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SOS


『怖い、助けて。』





私は今震えている。手足も、上手く呼吸が出来なくて塞がらない口から出る息も、脳も、全てが恐怖で震えている。動悸がして、胸が苦しくて、脳に酸素が行き渡らなくてめまいがする。






私はわたしに殺されそうになっている。





ふとした時には常に死に方について考えている。
この線路に降りたら次の瞬間光で記憶が飛んでしまえるように思えるが、実際には物凄く痛いのだろうか。
あの川で溺死した人は何人いるのだろうか。あの黒に吸い込まれていくのは一見楽なように見えて実はすごく苦しいのか。
頸動脈を切るのはどうだろう。出血性ショックですぐ死ねるように思えるが、そう早くはくたばらず痛覚がまさってしまうのか。



私は死にたくない。でも、もう一人のわたしにいつ殺されてもおかしくない。明日生きている保証もない。逃げたくても、どこまで逃げてもついてくる。私が怖いのは、何百万分の一の確率で出会うかも知れない不審者ではない。私が誰よりも怖いのは、切っても切り離せないここにいる自分自身だ。私は、自分を殺すかもしれない殺人鬼の顔を見ることが出来ない。その鋭い目が、鏡に映るその人物が、私を恐怖に陥れるかも知れない。



私には何もない。普通以上に達しているものが何もない。美貌もなければ人に好かれる魅力もない。いつまでも子供で、自分で正しく状況判断する力や正解を選べる思考力もない。そばにいて私を見てくれる人もいない。スポーツや音楽といった特技もなく、認められるような能力は何一つ持っていない。
ただ一つだけずっと頼りにしていた、私の最後の砦は勉強だ。その勉強さえも出来なくなればわたしは私をこの世界から排除しようとするだろう。一週間後に大きな試験がある。恐らくその試験に合格しなければ私はわたしに殺されてしまう。大袈裟に聞こえるかも知れないが、それが冗談だと否定できないほど私はわたしに嫌われ、殺意を向けられている。




私が年を越すための第一ミッションは、その試験に合格することだ。

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