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(連載小説)秘密の女子化社員養成所⑱ ~聖なる夜の性なる出来事・その1~

更に季節は1カ月ほど進み、小瀬戸島にもクリスマスがやってきた。

外との行き来も自由にままならないこの島で研修生はもとより社員たちも毎日業務や研修に励んでいる中、毎年クリスマスの日には会社より島にいる社員や研修生たちが楽しめる行事を用意してくれていた。

とは言え一番下っ端に近い身分の悠子をはじめとした研修生たちがクリスマスだからと云って無条件で楽しませてもらえる訳もなく、そこはメイドたちに交じってあれこれとこき使われていた。

そう言う訳で悠子たち研修生はいつもの女子社員用の制服とは違ったサンタクロースをイメージした赤いメイド服を着せられて朝からずっとクリスマスパーティーの準備に余念が無く、パーティー用の料理やオードブル、それにケーキや各種スィーツを作る手伝いや会場の設営・飾りつけなどなど山のようにある仕事を前にあれこれとてんてこ舞いしながら館内を忙しく駆けずり回っていた。

同様に保養所棟でも週末で且つクリスマスイブと云う事で予約の宿泊客が多く、こちらもスタッフみなてんてこ舞いしながら準備や接客をしていた。

そして午後になり、準備が整うと社員たちは着飾って大ホールに集合し、クリスマスパーティーを楽しんでいた。

豪華景品の用意されたビンゴゲームや「女の園」だけあってメイドたちを相手にSMやレズエッチをモチーフにした際どい内容の秘密のショーもあったりとなかなか趣向を凝らした内容と演出で、日頃は島での単調な生活を送っている社員たちはここぞとばかり楽しんでいた。

またクリスマスイブと云う事でカップル向けには二人掛けのテーブルで向かい合って食べるちょっとしたコースディナーを用意してくれており、それ以外の社員にもブッフェ(バイキング)スタイルの豪華な夕食が待っていて皆それぞれにおいしく食事やお酒を頂いていた。

カップル、と云ってもここは男子禁制の女の園で、しかも全員レズビアンかバイセクシャルと云う場所なので周りの目を気にする事なく女どうしでそれぞれがラブラブモードに入り恋人気分を満喫していた。

そしていわゆる「ぼっちクリスマス」が嫌な社員も割と居て、その場合はお相手の居ない社員どうしで「クリスマス限定カノジョ」と呼ばれるイブと翌日だけの恋人関係を結んで即席のビアンカップルとなり、一連のクリスマス行事を楽しんでいた。

もちろんこれがきっかけでクリスマスが終了しても恋人関係を維持するビアンカップルも居て、それもあるのかいい相手を見つけようとさながら研修所棟と宿泊棟はクリスマスが近づくにつれ恋愛モード一色になっていた。

悠子たち研修生も相手が女性であれば恋愛自体は禁止されていないし、むしろより早く女らしくなるためにも恋愛は奨励されている位なのだが、ただ如何せん日々のハードな女子化研修をこなすのに精一杯でなかなか恋愛をすると云うところまでは行っていなかった。

「はー疲れたねー、朝からほんとご苦労さま。」
「悠子ちゃんこそおつかれになったんじゃない?。お姉様たちの無茶ぶりも結構あったしねー。」
「あははっ!。まあそれはそうなんだけどわたし研修生だからどうこう言える訳もないし・・・・・。」

夕食が終わり、やっと解放された研修生たちはこんな感じで悠子の部屋に集まり、サンタコスのメイド服のままではあるがくつろいだ雰囲気の中でおしゃべりを楽しんでいた。

同室の遥香は最近「友達以上恋人未満」になった同僚社員とカップルディナーの後は引き続き二人で過ごしているようでこの部屋には居ないし、麗子も自分の「カノジョ」と自室で過ごしているようで今日は悠子も二人から求められる事はなさそうだった。

それに同じ研修生でも穂波はやはり研修生らしからぬ女性らしさからか「ぼっちクリスマス」を過ごしたくない先輩社員からお声が掛かってクリスマス限定カノジョとしてお相手をさせられているし、涼子は元々水商売のアルバイト経験があるせいか「バーシトラス」での接客がここのところ好評で、それでこちらも同じく「クリスマス限定カノジョ」としてお声が掛かって先輩社員のお相手をさせられていた。

と云う事で残った悠子、紗絵、純子の3人は夕食会場からもらってきたオードブルやスィーツをつまみながら部屋で他愛もないおしゃべりをしていた。

その頃保養所棟では宿泊部の部長兼宿泊棟支配人の村上 亜希子(むらかみ あきこ)がバーシトラスの和香子ママと一緒になって大層困惑した表情を浮かべていた。

「どうしましよう・・・・・まさかうちのエース格の町田 沙也加(まちだ さやか)が気にいらないだなんて・・・・・。」

今日はクリスマスイブでもありまた週末と云う事で保養所も満室で、やってきた大半の宿泊客が「バーシトラス」で呑んでそのままキャストの女性を「お持ち帰り」し、クリスマスをラブラブの恋人気分で過ごしていた。

「ほんと困ったわね・・・・・”倉本先生”も沙也加をチェンジしろだなんて・・・・・それに今日はイブだから他の女の子もみんな”売約済み”だし、補充するにもみんな予定が入ってるみたいで難しいのよね・・・・・。」

「そうよね・・・・・。だけど”倉本先生”は会社としても”ユリカクラブ”としても超VIPだから、先生にクリスマスイブに何も無しでお帰り頂く訳にもいかないし・・・・・。あーどうしよう?。」

「倉本先生」とは代議士・倉本 恵美(くらもと めぐみ)の事でこの小瀬戸島の保養所でクリスマスイブを楽しむためにお忍びでやってきていた。

恵美は当選3回目の中堅どころの代議士で、最近党内や国会内でも女性問題に熱心に取り組むことで頭角を現してきていた。

また女性問題は元より、LGBTの様々な問題にも精力的に取り組んでいて超党派で構成される「LGBT議連」の代表代行と云う立場にもあった。

LGBTに関して対外的には本人はアライ(支援者)と云う立場で公言・活動していたが、実のところは恵美自身はバイセクシャル、それも限りなくレズビアンに近いバイセクシャルと云う性的嗜好を持っていた。

まだ同性愛がタブー視されがちな現在の日本社会に於いて恵美のように立場のある人物が自分はLGBTですとカミングアウトする事で格好のマスコミの餌食になったりする可能性や、また後援会をはじめ一般の有権者・支援者たちにも必ずしも受けがいいとは言い切れず、そうした事もあり恵美は密かにこうして小瀬戸島にやってきて自分の性的欲求を満たしていたのだった。

何しろここは離島且つ男子禁制で、しかも予約客以外は入れない保養所の中までは流石にしつこい興味本位のマスコミも来ない。

またここに居るスタッフも宿泊客も全員レズビアンかそれに近いバイセクシャルで皆当たり前のようにレズ行為に励んでいるから自分の事で精一杯で他の宿泊客まで注意が行き届かないし、きちんと躾られているのもあって情報が漏れる事はまず無く、安心して遊んだり性的欲求を満たす事ができる。

なので恵美のような立場の人間にはここはうってつけの場所で、それもあってわざわざ予約を取ってクリスマスイブにやってきたのだがどうやら相手が気に召さないようで、これから一夜を過ごす気分にはなれないようだった。

そうこうしているうちに部屋に居る恵美から和香子ママに催促の電話が入ってきた。

「ママさん、誰か代わりの子は準備できたかしら?。」

「いえ・・・・申し訳ありません・・・・・まだ人選中でございまして・・・・・。」

「そう?、でもそろそろ決めて誰か部屋に寄越して頂かないと朝になっちゃうんじゃない?。」

「それはそうなのですが、何分今日はクリスマスイブでご予約のお客様も多く、また他の社員達も予定が詰まっているようでなかなかいい子が今のところ見つからないのでございます・・・・・申し訳ありません・・・・・。」

「まあ誰でもいいとは言わないけれど、なるべく早く見つけてくださいな。この際だから”手垢の付いてない子”だったらそんなに慣れてなくてもいいからお願いね。」

「はい・・・・・かしこまりました・・・・・。」

そう言って一旦電話を切った和香子ママは村上支配人と一緒に困惑した表情のまま再度社員リストをめくっていた。

「支配人、どうしましょう?。ほんとに今日は代わりの子が居ないわ。はあ・・・・・。」
「そうねえ・・・・・。いっそのことあたしが倉本先生のお相手をさせて頂こうかしら・・・・・。」

村上支配人が自らそこまで言うほど事態は切羽詰まってはいたが、言った本人もそして聞いている和香子ママも自分で自分の事は「手垢」が付きすぎる位ついているのは分かっていて、解決策になるどころか余計に恵美を怒らせてしまいそうだと感じていた。

そしてため息をつきながら社員リストを見ていた村上支配人の手が一瞬止まりこう言った。

「ねえ和香子ママ、倉木先生は”手垢が付いてない子”がいいっておっしゃったのよね?。だったら・・・・・。」

そしてその頃悠子は紗絵と純子とのおしゃべりを明日もまた早い事もあって適当に切り上げてお風呂に入り、寝る準備をしていた。

「はー、今日も疲れたなー。あら、誰かしら?。」

と部屋のドアを誰かがノックするので扉を開けるとそこにはなんと村上支配人が居た。

「あら支配人、どうされました?。しかもこんな夜遅くに?。」
「菊川さん、あなたこれから誰かと会うとか予定が入っているとかある?。」

そうかなり焦った口調で村上支配人が言うのに対し悠子は首をかしげながら「いえ、見てのとおり今日は明日に備えてもう寝るだけです。」と答えた。

「よかったー!!、だったら今からこれに着替えて臨時の”夜間研修”に出てもらうわね。ささ、準備するわよ。」

すると村上支配人はそう言いながら悠子の部屋に無理矢理押し入るように入ってきた。

よく見ると手にはレースの純白のミニドレスを持ち、その他小物類一式が入っている紙袋も提げていて、その慌てたような口調と態度もあってさすがに悠子は何がなんだか分からなくなっていた。

「支配人、もしかして今”臨時の夜間研修”っておっしゃいました?。」

「うん、言ったわよ。」

「と云う事はこれからわたしはどなたかの”夜のお相手”をさせて頂くのでしょうか・・・・・。」

「そうよ、その通り。行事が済んでおくつろぎのところ悪いんだけど、他に誰もいなくて申し訳ないけど菊川さんにお願いするしかないの。」

「・・・・・。」

時計を見ればもう夜の9時はとっくに過ぎ、周りはとっぷり日が暮れてクリスマスイブと云う事で僅かに灯っているクリスマスイルミネーション以外は行き交う船からの灯りや漁火さえもほとんど無く、灯台と月明かりだけがほのかに島と海を照らしているような真夜中モードなのにこれから「夜のお相手」をするよう村上支配人は至って真面目な顔をして言うのだった。

そんないまいち状況がつかめていなく驚いた表情の悠子に村上支配人は矢継ぎ早に「ほら、これに着替えてドレッサーの前に座って!。あたしがメイクしてあげるから!。早く!。」と言いながら紙袋からセクシーなランジェリー一式を出し、持ってきた白のレースのミニドレスを手渡した。

「は、はい・・・・・。」

何がなんだか分からないまま、悠子は渡されたセクシーランジェリーを付けてミニドレスに腕を通し、ドレッサーの鏡の前に座ると寝る前と云う事でメイクを落としたばかりですっぴんの悠子の顔に村上支配人が再びファンデーションを塗り、メイクを始めた。

「ほんとなら美容課の社員にメイクしてもらうんだけど、皆クリスマスモードに入っちゃっててお休みしてるから仕方なくあたしがメイクするわ。でも多分菊川さんが自分でメイクするよりは上手だと思うから我慢してね。」

そんな「我慢してね」と言われてもメイクは元よりこんな夜遅くなってからいきなり「臨時の夜間研修」で誰かの夜のお相手をしなくてはならない事こそ勘弁して欲しいのだが、そんな意見を研修生としては言える訳もなく、またそれ以上に矢継ぎ早に言いくるめられてこうして着替えさせられメイクされている現状に考える暇もなく、結果的に従わざるを得なかった。

メイクを終えてウィッグを被ってカチューシャリボンを頭に付け、控えめな小ぶりのピアスをすると、そこにはクリスマスらしい白のレースのミニドレスを着ておめかしした清楚でかわいらしい感じの「年頃の女の子」ができあがっていた。

「まあ!菊川さんってとってもこのレースのミニドレスが似合うじゃない!。これだったら”先生”もきっとお気に召していただけるわ。じゃあお部屋に行くわよ。」

「は、はあ・・・・・。」

そして悠子はメイク直しの道具やハンカチ、ティッシュ等の小物類一式をハンドバックに急いで詰め、ヒールを履いてヨロヨロしながら村上支配人に連れられて保養所棟へと急いだ。

保養所棟への道すがらでは2次会用に開放してある大食堂をはじめ、施設のそこらかしこで社員や宿泊客がクリスマス気分を満喫して盛り上がったりラブラブモードに浸っているのが見て取れる。

それを横目で見ながら村上支配人は悠子に「あのね菊川さん、今日これからあなたがお相手をする方は結構なVIPのお客様だからそれは先に言っておくわ。」とさりげなく言った。

「え?・・・・・ぶ、VIPのお客様をわたしがお相手するんですか?。」

「そうよ。今日はみんなこんな感じで予約済で他に誰も居ないのよ。」

「はあ・・・・・でもまだそんなに夜のお相手の経験もない研修生のわたしがVIPの方にご満足いただける事をして差し上げられるとは・・・・・。」

VIPのお相手をしないといけないと聞かされ、いきなりの夜の夜間研修で面倒な事この上ない気持ちだったところに更に自分にそんな大物のお相手ができるのか不安な気持ちが上乗せされ、悠子はさすがに困ってしまっていた。

「でも多分なんとかなるわ。あなたのその清純なミニドレス姿を”先生”もご覧になられたらきっとお気に召してくださる筈よ。あとは菊川さんが精一杯おもてなしの心で出来る限りの事をしてさしあげればそれでいいからね。」

保養所棟に入るとどの客室からも既に事に及んでいるのか女どうしの甘い吐息や感じてしまっているのか喘ぎ声などが漏れて耳に入ってくる。

「あん・・・・・ハアハア・・・・・イイ・・・・・。」

「お姉様ぁ・・・・・感じるぅ・・・・・チュパチュパ・・・・・。」

村上支配人には「精一杯おもてなしの心で出来る限りの事をしてさしあげればいい」と言われるものの、果たしてそんな簡単にレズビアンのVIPのお相手が数か月前まで男でしかも女装さえした事のなかった自分にできるのかと自問自答しながら悠子は重い気分のまま客室への階段を昇っていた。

「先生、大変お待たせいたしまして申し訳ございませんでしたが只今代わりの者を連れて参りました。」

そう言いながら村上支配人が客室のドアを開けると中にはナイトガウンを着た女性と三浦所長がワイングラスを傾けながら談笑していた。

「いえいえ。わたしはこのワインを飲みながら三浦所長にお相手頂いていたんで楽しく待ち時間を過ごさせて頂いたからいいの。あらあー!それにしてもかわいいお嬢さんじゃない!。ささ早く入って。」

「は、はい・・・・・し、失礼いたします・・・・・。」

「菊川さん、こちらの方は倉木恵美先生。ほら、ご挨拶なさい。」

「は、はい・・・・・初めまして、き、菊川悠子と申します。ふ、不束者ではございますが、どうぞよろしくお、お願いいたします・・・・・。」

そうしどろもどろになりながら挨拶をする悠子に恵美は微笑みながら「こちらこそよろしくね。」と言いながら名刺を差し出した。

「頂戴いたします・・・・・えっ!・・・・・。」

「衆議院議員 倉本恵美」と書かれた名刺を見て悠子はなんで村上支配人がこの人を「先生」と呼ぶのか納得がいったのと同時に、目の前のこれから自分がお相手をさせられるのが現職の国会議員と云う事にこの上なく驚いた。

「倉本先生はね、国会議員として女性問題やLGBTQの件でご活躍で当社としても日頃から大変お世話になっているし、”ユリカクラブ”でも精力的にご活動なさっていらっしゃってるのよ。」

そう言えば「倉本恵美」と云う名前に悠子は聞き覚えがあったのだが、思い起こしてみると今年の会社の創立記念日に来賓として招かれて記念公演をした事や社内報に時々コラムを寄稿していてそれで記憶にあったのだった。

「まあまあそんな堅くて大層な話はしないでくださいな。だってこのお嬢さんが緊張しちゃうかも知れないでしょ?。ふふふ。」

ただ「しないでくださいな」と言ったところで既に悠子は相手が大物すぎて緊張しまくり、カチコチに固まっていた。

「菊川さんって言ったかな、こっちきて一緒にワインでも飲みましょう。ねっ。」
「は、はい・・・・・ご相伴にあずかります・・・・・。」

そして悠子が恵美の傍に座りなおすと安心した表情で「じゃあわたしたちはこれで。先生、しっかりお楽しみくださいませ。」と言いながら三浦所長と村上支配人は部屋を後にした。

「はあ、とりあえず先生も菊川さんの事を気に入ってくださったみたいだしひと安心ですね・・・・・。」
「まあそうですね・・・・・。でもこれでまた先生のご機嫌が悪くなったら今度はわたしと支配人となんなら和香子ママも一緒になってみんなで4Pでもなんでもしてご満足いただけるまでサービスするしかないわね。そうならないように今は菊川さんに頑張ってもらうしかないわ・・・・・。」

そうつぶやきながら三浦所長と村上支配人は不安と期待が入り交じった気持ちのまま保養所の廊下を歩き、そして悠子はそれ以上の不安とプレッシャーに押しつぶされそうになりながら恵美の傍で勧められたワインを少しだけ口にしていた。

そしてこのようにして恵美と悠子の聖なる夜の性なる出来事は幕を開けた。

(つづく)








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