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「ネガティブなことは一度も言わなかった」。16歳Jリーガーを育てた幸野健一のアプローチ|サッカーパパ・ママが知るべき最先端理論

6月22日・23日に開催された「WHITE BOARD CONFERENCE」では、「親が変われば、子供の未来が変わる」をテーマに、日本トップクラスの講師陣が登壇。世界で戦う選手の育成に必要なメソッドやマインドを余すことなく伝えた。

6月22日のセッション3に登壇したのは、幸野健一だ。17歳で単身イングランドに渡ってプレーし、現地で感じた日本との違いという原体験から、日本初の「サッカー・コンサルタント」として活動。2014年に千葉県市川を拠点とするFC市川GUNNERSを設立した。息子・志有人は16歳でFC東京とプロ契約。プロサッカー選手、指導者、サッカービジネスのプロ、そしてプロ選手の親という視点から、“究極の自立を導く子育て”について熱く語った。

息子をサッカー選手にしたいとは思っていなかった

幸野健一と主催者・北健一郎が壇上に登場すると、参加者の眼前にあるスクリーンには20個のキーワードが映し出される。幸野自身が17歳でヨーロッパに渡って感じたインパクトと、息子・志有人が16歳でプロサッカー選手になった親としての経験から形成したトークテーマを軸に、自立を導く子育ての話題が展開された。

最初のキーワードは「幸野健一」。サッカー選手として渡欧した際のエピソード、息子が16歳でプロ契約を結んだ経緯、クラブの代表としての活動など、興味深い話が繰り広げられる。そのなかで、現在の活動とこれまでの子育ての礎になっているのが、17歳の時にサッカーの本場に渡って体験したことだと言う。

「17歳からの数年間をヨーロッパで過ごしました。選手としてプレーしながら、指導者ライセンスを取得し、1人のファンとしてもサッカーに関わったことで、サッカーと共に生きる人々の幸せな生活を原体験としてもっています。息子を含めた育成年代の指導やクラブ経営、全国に展開しているプレミアリーグU-11の創設など、約50年、ずっとサッカーに関わって生きてきた自分の活動の原点には、ヨーロッパで受けた衝撃があります」

なぜ、息子・志有人が16歳でプロサッカー選手になれたのか。その大きな要因には父・健一が積み重ねてきた経験があると考えても不思議ではないが、幸野には息子をサッカー選手にしたいという考えはなかった。

「サッカー選手の能力はフィジカル、テクニック、インテリジェンス、タクティクスと4つで、これらを平等に身につけていないとプロになることは難しい。このなかで親から遺伝するのはフィジカルのみ。それを理解しているので、親がサッカーをプレーしていて、子供を選手にすることはすごく難しいと考えています」

では、どのように息子と接していたのだろうか。

「試合を見てネガティブな言葉は一度も言ったことがなく、褒めたことしかありません。強いて言えば、自分のクラブの選手に遊んでもらうことが多かった。毎日の歯磨きくらいサッカーが当たり前だったかなと思います」

16歳でプロサッカー選手になる息子を意識的に育て上げたのではない。サッカーをすることの楽しさを感じてもらうなど間接的な関わりによって、無意識に息子の自立を促していたことが結果的に良かったと振り返った。

「子供の立場になる」ことの真意

テーマの根幹の話がひと段落すると、スクリーンに映るキーワードの真意を解き明かしていく。

「バカな大人を演じろ」「試合後の反省会」「自己肯定感を高めろ」「サッカーはするな」「海外へ放り出せ」「親が子離れしろ」

興味深い内容が目白押しだった。

そのなかでイメージしやすいのが、試合後の反省会だろう。運営するクラブで実際に起こった事例を挙げた。

ある試合中、まだタイムアップを迎えていないのにベンチには駐車場の方を気にしている子がいたのだという。どうやら、父親が来ているのかどうかを気にしていたようだ。幸野が「お父さんが来るのが嫌なのか?」と聞くと、返ってきたのは「負けているから、帰りが嫌だ」という答えだった。

つまり、目の前の試合よりも、帰りの車内が憂鬱であるということだ。幸野は、そう感じている子供は決して少なくないと感じている。

どういうことなのか。子供が試合に負けて悔しさを感じ、試合後に監督に“良くなかったこと”を指摘され、帰り道にも親からダメ出しされる。幸野に言わせれば、「それでは子供が『よし、次はやってやろう!』という気持ちになるわけがない。逆の立場になって考えてみてほしい」と、参加した保護者にも呼びかけた。

「会社で社長に怒られてデスクに戻って部長に注意されると、ムカつくと思います。それと同じです。だから、子供がうまくいかずに落ち込んでいる時、お父さんだったら『自分も会社で嫌なことがあるよ。こういう時は来週の試合で取り返せばいいんだよ。前向きにがんばろう』と。お母さんなら『今日はそういうことを気にしないで、美味しいごはんを作ったからたくさん食べよう』と声を掛ける。そのほうが子供は100倍、頑張れると思います。なぜ親が子供にネガティブな言葉をかけてしまうのか。それは無意識だと思うので、ポジティブな気持ちになるような声掛けを意識することが大事だと思います」

ただ褒めるだけではない。

「本当に直したほうがいいことや指摘しないといけないことがある時は、サンドイッチ話法です。まず褒めて、伝えたいことを言って、褒めて終わる」

親子の関係であっても、時にはビジネスで使われる伝え方を取り入れる。そうすることで、ポジティブマインドを維持したまま成長を促せるのだ。

幸野は首の向きを変えて参加者1人ひとりの顔を見ながら、サッカー少年少女の子供をもつ保護者に対してていねいに語りかけていた。それは、学びを得ようと会場に駆けつけた参加者へのリスペクトゆえに無意識な姿勢だったのだろう。

そして参加者は幸野の一言一句を聞き逃さないように耳をこらし、講義内容をメモし、写真や動画に収める。講義終了後、会場は「我が子が楽しくサッカーと向き合っていけるように」という純粋な親心で満たされているようだった。

【冒頭4分公開 #03】
幸野健一「我が子は16歳Jリーガー究極の自立を導く子育て」

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