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客商売について

何軒かの飲食店がこの春で閉店するそうだ。人づてに聞いたりSNSで知った。

お店を畳むにあたって適切な時期、という言い回しが適切かどうかわからないが多くのお店が閉店のタイミングに年末か年度末を選ぶ。物件の契約問題もあるし、何よりリスタートがしやすいのだろう。人生は続く。

新しくやりたいことがある上での発展的な閉店であるなら何よりだけれど、閉店理由の多くは経営不振だ。刀折れ矢尽き、打つ手が無くなったから閉店する。だから「つぶれる」などと口さがない言われ方をされたりする。

僕は経営者ではないが売り上げがゼロなら給料もゼロ、という完全歩合制で20年近く仕事をしているので月給取りのサラリーマンよりは経営者の気持ちはわかる。客が来ないときのあの砂を噛むような感覚。自分などこの世界に必要とされていないんじゃないか、と唇を噛み拳を握って爪を手のひらにめり込ませる瞬間。それでも店舗もスタッフも借金も抱えず、身一つで動くことができる気楽な個人事業主もどきと一国一城の主では雲泥の差があるだろう。

飲食店も美容室も経営状況の良し悪しの計り方は至極単純。客が来るか来ないかだ。客商売を生業として選んだ人間が逃れられない命題で、我々はいつだって客に生かされ、そして殺されかけている。

こういう時、よく「こんなことならもっとお店に行っておけばよかった」とか「最後だから行ってあげよう」みたいな言葉を耳にするけれど、客目線の物言いには違和感を強く感じる。客側に非はまったくない。すべては継続的に客を呼ぶことができなかった店側の責任なのだ。

そんな厳しいことを言ってはみるものの、技術と接遇を磨き続け、顧客をつくり、客単価を上げる工夫とたゆまぬ努力を続けることは手足を血だらけにしながら断崖絶壁を登り続けるようなものだ。口先だけの安い同情は最後まで戦い続けた者に礼を欠く。我々どうしてこんな商売を選んでしまったのでしょうね。彼女たち、彼らたちの未来に幸あらんことを。

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