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冬ピリカグランプリ入賞作品

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冬ピリカグランプリ入賞おめでとうございます。 シロクマ賞(1作品)・各審査員賞(5作品)・すまスパ賞(8作品)
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記事一覧

短編小説「灯りに向けて進め」(読了時間2分)冬ピリカグランプリ応募作

 アグラ岬灯台の発光人間は、恋をしていた。  人間は誰しも微量に光っているが、どの町にも1人や2人、圧倒的な光を放つ発光人間がいた。太陽に弱い発光人間は、夜に働く灯台守になる。その身体から放つ光が船乗りたちの道標になる。 「よう、今日も助かったぜ」  船乗りが灯台に訪れることもあった。手には酒を持っている。 「また迷いそうになったんですか? 天候が悪いのに漁に出るから」 「子供を食わさなきゃならねぇからな。お前が毎夜、光っていてくれるから帰って来れる」  船乗りは発

手渡す灯り

あなたは心の中に、灯りを持っています。それは小さいけれど、人の心をあたためることのできる灯りです。そしてこの灯りは、他の人に手渡すことができます。あなたはできるだけ多くの人に、灯りを手渡したいと思っています。 あなたが家からでかけるとき、ちょうど郵便屋さんがきていました。あなたは灯りを一つ郵便屋さんに手渡しました。郵便屋さんの心にも、灯りが灯りました。 あなたはバスにのります。バスを降りるとき運転手さんに灯りを手渡しました。運転手さんは驚きましたが、運転手さんの心にも、灯り

原稿用紙を一行ずつ破って燃やす話【#冬ピリカ応募作】

 世界一好きな作家が亡くなった。  最愛の人だった。  長年連れ添った妻だった。  予想通りに、化けて出た。 「本を全部燃やして」と妻は言った。  無茶な話だ。著作数は百冊を超える。 「生原稿だけでもいいから」  妻は肉筆にこだわった。丁寧に文字を書き、一文字を書いている間に次に書く一文字を考えているのだと言っていた。「一文」ではなく「一文字」だった。そのためか手直しが少なく、締め切りに遅れたことはない。 「嫌だ」と断った。 「原稿含めて、愛してた」 「燃やしてくれなけれ

『希望の歌を』

列車「来年」号は懸命に走り続けていました。 12月31日の深夜0時、1月1日の午前0時に間に合うように。 毎年、その時間ぴったりに引き継ぎをするのです。 「来年」号は「今年」号になって、新たな線路を走り始めます。 「今年」号は「昨年」号になって、車庫に戻ります。 少しでも遅れると、永遠に人々から暦が失われてしまうのです。 「来年」号は走り続けました。 365両の客車を従えて長い線路を走り続けました。 坂を登り、カーブを曲がります。 雨の日もありました。 風の日もありました。

「灯りの配達。」/#冬ピリカグランプリ  ショートストーリー

今日は大晦日。 私が待っているのは「灯りの配達」だ。 いつも12月26日から30日までの間に配達される。大晦日の配達は今までなかった。24日と25日は別の配達人たちが忙しくて、宇宙の交通が渋滞になるため「灯りの配達」は26日からという決まりになっている。そして大晦日には、配達人たちもお休みをとる。 だから、大晦日に普通「灯りの配達」はこない。もちろん大晦日に配達される場合もあるらしいので、私はそれに期待をしている。 不安に駆られる。やっぱり、私が原因かしら。 もしかしたら

【ショートショート】おでんのつゆ20円 お気軽にどうぞ

小さい老婆が、弱々しく声を掛けてきた。 「おでんのつゆを、売ってくださいませんか」 「・・・え?」 真冬の深夜2時半。ふと見上げたバックヤードのカメラに映る老婆。最初は幽霊かと思った。ビビりつつ、レジに出て声を掛ける。高齢のホームレスのようだ。 「つゆを、売ってください」 老婆は右手を差し出す。一瞬身構えたが、彼女の手には10円玉が2枚。 「すこしでいいので、おねがいします」 彼女の指先は氷のように冷たかったが、10円玉は温かった。コンビニの灯りが見えるまで、無くすま

しんしんと降る

「ほら、雪が降ってるねぇ」 「ゆき、ふってる」 「雪が降ってるねぇ。しん、しん、って。ね?」 「うん、ゆき、しん、しんって!」 暗くなった窓を眺めると 灯りに照らされて 車内の様子が映る。 列車のクロスシート、 向い合せの背もたれを隔てて 前に座っている親子連れの姿が 窓に反射して映っている。 母親と子供。 子供は毛糸で編まれた帽子を被っている。 自らの吐く息で白くなった窓を 短い指でなぞっている。 「しん、しんって、ふってるね!」 母親がたしなめる。 「こらっ、  

短編小説|せっかく帰ってきたのに

 せっかくあなたのもとへ帰ってきたのに、私は部屋に入れてもらえません。窓の前で声を上げたら、カーテンを閉められてしまいます。部屋から出てきたところに近付いたら、見向きもされません。あなたは、まるで人が変わったよう。  年季の入った薄暗いアパートですが、ここで一緒に暮らした日々は明かりに満ちていました。眠るときも、私を置いて出かけるときも、あなたは明かりを消さずにいてくれます。それは暗くなると、寂しがり屋な私が声を上げるから。  あの日も、病気で動けなくなった私をいつまでも

切り取り線と糊代の相性【掌編小説】

僕は27歳の時、切り取り線を持つ君に出会った。 細い腕には、等間隔に配置された点線。きれいにカットできるミシン目も付いていた。  僕には糊代がある。  この国では「山折り」「谷折り」が多数を占め、次いで「糊代」、最も少数派なのが「切り取り線」だ。 これらは皮膚の一部であり、タイプの別は血液型の違いみたいなものだ。 世間では、タイプによって相性や性格の違いがあるといわれているが、科学的な根拠はない。  糊代は、僕の腕の場合、外側と胴体側の2箇所に付いている。1センチ幅

【掌編】赤と白、それからオレンジ。

母と腕を組んで、買い物へ出かける。 元旦から営業しているスーパーは乏しく、駅前まで足を伸ばさなくてはならない。足腰の弱った母と連れ立つとなると、相応の時間を要する。三十センチに満たない歩幅で、ずりずりと一歩、また一歩。青信号の時間を目一杯使い、横断歩道を渡る。 「かまぼこが無いの」 そう母が騒ぎ出したのが、朝の六時。私も弟も布団から飛び起き、それを諫めた。なくてもいいではないか、と言っても聞かない。弟がネットで調べ、駅前ならば午後からやっているというので、こうして出向い

その灯りはピンク【ショートショート/冬ピリカグランプリ】

年末近いこの季節なら、出勤時刻の16時には間もなく夕闇のカーテンが下りてくる。 パート先は、県内では一番人気の地域密着型コンビニエンスストア。店内調理場で作ってすぐ並べる惣菜や弁当が、根強く支持されている。 バックヤードで着替えると、フライヤーとコンベクションオーブンの電源をオン。今日の製造数と種類を確認する。 商品は季節や天候から日毎に細かく算出され、指示される。調理場は朝昼夕の3交代制で、基本的にはそれぞれの担当が1人で仕切る。製造以外に洗浄や仕込みなど定時に終わらぬほ

明かりの灯る森

夜になると無数の明かりが灯る森があるという。 その森には沢山の生きものが住んでいた。 動物や植物…そして、こびと達。 それぞれがみな共に支え合い生きていた。 森に住むこびとには彼らにしかできない大切な役目があった。 夜になると森に明かりが灯る。 これはこびと達の大切な仕事だ。 毎晩こびと達は森のあちこちに小さな明かりを灯す。 それは外の世界に住む人間には見えない小さな優しい光。 こびとはこの森でこの大切な役目を担っていた。 夜に森を明るく照らしてしまっては ここに暮ら

虹色の世界

「わたし」、いや「ボク」でないといけない。 私は「男性」。でも、ずっと遊び道具は人形だったり、子供用の化粧セットだったりした。それが私の普通だった。 だけど、そんな「普通」で居られるのも小学校高学年までだった。同級生に「おとこおんな」と笑われたことは絶対に忘れない。あの日から私の世界はモノクロになった。海も山もカラフルな虹さえも。 「ルイ、早く着替えないと体育遅れるぜ」 幼馴染の龍が、私の方を見ずに教えてくれる。 「ありがとう。すぐ終わるから」 あぁ。廊下に出た龍の

北風とお月さま|#冬ピリカグランプリ

北風は、実はとっても悔しかった。おひさまに負けたことが。 ー そもそも、暑けりゃ誰だってマントを脱ぐじゃないか。 北風は『マントを先に脱がせる競争』の勝利の行方は初めから決まっていたようなもんだ…と、後悔していた。 ー お月さまなら、勝てるかな。 ある満月の夜、北風はお月さまに声をかけた。 「こんばんは、お月さま。僕は北風です。少し僕と遊んでくださいませんか。」 お月さまはにっこりと笑い、 「こんばんは、北風さん。私もこんな寒い夜は誰かとお