ヤマダセイリュウ

うお座 うさぎ年 美容師

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最近の記事

恋と債務(後編)

後編になります。前編を読まれてない方はこちら 大学の卒業までもう少しという頃には僕の支払い能力は限界に差し掛かっていた。バイト代が振り込まれても右から左へ返済して終わり。手元には数千円ほどしか残らない。足りない分はもっともらしい理由をつけて親から融通してもらったり、深夜の倉庫で単発のアルバイトをして補った。自業自得だがものすごく忙しかった。卒論を書き終えていたのがせめてもの救いだった。 同じく卒業を控えていたリョーコには半年ほど会えていなかった。4年生になったあたりから何

    • 恋と債務(前編)

      カード破産をしそうになったことがある。23歳になるかならないかくらいの頃だ。比較的凡庸かつ平穏に成人を迎えた僕にとって最初に訪れた人生の大ピンチだった。 いま、娘や息子を大学や専門学校に通わせている親御さんが聞いたら間違いなく発狂するであろう不良学生だった僕はろくに大学にも行かず、オートバイを乗り回し、友達と夜通し遊び、朦朧とする意識を取り戻すべく栄養ドリンクを喉に流し込みながら麻雀を打っていた。 大学生の分際で金の掛かる遊びばかりしていたので財務状況は常に逼迫していてア

      • 60年前の推し活

        仕事柄や趣味などが影響していると思うが、年齢のわりに若い人との接点は多い。彼女らや彼らと話をしていて一昔前と比べ顕著に感じるのは性別関係なく恋愛の話を聞かなくなったことだ。もちろん無いわけではない。ただ、確実に減った。 代わりに増えたのが所謂「推し活」の話だ。旧ジャニーズ、LDH、ハロプロ、この辺りでもGoogle検索をかけないと厳しいが、コレ以外のグループだったり地下二階くらいの深さまで潜っているアイドルの話となるとほとんど呪文の詠唱を聴いている状態に近い。 推す対象を

        • 客商売について

          何軒かの飲食店がこの春で閉店するそうだ。人づてに聞いたりSNSで知った。 お店を畳むにあたって適切な時期、という言い回しが適切かどうかわからないが多くのお店が閉店のタイミングに年末か年度末を選ぶ。物件の契約問題もあるし、何よりリスタートがしやすいのだろう。人生は続く。 新しくやりたいことがある上での発展的な閉店であるなら何よりだけれど、閉店理由の多くは経営不振だ。刀折れ矢尽き、打つ手が無くなったから閉店する。だから「つぶれる」などと口さがない言われ方をされたりする。 僕

          マーラーとベーゼンドルファー(4)

          1はこちら 2はこちら 3はこちら クラウディア(仮)はもちろんだが、辰夫(仮)が娘に向ける思いの丈は「溺愛」という名に相応しいものだった。娘を籠絡するプレイボーイに関する情報の公開については慎重を極めなければならない。 と、今なら冷静に語ることもできるのだけれど、当時25歳の若者が貫禄の詰め合わせみたいな壮年男性の目力と覇気に耐えることなどできるだろうか。結局はクラウディア(仮)のときと同じように「あっ、そ、そうなんですねー。知らなかったですー。ななな、なんか美男美女で

          マーラーとベーゼンドルファー(4)

          マーラーとベーゼンドルファー(3)

          連作です。1はこちら 2はこちら タカハシのことは知っていた。同僚が夢中になっている10歳くらい年上の男だ。僕たちの会社とは別の1社を挟んで協力関係にある会社の人間だった。顔立ちは取り立てて美しいわけではなかったが小顔でスタイルが良く、色白で180センチ超の長身だった。今で言うところの塩顔男子だろう。かまいたちの濱家と坂口健太郎を3:1の割合でブレンドしてみてほしい。 僕の仕事はたくさんの人と会うので自然と多くの情報が耳に入ってくる。同僚本人は付き合っている、もしくは限

          マーラーとベーゼンドルファー(3)

          マーラーとベーゼンドルファー(2)

          4部構成の2番目です。1はこちら 同僚秘書の自宅は世田谷の用賀だった。僕が用賀について持っている知識といえば東名高速道路の起点になっている、ということくらいだ。駅まで同僚が迎えに来てくれていた。街並みは上品で歩いている人の佇まいもなんだか優雅に感じる。連れている犬も見たことのないような形と毛並みをしている。 そんな謎の外圧を感じてしまうのもこれから向かうのが「一軒家のホームパーティ」だからだ。なんだよホームパーティーて。そんなの映画でしか見たことないよ。 想像が膨らみ過

          マーラーとベーゼンドルファー(2)

          マーラーとベーゼンドルファー(1)

          映像系のサブスクリプションは加入と解約を繰り返しているが、音楽ストリーミングサービスのSpotifyはずっと機能に制約の無いプレミア会員で居続けている。気になった曲にいつでもどこでもアクセスできるというのは音楽が好きな人間にはとても魅力的だ。 そうは言っても聴く音楽のジャンルはおそろしく偏っていて、ドライブしたエレキギターが耳を劈くようなロックやBPMが160を下らないエレクトリックなダンスミュージックが大半を占めている。 しかしよくよく考えてみれば音楽ストリーミングサー

          マーラーとベーゼンドルファー(1)

          心を読まれた話

          科学的根拠のある事象しか信用しない人間なので、対極にある超常現象とか死後の世界とか心霊の類いは一切受け入れない。 人体浮遊もUFOも天草四郎時貞の背後霊もこの目でみることができるのならばもちろん信じるのだけれど、今のところはどれにも遭遇していない。 どれだけ美しくて魅力的な女性でもツインソウルとかアカシックレコードとか言い始めた途端に興味が失せてしまう。 ただ、そんな僕が一度だけ非科学的なことを信用せざるを得なかった出来事がある。 もう20年以上前のことだ。僕は物心が

          資格と仕分け

          職業不詳に見られることが多い。もうちょっと頑張って何の職業なのかを想像してみてほしい、と頼むと「バリキャリ女子に食べさせてもらっているいつまでも売れないバンドマン」とか「風俗嬢の家に転がり込んで働きもせずオンラインゲームばかりしている自称DJ」みたいな答えが返ってくる。 趣味でバンドに参加していたり、たまにDJの真似事をさせてもらったりしている素地がそういったイメージにつながるのかもしれないが、いずれにしてもヒモっぽく思われているのは心外だ。僕はいちおう美容師を生業としてい

          イグアナと私

          イグアナが身近にいた経験はあるだろうか。僕はある。 まだ20か21歳くらいの頃、僕は一浪の末なんとか入り込めた美術大学にほとんど通わず、横田基地の側にあるダイナーでアルバイトをしたり、高幡不動の「鳴き龍」で手を叩きまくったり、多摩センターのスカイラークガーデンで海老とトマトのパスタとバニラアイスのカプチーノがけを胃袋に詰め込んだりしていた。 つまりは遊ぶ金を稼ぐことと、大きなオートバイを乗り回すことと、女の子にモテることしか考えていない、どこにでもいるありふれた青年だった

          時間を掬い取る

          いまさら遅すぎる気もするが時間の大切さが身に沁みている。この年齢までひとりで生きてきたので能動的に家族をつくった人に比べると自分に使える時間は多かったはずだ。実際に家庭をもうけた人ができなかったこともできてきた。今もできている。 しかし扱える時間が多かったからといって、それらを有効に使えてきたのかと言えば甚だ疑問だ。無駄にしてきた時間というのは殆ど記憶に残ることがない。何に使ったのかよく覚えていない金銭を失った感覚に近い。 時間をうまく使えていないことを顕著に感じるのはだ

          寝込みでよぎったこと

          実はここ数日体調を崩していた。若干の発熱と喉の強烈な痛み。なにより身体を起こしているときの四肢に鉛がぶら下がっているような怠さに苛まれた。 先週末にバンドの練習を2時間ぶっ続けでやったことに起因するであろうぎっくり腰と原因不明の腹痛も重なり往生した。なにをしても痛い。どんな時も苦しい。ひとつひとつは耐えられないことはないが、さすがに3つが重なると参ってしまう。ボクシングでいうとストレートやフックなどの強打は喰らわないが、ジャブだけでノックダウンを奪われるような感覚だ。 い

          寝込みでよぎったこと

          金と品格

          どうやったら金持ちになれるかを考えている。今さらアメリカのIT長者や中国の富豪やロシアのオリガルヒになろうとは思っているわけではない。さすがにそこまで浅はかではない。 持てたものより持てなかったものの方が多すぎる半生となっているが、とりわけ手に入れられなかったものに商才がある。商才に長けていない人間が分析するのは僭越だけれど、ビジネススキルの両輪は営業力と財務管理能力で僕はそのどちらにも適性がなかった。 そもそも適性以前の話として、何かのビジネスをやりたいとか事業を興して

          代打note

          いつも書いているブログにトラブルが起こり全く更新ができなくなってしまった。「重大なエラーが発生しました」というメッセージと共にブログの画面が真っ白に。CSSとかPHPなぞちんぷんかんぷんな僕はトラブルシューティングを5分で諦めた。 もうブログは、そして毎日の更新はやめようかと思ってもいたので、それなりの喪失感はありながらも長年の謎自分ルールに縛られていた僕は、この突然の解放を歓迎した。1週間前に更新料を払ったばかりだったのはタイミングが悪かったが、もうブログを書かなくていい