冬野快

アタシだよ

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    ハコモノグループ文芸部門のマガジンが登場。うれしいね。みんな

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静寂の海

 宇宙は真空のため無音であり、趣味の古い歌人などはよくそれを”静寂の海”などと喩えたものだった。何十年も前の風俗である。  今どきのOSには疑似立体音響システムが積まれているから、全くの無音ということは──少なくともパイロットにとっては──無くなった。機外の衝撃や熱、あるいはそれ以外の重力波を検知すると、システムがそれに応じた音を作って教えてくれるのだ。宇宙はずいぶん賑やかになって久しい。  しかし、システムの不具合か、電磁波の干渉か、はたまた説明し得ぬ何者かの仕業か──予期

    • 夜光雲

      長いながい夏の匂い 柔らかい記憶 咲いた花が散るまでよりゆっくり引く潮 月が昇るあとを追って吹くぬるい風 深いふかい夜の空 雲が游ぐだけ ねえ 聞こえるかなこの声 僕らまだここにいて 穴の空いた心で それなりの日々を歌って 忘れてった傘とか 書きさしの手紙とか こぼれた全部を乗せたまま 高くたかく 眠れ 夜光雲

      • ばいばい、サニー

        今日はなんだかひどく眠いや ずっと歩きどおしだったから この旅に果てはないから 立ち止まる日があってもいい 大事なものはひと握り 忘れたいことは山のように そんなもんだ それでいいのだ この重さの全部が僕だ 暗くなって 暗くなって 誘蛾灯だけの夕になって 暗くなって 暗くなって 隣の君も見えなくなって 振り返って 振り返って 遠くの星と目が合った 太陽を置いていったのは 僕たちのほうかもしれないね 明日になったらどこへ行こうか ずっとこんな話がしたいな この旅に果ては

        • 雨上がりまでふたりぼっち

          午前10時の無人駅で 来ない電車を待っていた 君はひとりで待っていた 雨が止むのを待っていた 屋根の雫のリズムもそこそこに 君の涙は見えないけど 持っていた傘を差し出した 濡れたまんまじゃ風邪をひくからさ 君が心配するほど世界は良くないし 期待するほど悪くもない もう一回等身大のままで 深く息を吸い込んで 藍寄りの灰色した高架下 自分の気持ちだけを透過した 言葉はいらない なんてことはない 言ってくれないと分かんない 遠くに見えるスクラップヤード うず高く積もるゴミの

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          ある花のあとに傘ひとつ

          なんでこんなに晴れちゃったかな 結局パノラマ大快晴 今週いっぱい雨降り続きの 予報は手のひら大回転 君がいなくて広くなった家も これで見納めだからって 清々するさと強がる言葉も 出やしないけど 悲しい時に雨が降って 嬉しい時に晴れ渡って ドラマみたいにはいかないし 終わりなんかないよ 今日の天気は生憎の晴れ リュックに収まる思い出抱え 雨が降ったら延期だって 日和る私を見透かして 今日の天気は生憎の晴れ 二度と帰っては来ないからね 雨が降ったらまだ泣いていようって 惜

          ある花のあとに傘ひとつ

          にんげんもどき

          決まった時間に起きること 遅刻せずに出社すること サボらずに仕事をすること 帰宅したらご飯を炊くこと 友達と喧嘩しないこと 喧嘩したらちゃんと謝ること 日々のささやかな幸せに せめて泥だけはかけないこと ネジの2本、3本外れた頭で 明日のことを考えても 止まった時間と流れる涙が渦巻くだけ にんげんもどきが走る にんげんもどきが歩く にんげんもどきが止まる 肩で息をしてる にんげんもどきが座る にんげんもどきが俯く にんげんもどきが呟く 愛されたいなと呟く 自分の居場所

          にんげんもどき

          スイングバイ、それから、

          信号機が赤から青に変わるまでの数瞬間 思い返せば今まで色んなことがあった 出会って、別れて、また出会って繰り返す 季節はいつの間にか夏から冬になっていた 信号機が赤から青に変わるまでの数瞬間 思い出せずとも残る足跡にいとまは無いが 触れて、離れて、遠回りしたサテライト 季節はまだまだ半周未満をゆっくり周回中 適当に繋いだプロトコル 不慣れなステップで二人踊る 間違う度に少し戻る 付かず離れずの明日を想う エンドロールの長いしっぽを 抱えて夜だけ眠れる僕の目を開いた君 雲

          スイングバイ、それから、

          どっちみち

          あれから何年経ったっけ 楽しいことだけ曖昧で 悲しいことにはバイバイできない 胸の痛みだけノンフィクション どう生きようにも不器用だ 気付けばすっかり無軌道だ レールを外れた青春の死骸が アリに運ばれてく あの日の話をしよう 言葉にして、藍だけを嘘にしよう 錆の浮いたバス停 手をつないだ帰り道 冷めきったアールグレイ 止まってたんだよどっちみち 白いばっかりの明日へ 動き出す退屈の日々 炎天下だけが夢 笑っていたいのさどっちみち

          どっちみち

          晴天ブルーバック

          僕は待っている 君を待っている 街は眠っている 嘘みたいに この手をとってさ さらっておくれよ 理由はまた今度でもいいからさ 好きだとか愛してるとか 青い言葉はよく見えないな 指先の熱ばかりが本当だったんだ 透明に赤をひとすじ 何かがはじける音がした 晴天ブルーバック 夢中な 浮遊感 矛盾なく 綺麗なラストはもういらないよ 晴天ブルーバック 夢中な 数分間 狂った 時計の針はまだ直さないで

          晴天ブルーバック

          フィクション

          白と藍色が溶け合って 街灯がそっと目を覚まして 手を繋いで歩く帰り道 二人の影だけが伸びた道 「昼がおわる」と彼は泣いた 「夜がはじまる」と彼女は笑った 星は巡ってる 風は凪いでいる 前に進んでく 涙を置き去りにして 喉は渇いてる 呼吸をしてる 手のひらの温度だけが 全部だったらよかったのに 十把一絡げの思い出を けんけんぱのリズムで飛び越えて 遊び疲れたら木陰でひと休み ひと休み 季節は巡ってる あの子を待っている 夢と分かってる 心とはちがう場所で 星は巡って

          フィクション

          エンディングプロトコル

          旅の端っこを探している 明日のない今日を探している 積み上がる昨日は置いていく おもいだけの荷物も置いていく 繋がる度に増える傷も痛みも 私の輪郭線だって言うなら 溶かして薄めてこの指も声さえも 夏の彼方に 全部放り出して 今すぐ終わらせて 傾いた日の陰ででも眠らせて 私を忘れてよ 君のことも忘れるから 入道雲ばかりが眩しい そんな顔しないでよ 例えば誰かのいたずらで ボタンの掛け違いみたいにさ もっと早くに君と会えてたら もっと素直なことが言えたかな 今朝は久しぶり

          エンディングプロトコル

          ねことかげ

          ねことかげ 猫と影 猫、トカゲ 名前を呼ばれ ねことかげ 猫と影 猫、トカゲ ただ手を取られ 雨の日は傘を忘れずに 晴れの日はバカみたく眠い 黒いしっぽの寝ぐせはご愛嬌 トーストとコーヒーが今は怖いよ ちびた鉛筆、欠けた消しゴム 切れた電池をカバンに押し込む 目に見えるものだけが全部じゃないけど まずは見たものを見たままに A turning coin テーブルの上で A turning coin 裏も表もない A turning coin それでも今日こそは A tur

          ねことかげ

          君を待っていたんだ

          言葉ってなんかさ 雨上がりの水たまりみたいだ 日差しが戻ったら 乾いて消えてまっさらになるから 忘れられたビニール傘みたいに 片方だけの長靴みたいに 影にたたずんで 君を待っていたんだ 君を待っていたんだ その色、かたち、足跡を思い描いて 雨を待っていたんだ 夕立を待っていたんだ 虹が見えない僕の手を掴んでくれる 君を待っていたんだ 思い出のことずっとさ 一人で抱える傷だと思っていた 軒下に跳ねる しずくの群れをぼんやり眺めていた ずぶ濡れの僕たちのこれまでと 君が歩

          君を待っていたんだ

          どっちもどっち

          どっちもどっち ぼっちとロンリー 道理と論理 ドングリとドングリ あそこが違う 俺はああじゃない 傍から見たなら大体同じ どっちもどっち 正気と狂気 ゾンビとキョンシー ドングリとドングリ 全然違う 一緒にすんな 傍から見たなら大体おなじだって ソーダ片手にホラが吹きたい 根拠はないけど未来に期待 したいことばかり下から積み上げ 自壊寸前の新時代到来 浮き足立つけど目だけ据わってる 酸いも甘いも皿ごと食らってる 寝不足のまま踊って歌ってる 健康だけが今日も不安です 悲観

          どっちもどっち

          メモリーシーラー

          ドリップコーヒーこぼした便箋に ペンで猫の絵を描いた 吸って、吐いて、吸ってのリズムに カフェインがそっとエントリー 自分を信じてないから全部を気圧のせいにする けどほんとは誰もいないから 今日も今日が終われない 空っぽのコンビニに 魔物だけが座っている ラインマーカー 脳に線を引いて幾星霜 夜が怖い少女は今日もひとりぼっち メモリーシーラー 目を閉じればいつも一瞬で 明日の僕は夢の中でさよならも言わないの トリック論理重ねた投稿に ペンで猫の絵を描いた 吸って、吸って

          メモリーシーラー

          せめて幸よ多くあれ

          本日は晴天なり ミミズも焦げるほど 積乱雲が見下ろす町の方々で鐘が鳴る 暗いところから来て暗いところへ帰るなら 君たちの道行きにせめて幸よ多くあれ 昨晩声を交わした友達のドックタグを 今日拾って帰るなんてよくある話だ ありきたりを泣いて当然を愛せる無邪気な 君たちの道行きにせめて幸よ多くあれ 人を殺した夜の、星がよく見えるのはなぜ 商店街をくぐり 長いながい坂道を登って 遠くに見える光に名前なんか付けてさ 眠い目をこすって 硬く冷たい銃を握る 君たちの道行きにせめて幸よ

          せめて幸よ多くあれ