子とドリカムだけである。
朝ドラ主題歌はヒット確実か?
朝ドラは「つまらない作品でも見続ける」人が40%*もいる。その主な理由は”習慣化”だ。*NHK2018年調査より
つまり毎朝流れてくる主題歌を聴き続ける人が、視聴率20%前後だとリアルタイムの関東地区だけで約800万人ほどいる計算になる。
となれば、人気アーティストが歌う主題歌は繰り返しの効果でヒット確実か?と思うが、現実はそう甘くはない。
Billboard Japanが日本国内チャートを発表し始めた2008年以降、インスト以外の曲が28曲あるが約4割にあたる12曲は総合チャートでトップ10にランクインしていない。一瞬でも1位を獲得したことがあるのは、いきものがかり「ありがとう」、SMAP「さかさまの空」、星野源「アイデア」の3曲のみ。
しかも1位を2週、トップ100圏内を25週に渡ってキープできたのは星野源「アイデア」だけだ。(「ありがとう」は11週、「さかさまの空」は8週)
星野源「アイデア」ヒットの要因
では、「アイデア」は朝ドラ効果で売れたのかと言えばかなり疑問だ。
この曲が主題歌だった「半分、青い」の平均視聴率は21.1%と突出しているわけではない。ドラマ自体の評価は、内容云々よりも脚本家のTwitterでの暴走ともいえる炎上騒動があり悪い意味で話題性のある作品だった。
「アイデア」がデジタルリリースされたのは放送開始から4か月後。朝ドラの主な視聴者である中高年に優しいCDは発売されていない。曲自体の良さはもちろんだが、2016年に「逃げるは恥だが役に立つ」の主題歌「恋」で一世を風靡した星野源人気が朝ドラ視聴に関係なくヒットを生んだのではないだろうか?
現在でもカラオケで「アイデア」を歌っているのは圧倒的に”朝ドラを見ない”若者が多い。
低視聴率作品の主題歌でもロングヒット
2022年10月期「舞い上がれ!」の主題歌、back numberの「アイラブユー」はチャート最高位は5位ながら、64週を経ても今なおTOP100圏内にランクインし続けている。
「舞い上がれ!」は平均視聴率が歴代ワースト4位、最高視聴率でも17%を切る歴代ワースト1位である。それでも、主題歌は長期に渡って、幅広い層に愛聴されている。(カラオケでも10〜60代まで満遍なく歌われている)
どうやら、朝ドラの視聴率と主題歌のヒットの相関関係はあまりないようだ。ドラマがコケても売れる曲は売れる。当然、アーティストの知名度や人気が大ヒットに確実に直結しているわけでもないのは言わずもがな。
米津玄師「さよーならまたいつか!」への期待
NHKの制作統括が「米津玄師さんに主題歌を作っていただくという制作者としての夢がかなってしまいました…。」とコメントしているように、同局の米津玄師への期待は並々ならぬものがあるだろう。
”安心と信頼の主題歌請負人”米津の手に掛かれば、作品への奥深い探究と考察、彼独自の繊細なフィルターを通した名曲が生まれてくるのは間違いないだろう。だが、ドラマあるいは曲の評価は視聴者と時代が下す。
昨年、米津が放った2曲の主題歌はいずれも大ヒットとは言い難い結果となっている。それは米津が自覚的に”ポップソングとしての強度”を犠牲にしても「FF16」「君たちはどう生きるか」という作品に全振りした結果である。
さて、今回の朝ドラ主題歌を米津はどう捉えているのだろうか?国民的大ヒットとなった「Lemon」は、最愛の祖父を失った米津が”あなたが死んで悲しい”とただ4分間歌い続けた曲だった。
「さよーならまたいつか!」はタイアップ先と米津自身との間のどこにピンを打ったのか?非常に興味深く春が待ち遠しい。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
よかったらスキ・フォロー・シェアをしてね
米津玄師を深堀りした濃厚マガジンはこちらです。↓
*文中敬称略
*Twitter、noteからのシェアは大歓迎ですが、記事の無断転載はご遠慮ください。
*X(旧Twitter)アカウント
@puyoko29
*インスタグラムアカウント
@puyotabi
<Appendix>
タップで拡大できます
↓