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根拠なき日本悲観論 企業に必要な「コンセプト化」の力|【特集】デジタル時代に人を生かす 日本型人事の再構築[Part7]

 日本型雇用の終焉──。「終身雇用」や「年功序列」が少子高齢化で揺らぎ、働き方改革やコロナ禍でのテレワーク浸透が雇用環境の変化に拍車をかける。
 わが国の雇用形態はどこに向かうべきか。答えは「人」を生かす人事制度の先にある。
 安易に〝欧米式〟に飛びつくことなく、われわれ自身の手で日本の新たな人材戦略を描こう。

海外流の経営は最先端で日本企業は遅れている──。今、日本に求められるのは、こうした言説に惑わされない冷静な分析とコンセプト化の力を磨くことだ。

文・岩尾俊兵(Shumpei Iwao)
慶應義塾大学商学部 准教授
1989年、佐賀県生まれ。慶應義塾大学商学部卒、東京大学大学院経済学研究科経営専攻修士課程修了、同科マネジメント専攻博士課程修了。慶應義塾大学商学部専任講師を経て現職。主著に『日本“式”経営の逆襲』(日本経済新聞出版)『イノベーションを生む“改善”』(有斐閣)

 グローバル競争への危機感を持ち、外資系企業に対する日本企業の〝遅れ〟を取り戻すために最先端の経営手法への目配りを欠かさない──。一見すると優秀に見えるこのような経営者が、むしろ日本企業の経営を危機に陥れている可能性がある。日本は今、こうした矛盾に満ちた状況の真っ只中にある。

 このジレンマから抜け出すカギは、①経営技術のグローバル競争状況を把握すること、②この状況において日本企業が生き残るための「抽象化・コンセプト化」の能力(現場に根差した知識から論理的に必要なエッセンスのみを取り出して、論理さえ追えば誰でも分かる形に共通言語化する力)を磨くことの2つにある。

 そもそも経営とは「1人ではできないことを、他者の力を借りて実現すること」だ。1カ所に雑多な人間を集めるだけでは「経営体=組織」にはならない。そこには、誰がどんな仕事をして、別の誰かがどう支援する、といった「人の脳内プログラム=経営技術」が必須である。この「経営技術」があってこそ、企業に集まった人々が集団として統一的に動き、組織は個人の集合以上の成果を生み出せる。経営技術は、全社戦略レベルから、人事制度、細かなことで言えばオフィスにおけるコピー機の紙質選択まで、企業のいたるところに存在している。

 そのため、ペーパーカンパニーでもない限り、経営技術を持たない企業組織はなく、そこにあるのは経営技術の「巧拙の差」のみだ。だからこそ、企業が存在意義を保ち続けるには、自社の経営技術の強みを伸ばし、弱みは克服することで競合他社よりも世界的に高い水準に保ち続ける必要がある。

 しかし、安易なグローバル志向の中にある「日本自虐論・日本悲観論」は、こうした当たり前の論理を見えなくさせる。経営手法や人材育成手法といった経営技術の面で外国への憧れを抱きすぎると、自社を含む日本企業の強みを認識することなく、米国をはじめとした外資系企業の経営技術をすべて無批判に取り入れることにつながる。外資系企業の弱みを取り入れ、日本企業の強みを自ら破壊する、といった状況さえあり得るだろう。

 もちろん、米国が世界一の経済大国であることは間違いなく、彼らから学ぶべき部分は大いにある。しかし、それは日本が「すべての面で、一方的に、絶対的に」劣っていることを意味しない。事実、米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏といった世界的な経営者も、日本の経営技術を学んでいると公言しているほどだ。

 例えば、ベゾス氏は、……

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