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厳しい日本の安保環境を直視し適切な平和教育を進めよ|【WEDGE OPINION】いま、子どもたちに教えるべき本当の教科とは[PART2]

 日本の教育の迷走が叫ばれて久しい。
 経済、社会、国際情勢など、大変革期にある現代社会において、日本の未来を担う子どもたちのために、われわれ大人が果たすべき役割は何か
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 かつて、中央区立泰明小学校長を務め、全国連合小学校長会顧問を務める著者は「読み聞かせ」と適切な「平和教育」を挙げる。その具体的な内容とは。

文・向山行雄(Yukio Mukoyama)
敬愛大学教育学部教授・教育学部長
全国連合小学校長会顧問。1950年東京生まれ。73年横浜国立大学卒業。東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、品川区教育委員会指導課長、中央区立泰明小学校長、全国連合小学校長会会長、帝京大学教職員大学院教授などを経て現職。主な著書に『平成の学校づくり─日本の学校のチカラ─』(第一公報社)など。

我が国の学校教育では長年、安全保障に関する内容はタブー視されてきた。だが、領土問題や自衛隊の役割を直視することこそ、平和学習のあるべき姿ではないか。

 2月下旬の学校。北国では雪の中の登校、南国では春の訪れ。細長い日本列島各地で、卒業式の式歌のメロディーが流れる。伝統曲「仰げば尊し」「蛍の光」の他に「旅立ちの日に」なども歌われる。コロナ禍の三度目の春。各学校の合唱練習も感染防止対策を徹底して行われる。

 先の大戦の際、空襲で卒業式のできなかった世代がある。後年、還暦や古稀を迎えて同窓生が集い、改めて卒業式を挙行した小学校もある。それだけ、卒業式ができなかった空白感は長く、その世代の人々の心の中に沈殿するのである。今日の〈2年生世代〉。小学校2年生、中学校2年生、高校2年生、大学2年生、社会人2年生は、卒業行事も入学や入社行事も経験しなかった人は多い。彼らが長じて、できなかった行事を追体験したいと願うのか。それとも、時間の流れの中で忘却の彼方に追いやるのかは分からない。おそらくは空襲体験世代と同様に、その世代にしか実感できぬ哀しみなのだろう。

子供版「防衛白書」が伝える
日本の置かれた安全環境

 防衛省は、2021年8月14日『はじめての防衛白書 ~まるわかり!日本の防衛~』を発行した。A4版30頁の小学校高学年以上を対象にした副読本である。同書は、国の防衛の必要性、日本周辺の安全保障関係、憲法と自衛隊の関係、防衛の基本政策などについて、わかりやすく解説している。また、「宇宙・サイバー・電磁波領域」や「自由で開かれたインド太平洋」など喫緊の課題についても触れている。

『はじめての防衛白書 ~まるわかり!日本の防衛~』

 同書の冒頭「国の防衛はなぜ必要なの?」で次のように述べる。

 「自衛隊が多くのお金と労力をかけてどのような状況にも対処できるよう力を常に維持しているのは、他の国と戦争したいからではありません。自衛隊が……

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