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防衛費増へのギアチェンジには国民と正面から対話を|【特集】歪んだ戦後日本の安保観 改革するなら今しかない[COLUMN2 - FINANCE]

防衛費倍増の前にすべきこと

安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。
だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。
日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。

日本はいつまで「財源」の議論から目を背けるのか──。国民のコミットとコンセンサスなき安全保障は到底「盤石」とは言えないはずだ。

文・藤城 眞(Makoto Fujishiro)
SOMPOホールディングス 顧問
東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、大蔵省入省。フランス国立行政学院、アフリカ開発銀行理事、主計局主計官、主税局税制第三課長、内閣官房行革事務局次長、理財局・関税局審議官、東京税関長、東京国税局長などを歴任。2020年より現職。


 2004年のことである。当時、財務省で税の広報を担当していた筆者は、京都大学に中西輝政先生(現・名誉教授)を訪ねていた。これからの日本の社会モデルについてお考えを伺うためであったが、先生は開口一番、財政健全化に触れられ、「北東アジアの地政学的情勢を俯瞰すると、早晩防衛費の拡大は不可避であり、財政余力を作っておくことが不可欠」とおっしゃられた。当時も今も財政は社会保障の文脈で語られがちだが、「国防」のために確固たる財政の必要性を喝破される先生の慧眼に、筆者は大きな感銘を受けた。

 あれから20年近くの時が過ぎた。日本国憲法前文には、「日本国民は、恒久の平和を念願し、(中略)、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。しかし、今回のロシア・ウクライナ戦争で、公正にも信義にも欠けた行動に世界は直面している。平和を願う気持ちは尊いが、加えて国民の意思と能力が伴わないと自国の安全も生存も保つことはできない。そのことが明白になったと言えよう。

 欧州でもフィンランドやスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)加盟を決意した。また、北東アジアに目を転じると、軍事予算の膨張や核拡散の危険、南シナ海や東シナ海をはじめ日本周辺を含む領土をめぐる動きなど、国際的緊張は欧州に勝るとも劣らない。まさに先生が懸念されていた国際環境が現実のものとなっている。しかし、一方で財政はというと、その悪化に歯止めがかからない状況だ。

 こうした中、わが国の防衛費を倍増(対国内総生産〈GDP〉比2%)する提案や、その財源をさらなる国債発行に委ねる意見が出されている。ただし、ここまでの防衛費増額の議論はまるで空中戦のようで、国民や納税者目線から見て気になる点がいくつかある。それを三つの点から述べてみたい。

 第一は、……

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