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言葉が思いつかない人のための語彙トレ55【ブックレビュー】

「なんだかしっくりこないんだけど」

「なんて言ったらいいのかな…」

年を重ねるにつれて、語彙力が少しずつ少しずつ削られてゆくような。

さらさらと流れる砂時計のように、静かにこぼれ落ちてゆくような。

そんな焦りがあったのだろう。図書館でフラフラしているときに、この本が目についた。


本書は、コラムニスト・毎日新聞客員編集委員である近藤重勝氏による

言葉が思いつかない人のための語彙トレ55

出版社: 大和出版
発売日: 2020/11/30(初版)

近藤重勝氏の本は、以下でも紹介している。

本書は比較的平易な言葉で書かれていて、気軽に読みやすい。近藤氏が大学で講師をしていることからも、読者ターゲット層は比較的若い層だとうかがえる。

語彙とは

近藤氏がいう語彙とは。

「彙」は「集めること」ですから、つまり単語の集まりをいうわけです。英語ではボキャブラリーです。

ちょっと古いが「ボキャブラ天国」を思い出した。

語彙力となると、いろんなことを巧みに言い回したり、別の言葉で言い換えるといった力を指す。そんな語彙力、近年では若年層でも年々低下しているそうだ。そんな危機感が、本書の発行につながったのだろう。

僕は、人生とは「人として生きること」だと理解しています。生きる力は何よりも言葉と関係します。
広大無辺なる言葉の世界で人間の感情や知性がいかに深く言葉と関わっているかを知り、また逆に、言葉を知らないことがどれほどのマイナスかを思い知ることになるのです。

言葉を思いつかない人には「問い」を持とう!「答え」を得よう!と、筆者は呼びかけている。


「黄昏(たそがれ)」という言葉の語源、知っていますか?

本書では、語彙に関する55の問いかけに対して近藤氏が答えていく形式だ。その中でもいくつか気になったものがある。

黄昏という言葉のそのものを知っていますか?

夕方は人の姿の見分けがつきにくく、「誰(た)そ彼(かれ)」とたずねるところから生まれた言葉なんですね。

夜明けの場合、「かたはれどき(彼は誰時)」という言葉があるそうだ。

語彙力は、言葉そのものの数もそうだが、語源を知っていることでさらに奥深く、言葉への向きあい方も変わってくる。

一つ一つの言葉の連なりは余韻、余情をもたらします。その場面や状況にかなった言葉を選択する。これは人と話をする時も、ものを書く時も決しておろそかにしてはいけない大切なことです。

その場にあう言葉を選んで大切に使う。そのためには語彙力が大きく影響してくる。

「かなし」は悲しいだけじゃない。

note界隈の方は言葉に造詣が深く、ご存じの方もいるでしょう。

「悲しい」の古語である「かなし」は、悲哀だけでなく切ない心情も表している。

漢字でいうと、「悲しい」「哀しい」「愛しい」「美しい」。

漢字にしてみると、ずいぶんと意味が広く、また深いことがよくわかる。人の心のひだを細やかに表現する、日本語には繊細で奥ゆかしいながらも何かしら大きな力を秘めている。


本当の語彙力とは

私が文章を書くときにいつも心に留め置いている、大好きな言葉が出てきたので、ここでも紹介したい。

難しいことを優しく、優しいことを深く、深いことを面白く、面白いことを真面目に、真面目なことを愉快に、愉快なことはあくまで愉快に

有名な井上ひさし氏の言葉だ。

近藤氏はこの言葉を紹介したあと、こう続ける。

僕はよく思うのです。何も語彙力が必要だからと難解な言葉をどれだけ知っているかなどではなく、難解であれば別の言葉で平易に言い換えるというのが本当の語彙力では、と。

人は難しいことを知り、その知識をひけらかそうと難解な言葉を並べてしまう。私も含め、誰しもそういう場面が過去にあったと思う。けれど、それでは相手に伝わらない。

人に伝わる、伝えるには、誰もがわかる言葉で表現することが何より大切。そのためにも語彙力をつける必要がある。


語彙トレは「読み書き歌う」

近藤氏は、「読解力を伸ばすにはなにより読書」だという。

設問の文章の意味が分からないと読み進められないから意味を調べる。その流れが読解力、語彙力につながる。

『文章読本』の著者で知られる丸谷才一氏は、文章を書くための方法を読者に聞かれてこう答えた。

読むだけで上達するのが文章だ

読んでいるうちに自然とコツがわかってくる。両氏だけではなく多くの著者がそう語る。やはり日々の読書は欠かせない。

また、近藤氏は、語彙を増やすには書くのがいちばんだという。書いて覚える。それには記憶が関係してくるのであり、「思い出す」ことを書くようにするといいと著者はいう。

思い出すというと、まずは自分の「体験」、そこから「気づき」「普遍性」へとつながる。そうすると作文もとっかかりやすいように思えてくる。

そして「歌う」に関しても、著者自身の語彙のかなりの数が歌謡曲で耳に残り、歌うなどして覚えたという自覚があるそう。

日本歌謡には良い歌詞が多いと今さらのように思います。とりわけ深い心の動きを風景や男女の間に流れた時間とともに描いた作詞にはしばしば感じ入ります。

歌に関しては好みもあるだろうが、演歌をはじめとした昭和の歌謡曲には、歌詞に奥行きがあったように思う。ちょっとした景色のうつろい、心情、指や目などの動きから見える心の変化など。

本書では、『歳時記』や『感情表現辞典』などが登場する。語彙力を高めるためにも、普段からちょっとした言葉の類語を調べてみて、日本語の奥深さを日々味わってみることからはじめよう。

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