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つらいことから書いてみようか【ブックレビュー】

人はどんなときに「書きたい」と思うのだろうか。

うれしいとき?
怒っているとき?

きっと、心に大きな揺らぎがあったときに「言葉にあらわしたい」思いに駆られるのだろうか。

この本のタイトル「つらい」ときも、まさしくそう。
心に傷を負ったとき、言葉から、その人の心の動き、息遣いが聞こえてくる。

本書は、コラムニスト・毎日新聞客員編集委員である近藤勝重氏による

つらいことから書いてみようか
出版社: 幻冬舎
発売日: 2014/6/25(第一刷)


以下の記事も、近藤勝重氏の著書。
たくさんの方に読んでいただいているnoteの一つだ。



小学5年生への授業を紹介

本書は、筆者が東京都練馬区立開進第四小学校の5年生、約90人に「つらいことから書いてみようか」と作文に取り組んでもらった授業をまとめたものである。

そのため、作例は子どもが作った瑞々しい文章がずらり。
書籍全体を通してとてもわかりやすく、さらっと読めるように構成されている。

文は一本の竹、文章は竹林。若竹は土が豊かなほど育つ。

文章を作るときのたとえで、筆者は「竹」を使っている。

私は(ネ)嵐の(ネ)二宮君が(ネ)好きだ。

(ネ)で区切った一つひとつが節、4つの文節からできた文だ。それが一本の竹として、何本も生えた竹林は「文章」になる。

竹が竹林になっていくには土が必要。そしてその土が豊かであるほど、スクスクと竹は成長していく。

土はさまざまな経験を経て豊かになる。それはうれしいこと、楽しいこと、つらいことなどさまざまな体験が養分になるのだ。

かの村上春樹氏は「文章を書くのはとくに好きじゃなかった。自分の書いた文章を好きになったことは一度もありませんでした」という。
だが今やベストセラー作家。
「土の部分が彼に文章を書かせたのでしょう」と筆者は語る。

体験したことを、そのまま報告するつもりで書く。

いい文章とは、よく言われているのが「誰にも書けないことを誰にもわかるように書く」ということ。
難しいことのように思うけれど、毎日の経験、今日どんなことがあったのか、どんなテレビを見てどんな風景を見たのか。人それぞれ感じ方、受け止め方は異なる。

つまり、体験に基づくことを書けば、自分にしか書けないことが書けるのだと筆者は言う。

筆者は授業の中で、小学5年生の子どもたちに「つらい体験」から文を書いてもらう。

自分のつらい体験を文章に書く。それは一つの作品です。作品となると、書かれたものがみんなにちゃんと伝わり、よくわかってもらえるということ。それが大切なんですよ。

つらいことから書いてみようか

よくわかるように書くには、つらいときの様子を描写することだ。「つらい」だけの一言、思いや感想だけではなく、印象や心に刻まれたことなど、体験したことを具体的に書くことが大切である。

思うより、「思い出す」ように書いていく。

心理学の本に「性格は身につけた衣装」とあるそうだ。衣装を変えれば、気分も多少変わってくる。行事ごとなどで衣装を変えると、何となくウキウキするような感じ。これらは「体験」のひとつといえるだろう。

書けば、もう一人の自分が出てきて、励ましてくれる。

たとえばつらいことを日記に書く。
そうするとどうなるか?
もう一人の自分が出てくる。

「ほんと、つらかったよね」
「言い過ぎたんじゃない?」
「今度、本人に聞いてみようかな」

ときには共感してくれたり、励ましてくれたり。
反省することも。
書くことで自分を見つめることができる。

「○○はえらい」

ここで、まどみちお氏の「おならは えらい」が紹介されている。

おならは えらい
でてきた とき
きちんと
あいさつ する

せかいじゅうの
どこの だれにでも
わかる ことばで…

こんにちは でもあり
さようなら でもある
あいさつを…

えらい
まったく えらい

おならは えらい

これはまどさんが70代半ばに発表された作品。
おならはあいさつするからえらい…。当たり前であって、でも誰にもあらわせないような文章。まるで小さな子どものような純真さ、感覚が素晴らしい。

子どもの感性を失わずにいたいものである。

特に「遊びプラス学び」は、物事の本質を的確にキャッチする最上の手段ではないか、と筆者は言う。

生きる力は、つらい体験を書くことで身につく。

つらいことを書いたとき、さまざまな感情が自分の中に生まれるだろう。

私も、つらいことを言葉にするのはちょっと怖い。
でも、書いてみる。
そして、それが誰かひとりにでも伝われば、万々歳。

叱られたことだって、思い直せば気持ちも一新する。
自分の今後につながっていく。

「あっ」と思ったことを大切に。

文章を書く上で源となっていることは、自分が「あっ」と思った感動。
筆者はそれらを大きく二つに分け「外部から得られるもの」「自分が何かをやって得られるもの」としている。

感動体験は心を強く動かしているから脳の中にずっと残っているのだそう。
だから、さまざまな体験の中でも「感動体験」は文章の題材にもってこいなのだ。

文章とは、自分と人、物、自然との関係を描くことだという。そうした周りとの関係の中で「あっ」と思ったことを大切に。素直な気持ちで書いてみる。

文章はすべてを受け止めてくれる。

私たちの住む世界にはいろんなことがある。

飛びあがるくらいうれしいこと。
ウキウキすること。
心が弾むような楽しいこと。

一方で、しばらく立ち直れないくらい悲しいこと。
人とうまく関われなくてつらいこと。
誰にも打ち明けられない、苦しいこと。

そんなたくさんの思い、文章はまるごと受け止めてくれる。

「なんかつらいなあと思ったら、鉛筆を持って紙に向かってください」と筆者は言う。「心に正直に書いてみてください」と。

書いていくうちに、気持ちが落ち着いたり、優しい気持ちになれたりする。

さあ、つらいことから書いてみようか。

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