脱ロシアで足並み揃わぬEU エネルギー調達の要諦とは|【特集】プーチンによる戦争に世界は決して屈しない[Part7]
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
エネルギーの脱ロシアを掲げるEUだが、ドイツの〝二枚舌〟により足並みは揃っていない。欧州の動きから日本がやるべきこととは何か考える。
2月24日のロシアのウクライナ侵攻から3月24日までのわずか1カ月間に、欧州連合(EU)諸国が石油、天然ガス、石炭代金としてロシアに支払った資金は185億ユーロ(約2兆4500億円、独立系研究所CREA調べ)を超えた。ウクライナ支援とは桁が違う額、毎週約6000億円がロシアに〝戦費〟として支払われている計算になる。EU内では、ウクライナの人命を救うためエネルギー不足とエネルギー価格上昇を甘んじて受け入れ、直ちにロシアからの化石燃料購入を打ち切るべきとの声がある。
だが、ロシア産エネルギーへの依存度が高いドイツがこの声をかき消し、EUは国際銀行間通信協会(SWIFT)から化石燃料輸入に関わるロシアの銀行を排除しなかった。ドイツは今年末に予定されている「脱原発」を予定通り行い、化石燃料依存を増す計画だ。EU内ではドイツはウクライナの人命と脱原発を引き換えにするとの批判もある。それでもドイツは脱原発にしがみつく。
EUは、約45%をロシアから輸入し、大半がパイプライン経由のため、結びつきの強い天然ガスが注目されることが多いが、石油輸入量の約27%、石炭輸入量の約46%をロシアが供給している。2021年に、EU27カ国がロシアからの化石燃料輸入に支払った額は、991億ユーロ(約13兆円、EU統計局)だった。天然ガス需要量が増える中で昨年後半から、ロシアが供給量を絞ったため、天然ガス価格は大きく上昇した(図-1)。
日米欧天然ガス価格と原油価格推移(図-1)
EU加盟国のロシア依存度が国により異なる中で、脱原発を進めるドイツは、一次エネルギーの約3割をロシアに依存している。昨年、ドイツは石油、天然ガス、石炭の輸入代金として244億ユーロ(約3兆3000億円、EU統計局)をロシアに支払った。
ロシアによる侵攻後にウクライナ外相は「血の匂いがするロシア産エネルギーの禁輸」を呼びかけた。米国、英国は応じたが、独ショルツ首相は、「産業も、輸送も、電気も、暖房もロシア産エネルギーに依存している。脱ロシアを1日で行うことは不可能だ」と述べ、禁輸に反対する姿勢を示した。ハンガリーなども反対したと報道され、EUは禁輸に踏み切れなかった。
ロシアは、昨年からウクライナ経由の輸送量を減少させていたが、驚くべきことに2月24日の侵攻直前から輸送量を大きく増加させている(図-2)。ロシアは侵攻によりウクライナにパイプライン使用料を支払う必要がなくなったと考え、輸送量と収入を増やし戦費にしたかったのだろう。2月23日から急激に輸送量が増え始めており、天然ガス企業ガスプロムは侵攻開始を事前に把握していたのではないかとの疑いもある。
急増するウクライナ経由EU向け
ロシア天然ガス供給量(図-2)
EU内では……
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