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書く力 私たちはこうして文章を磨いた【ブックレビュー】

私は話すことが得意ではない。

書いているほうが、あらゆるものとまっすぐに向き合えているような、何となくそんな気がするのである。

けれど私の逆パターンで、普段から人にわかりやすく話せる人すべてが、書くことが苦手というわけではなかろう。書くことも話すことも得意な人は、どんな風にして言葉を扱い、書き伝えているのだろうか?

書くこと、話すことの両分野で名をはせる、池上さんの頭の中を覗いてみようか…そんな思いでこの本を手に取った。


本書は、元々はNHKの記者であり、今はジャーナリスト・キャスターとして知られる池上彰氏と、読売新聞取締役論説委員であり読売新聞一面コラム「編集手帳」の担当であった竹内政明氏の共著

「書く力 私たちはこうして文章を磨いた」

出版社: 朝日新書
発売日: 2017/1/30(第一刷)


対談形式で例文を持ち出しながら軽快に

本書は池上氏と竹内氏の軽快なやりとりの中で、具体的な例文を紹介しながら分析・解説しつつ話が進んでいく。テンポもよく読みやすい印象だ。

さすが名解説者の池上氏と名コラムニストの竹内氏。ときどき読者をクスリと笑わせながら、お二人の視点から文章の書き方のコツをポトリ、ポトリと落としていってくれる。

第一章では、『構成の秘密ー「ブリッジ」の作り方』と題し、テーマの決め方や書き出しにはじまり、締めまでを解説する。

竹内氏はこう言う。

生半可な知識しか持ち合わせていないテーマでは、いくら「構成」に工夫を凝らしても、面白く仕上がるはずがない。
テーマと自分をつなぐ「ブリッジ」が必ずあるはずです。まずはそれを見つけます。

池上氏も納得したうえで、このようにつなげる。

なるほど。起承転結のような構成の仕方に頭を悩ませる以前に、まずは「何を書くか」をはっきりさせるということですね。
確かに、読んでいて「あまり面白くないな」を感じてしまう文章は、ほとんどの場合、厳しい言い方のようですが、構成に工夫が足りないとか、表現力が足りないとかいう以前に、作者自身が「自分はこれから何を書くか」をはっきりとわかっていない。

ブリッジのかけ方について解説する中、書き出しのいい文章として向田邦子氏の作品を挙げている。先の展開が読めない、だからこそ「次はどうなるんだろう」と読み進めたくなる。向田氏のエッセーの書き出しは名人芸だと、竹内氏は評している。


本当に伝わる「表現」を探る

第二章では『本当に伝わる「表現」とは』と題し、わかりやすい小見出しでいくつか紹介している。

まず最初からグサリときた。

『わかっていることを、わかっている言葉で書く』だ。

私の中でも、意外と知っている風でいて、何となく響きが良いから使っている…なんて言葉もある…と思う。ついついカタカナ語を羅列してみたり、専門用語をそのまま使ってみたり…。

自分が知っている言葉で相手に伝える。自分にとっても相手にとってもわかりやすい文章になるはずだ。

どの項目も納得するものばかりだったが、『季節感の出し方』は、まさに幾多の文章を書いてきた、話してきたお二人だからこそのエピソードだった。

日本は世界から見たら小さい国かもしれないけれど、沖縄と北海道では感じる季節感も全く異なるだろう。本書では桜の咲く季節についてや夏休みについて触れていた。

例えば、9月1日に「夏休みも終わり新学期が始まりましたね」というと、東北などではすでに8月下旬あたりから随時2学期が始まっているわけだ。

なので「もう新学期が始まっている地域もあることでしょう」など、ちょっとした表現の工夫が必要になる。自分が住んでいる地域の行事が必ずしも全国で同じとは限らない、これは心にとどめておきたいところである。

よい文章は「リズム」あってこそ

私もこの本を読む前から「リズム感」の大切さは常に肝に銘じていたので、本書を読んでさらに納得した部分だ。

竹内氏は、以前より、いい文章を見つけると書き写す習慣があるという。

池上氏も記者時代から、40年間原稿を書き続けてきた中、「書き写す」ことが最高の文章鍛錬だと言っている。

池上氏は原稿がうまく書けるようになるため、自分の原稿にデスクが赤を入れた原稿、当時県庁を担当していた大ベテラン記者が書いた原稿、全国版のニュースの原稿、この3つを書き写したそうである。

池上氏はこう言う。

どの文章が効果的だったのかはわかりません。ただ、とにかく文章を書き写しているうちに、「こういう場合はこう書けば、読者に伝わるんだな」といったコツがなんとなくつかめてくる。これが基本だと思うんです。
読んだ人が唸るようなカッコいい名文はもちろん、「人に伝わる文」というのも、いきなり書けるものではないんです。

 名文に触れ、書き写すことが、自分の身にそのリズムを刻むことになるのだろう。

悪文退治

第四章は、その名も「悪文退治」である。

いい文章に触れることは大切だし、文章の書き方系の書籍では、「いい文章」「いい文章の書き方」を紹介しているものが多いのではないだろうか。

しかし、むしろ悪文に触れる、悪文について知ることも同じくらい重要だ。

些細なところかもしれないけれど、是非最後まで読んでみてほしい。


終わりの言葉として、池上さんが引用された詩人の吉野弘氏の言葉を借りることにする。(「はじめに」に書かれていたけれど)

正しいことを言うときは
少し控えめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと
気付いているほうがいい

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