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タバコ吸ってたら飲んではいけないビタミン

『身体にいいと思ってたのに』

病院で診療をしていて、最も悲しくなる言葉の1つだ。身体にいいと思って積極的にとっていた行動が、ときに身体に悪影響を与えているのである。健康意識が高いのはとても素晴らしいことなのに、それでかえって病気になってしまうなんて悲しい。

当然のことではあるが、健康食品・サプリメント・施術など、提供すれば提供するほど儲かるビジネスモデルの場合、その商品・サービスの提供者はプラスの面を大袈裟に表現することはあっても、マイナスの面を分かりやすく伝えるということはほとんどない。医師として勉強をしていても、気を抜くと「すげえ」なんて思ってしまうことは結構あるものだ。

しかし、「効果がない」可能性を伝えないならまだしも、「身体に悪影響である」可能性を伝えないのはやはり問題だと思う。このシリーズでは実際に体験した症例も含めながら、どんな健康食品やサプリメントが身体に悪影響を与えうるのか紹介していく。

今回紹介する誤った常識はこちら。

間違い①『喫煙者は抗酸化ビタミンを多めにとるべきで、マルチビタミンのサプリメントは有効だ』

一般に喫煙者は体内で酸化ストレスが強くなり、抗酸化作用をもつビタミンをとることは有用と考えられている。抗酸化作用をもつビタミンとは、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンA(βカロテン)である。

実際にこんなウェブサイトもある(参考: ソニー健康保険組合)。

健康保険組合の記事だったら、正しいに違いない。誰しもそう思うだろう。

しかし、現代医学の答えはNOだ。肺癌リスクの高くなる喫煙者において、日々ビタミンA・βカロテンをサプリメントで補うことで、肺癌の罹患率は約30%、死亡率は約20%上昇することが分かっている(参考:論文)。ビタミンAサプリメントやそれを含むマルチビタミンは、喫煙者に対しては毒である可能性があるのだ。

喫煙者で毎日マルチビタミンを飲んでいるという人がいたら、是非一度サプリメントを見直すことをお勧めする。

僕が担当した肺癌で治療していた患者さんは、タバコを吸ってるのでせめてと、複数のサプリメントを飲んでいた。その中には、ビタミンAも1日推奨量以上が含まれていた。
勿論喫煙自体が原因になることは誰もが知っている通りだが、自分で癌になる確率を高めてしまっていたかもしれないとは微塵も思っていなかっただろう。診断されてから詳しくネットで調べて上記を知り、ひどく落胆していた。

喫煙者においては、過剰摂取による有害事象が今のところ否定されているビタミンCを多めにとるのがいいだろう(ビタミンEも大きな有害事象は報告されていないが、脂溶性ビタミンであるため摂りすぎは避けた方が無難だと思う)。海外では非喫煙者よりも多めに摂取するよう指導されている。
(※)ただし、腎障害がある人では尿路結石のリスクを増加させる可能性が示唆されており、腎臓に不安のある方は一度医師に相談を推奨する。

またここでも注意だが、ビタミンCの経口摂取によって到達できる血中濃度には限界があるため、一気に沢山とれば効果が高いということは全くない。ビタミンC(やビタミンB群)のような水溶性ビタミンは、摂取して数時間で速やかに体外へ排泄される。

ので、「ビタミンC1000mg配合!」みたいなものを1回で飲んでもあまり意味はなく、こまめに少しずつ時間を空けて摂取した方が効果的である。ビタミンを始め様々なサプリメントは、内容だけでなく、その性質に基づいた飲み方も重要なのである。

そして何より、可能であればサプリメントに頼らず、野菜や果物からこれらを補うのが理想であることは言うまでもない。

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勿論、悪意を持って間違った情報を流す人はいない。しかし、人体というのは思った以上に複雑であり、今の医学で解明されていないことも山ほどある。付け焼き刃の知識、ネットで断片的に集めた知識で記事を書いたり、ニュースを書いたり、人にオススメしたりすることは、悪気がなくてもどこかで誰かの命を奪っている可能性があるのだ。

情報が溢れる現代だからこそ、誰もが正しい知識を身につけ、後悔なく楽しい人生を送ってほしい。

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