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「まちのコイン」が育む 地域交流の新たなカタチ|【特集】漂流する行政デジタル化 こうすれば変えられる[PART4-4]

コロナ禍を契機に社会のデジタルシフトが加速した。だが今や、その流れに取り残されつつあるのが行政だ。国の政策、デジタル庁、そして自治体のDXはどこに向かうべきか。デジタルが変える地域の未来。その具体的な〝絵〟を見せることが第一歩だ。

来訪者に地域のことを伝え、住民のつながりを深める。デジタルをきっかけに広がる、リアルな関係性とは。

文・編集部(川崎隆司)


 「あなたの町で、ちょっと良いことするともらえます」

 そんなキャッチフレーズで、デジタルを通じてリアルなつながりを深めようとする事業が今、全国に広がりつつある。カヤック(神奈川県鎌倉市)が提供する地域限定電子通貨アプリ「まちのコイン」だ。2020年4月にサービスを開始した同事業は現在、同県小田原市や滋賀県など、全国17カ所の地域、自治体で導入されている(22年7月時点)。

 仕組みは簡単だ。アプリユーザーが地域の役に立つ行動をすると、QRコードを介しコイン(ポイント)がもらえる。対象は「田植えのお手伝い」「お店の窓拭き」「海岸のゴミ拾い」など、加盟する地域の店舗やコミュニティーが自由に設定できるのも特徴の一つだ。ユーザーは集めたコインを消費し、「まちの歴史を教わる」「余った規格外の野菜をもらえる」といった地域ならではの特典を受けることができる。

デジタル通貨「まちのコイン」
アプリ画面イメージ

(出所)カヤック

 「地域振興券」のような従来型の紙の地域通貨と比べてスマホひとつで持ち運べ、使用店舗での記帳管理といった運営の手間もかからない。利用促進のため、集めたコインには最大180日間の有効期限が設定されるほか、地域通貨(まちのコイン)から法定通貨(日本円)への交換は行わず、地域内での活動のみにコインが循環することで導入地域に対する正の経済効果を生むことができる。導入支援のための初期費用300万円・月額10万円から利用でき、小田原市の「おだちん」、滋賀県の「ビワコ」など、地域で親しまれやすい通貨名称を独自に名付けられるのも魅力的だ。

滋賀への移住希望者にも
潜在的な魅力を伝えたい

 「これまで地域に眠っていた人や土地の潜在的な魅力を多くの人に届ける。『まちのコイン』に期待するのはそうした〝発信力〟だ」と話すのは、滋賀県総務部市町振興課の矢野浩輝氏だ。同県は22年7月からまちのコインの提供を開始した。長浜市、近江八幡市、日野町の3市町での導入を端緒に、今後は他の自治体への普及拡大を見込む。県全域での導入は、全国の都道府県で初めてとなる。

 きっかけは……

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