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半導体研磨工程をヒントに風呂掃除の世界で頭角を現す|【さらばリーマン】逆境を乗り越える編

☆逆境を乗り越える画像(1280×500)背景黄色 (1)

イラストレーション
木原未沙紀(Misaki Kihara)

東海道・山陽新幹線のグリーン車に搭載されている月刊誌『Wedge』の人気連載「溝口敦のさらばリーマン」。勤め人を辞めて、裸一貫で事業を始めた人、人生の窮地を起業で乗り越えようとした人、趣味を仕事にしてしまった人、自らの事業で社会課題を解決しようとした人など、起業家たちの人生や日々奔走する姿をノンフィクション作家の溝口敦氏が描きます(肩書や年齢は掲載当時のもの)。

文・溝口  敦(Atsushi Mizoguchi)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1942年東京都生まれ。暴力団や新宗教に焦点をあてて執筆活動を続け、『食肉の帝王』(講談社)で第25回講談社ノンフィクション賞などを受賞。

小林誠司さん(600×400)

小林誠司さん(Seiji Kobayashi)
理想化研代表取締役(59歳)

   (※肩書や年齢は掲載当時のもの)

 風呂場の掃除を一度でもやったことがある人はいかに大変な作業か、痛感したはずだ。浴室の天井から壁、浴槽、洗い場に至るまで、ところどころ黒ずんだカビが生えている。タイルの目地にまで進出、それを根こそぎ落とそうとすると、最低半日はかかる。

 よってこの作業の代行業者には強い需要がある。それは分かるのだが、問題は、多数の業者の中で、いかに抜きん出て注文を取るかだろう。

 理想化研(神奈川県相模原市)の小林誠司代表(59歳)は創業して32年、全国に101の加盟店を持ち、年商9億円、帝国ホテルも顧客というから、この分野の勝者といっていい。が、勝ち抜こうとして現在の場所に立ったのではない。自分と縁のある人たちと幸福感を共有できる仕事をしたいという願いが今に結実したのだ。

 なにきれい事を言っているのだと反発する向きもいよう。だが、同社のパンフレットに「(お客様の)さまざまな御要望に真摯に対応してきた経験が、現在の私たちの技術力のもとになっています」と記されている。たぶん言葉通りのはずだ。同社の標語「誠実・信頼・感謝」は一見手垢にまみれたフレーズのようだが、掛け値なし、正味のモットーにちがいない。

 だいたい創業に至るいきさつ自体がこの間の事情を語っている。

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