素直に目の前のことに取り組む 岡山大学 藤岡 春菜 先生
石川先生にご紹介いただき岡山大学 藤岡先生にインタビューさせていただきました。
幼いころから研究者への憧れがあったという岡山大学の藤岡先生。
大学院生時は毎日泣きながら論文や申請書を書いてたこともあったそうですが、博士課程時の留学で海外の考え方やメンタルケアに触れ、自分の働き方を見直したそうです。留学のきっかけも教えてもらったからとのことでした。助言にひたむきに取り組んでいる人にはよりアドバイスしたくなるし、応援したくなるものですよね。自分で損得勘定せず、まずは取り組んでいきたいと感じました。
アリの社会における行動の研究
ー今、どんな研究をされていますか?
藤岡先生:昆虫はどのような社会を構成しているのかに興味があって、主にアリを対象に研究しています。
特に、昆虫の社会は、昼夜のサイクルにどのように適応しているのかに興味があります。昆虫も人間と同じように体内時計を持っており、きっとアリにも休む時間があるはず。でも育児や巣の防御をしなければいけないはずで、どんな働き方をしているのかを研究してきました。
トラッキングや画像処理という技術を使い、アリを自動的に追尾し、10日間くらいは様子を見られるようなシステムを共同研究者の方と作り、24時間周期の行動リズムを、私の体内時計を崩さず、観察できるようにしました。
育児をしているアリは、24時間世話をすることが分かりました。幼虫がいない時は24時間周期のリズムがあり、状況に合わせてリズムが変わっています。ヒトや、イルカやシャチなど哺乳類でもでも同じような報告があります。
ー「働きアリ」って名前ですが、ちゃんと休んでいる時もあるんですね。
藤岡先生:そうなんです。巣内でのアリ活動リズムを調べると、幼虫がいるいない関係なしに、24時間周期で動き回っていることがわかってきました。休むことなく24時間活動して大丈夫なのか疑問で、睡眠に関することも視野に入れ、最近はメカニズムの研究をしています。
ー面白いですね。そもそもなぜ昆虫の研究をしようと思ったのでしょうか。
藤岡先生:最初は、理工学部の生命科学科に行き、分子生物学系の遺伝子等を学んでいましたが、全く面白くありませんでした。
高校生で進路を決めたときは研究者になるつもりはなく、バイオテクノロジーや医療系等、人に役に立つことや応用研究に直結するような仕事に就こうと思っていました。
2回生の時の進化学の授業がとても面白く、これなら研究したいなと思いました。そこから色々と勉強をし始め、東大を訪問した時に、大学院で指導を頂いていた先生に出会ったのがきっかけで、アリの研究を始めました。
ー授業から研究者の道が開けたんですね。
藤岡先生:当時、生物は暗記が多くつまらないと思っていました。こんなに多様な生物の進化をシンプルに説明ができることに感動しました。
人としても研究者としてもプランが立てやすい
ー藤岡先生は、今、30歳でとてもお若いですよね。若いからこそできることはありますか?
藤岡先生:もともと博士進学すると決めた時点からアカデミア就職を目指していましたが、こんな早く就職できることになるとは、自分が一番びっくりしています。
嬉しいことは、もう引越ししなくていいってところと、人としての人生プランを立てられるようになったことです。
研究者として長く同じ大学にいられることは、すごくプラスだと思っています。また、学生さんと一緒に研究するのも楽しみです。もう既に2人の学生さんがアリで卒論をやりたいと言ってくれています。
―学生は、話がしやすい若い先生と組みたい子も多いように思います。
藤岡先生:そうですか(笑)。研究室の中に若いポスドクであったり、少なくても博士課程の方がいることは、キャリアを見れたり相談がしやすい面がありますよね。
―話しやすかったり、同年代の悩み事が聞きやすいところがいいなと思います。
藤岡先生:漫画の話をしたりしてます(笑)。
―学生と他の先生方だったら、どちらの方が話しやすいんですか?
藤岡先生:研究の話は、先生達の方が話しやすいです。学生さんは、研究自体まだ始まってない子もいますからね。教授は宮竹先生で、私が助教の研究室には20人ぐらい学生さんがいます。まず名前を覚えているところです。
研究人生はゴールのないマラソン
―若くして就職されたことでのポジティブな面をお伺いしました。ネガティブな面はありますか?
藤岡先生:皆さん口をそろえて、「次は大型予算とらないと」と言われることです。研究を頑張るのはもちろんなんですが「まだ次があるのか」って実感しました。こんなに頑張って就職したし、留学もしてきたのに次はお金のこと考えるのか...と思いました。
―結婚と一緒ですね。結婚がゴールじゃなくてここからみたいな(笑)。
藤岡先生:「研究人生はマラソン」ってよく言われますよね(笑)。
生きるための給料は安定してあるけれど、お金を取ることに早く頭を切り替えないといけないと思っています。
―申請して大型の研究費を取ってきて、次は自分が誰かを雇う必要があるということですよね。
藤岡先生:まだ雇われていてもおかしくない年齢ですが、雇う側にならないといけないんです。
―高校、大学を出て就職した方達は、そろそろ役職についている頃ですよね。研究者の方ってどのようにマネジメントを学ぶのでしょうか。
藤岡先生:上級生が下級生の面倒を見れるようなシステムを構築してるラボもあれば、全く個人プレーのラボもあり、研究室によると思います。
実際にポスドクを雇うことになった時は、自分が雇われていたポスドクの頃の経験を活かしてやるしかないなと思います。
就職できたことは本当に嬉しいんですが、困ったことや、愚痴を誰にも言えないっていう悩みがあります。相談したいけど、同世代はもっといろんなことで苦しんでいるので言いにくいです。同じ立場の人、同じ経験をしてる人がいるコミュニティがあったらいいなと思っています。
―若手の教授の会みたいなものはないのでしょうか。
藤岡先生:若手PIのコミュニティが海外にはあるようです。研究室の立ち上げや、学生とのコミュニケションをとるためのスラックグループがあります。
―日本で藤岡先生が作っていくことはお考えではないですか?
藤岡先生:ちょっとそこまで手が回らないです(笑)。最近、お世話になっている先輩たちが続々と独立されています。その方たちと小さな相談会がいつもできる状態ではあります。
―研究者のコミュニティめっちゃ大事ですよね。石川先生達とても楽しそうですし、本当に意義があるなと思っています。
藤岡先生:本当にそうですよね。うらやましいなと思っています。
研究者やブレーン役への憧れ
―もう少し幼い頃の話をお聞かせください。そもそも理系に進もうと思ったのはなぜですか?
藤岡先生:小さい頃から研究者への憧れはあったと思います。
セーラームーンのマーキュリーの亜美ちゃんや、名探偵コナンの灰原哀ちゃん、頭がいいアニメキャラクターに憧れていました。阿笠博士もかっこいいなと思っていました。
理科がすごく好きでした。小学校の頃は、夏の自由研究を学校に行ってやってたり、中学校の頃は、部活のあとに理科室に行って勉強していました。
祖父の影響もあったと思います。祖父は猟銃免許を持っていて、鳥を獲ったり、ウシガエルを取ってきて中華料理屋さんや業者さんに売っています。鳥の羽をむしったりとか、目の前でカエルが捌かれてる様子を見たり、、、お腹から出てきた卵を見てすごい〜って思ってました、幼稚園の頃からそんな感じだったような。カエル食べる話になったら、普通においしいよねって返答してしまいます...(笑)。
―貴重な経験ですね。面白いです。
藤岡先生:でも、高校生の頃には、昆虫はなるべく触りたくないと思ってました。未だにゴキブリは捕まえられないです。
―嫌いなものは嫌いなんですね。
藤岡先生:職業柄、嫌いとは言わないようにしてるんです。でも、自分の部屋の中に入って来られたり、予期してない時に体に触れられたりすると嫌です。容器に入ってたら全然余裕です。触らなくていいなら、見ることはできます。昆虫が好きじゃなくても昆虫学者になれます!(笑)。
―触りたい、昆虫めっちゃ好き!なタイプと、研究材料やテーマとして面白いと思うタイプとではどちらのタイプの方が研究者で多いですか?
藤岡先生:私は完全に材料として見ています。昆虫の名前を覚えたり、どこにいるとか、探すこと自体にはあまり興味がないです。しないことはないですが、そういう時は次の研究のネタとして、見ています。
私の周りにいる昆虫を研究してる方は、昆虫や生き物全般が本当に好きって方の割合が多いように思います。なぜ生き物を見つけたらそんなに嬉しいのか、どういう生き物なのかを聞くのはとても好きです。
教えてもらったことを実直に取り組む
―研究者の方は尖っていて面白い方が多いといつも思います。留学の話もお聞きしたいです。若くしてポストに就くために戦略を練って来られたのでしょうか。
藤岡先生:外部から東大に入ったので、劣等感みたいなものがあったのと、周りの凄さに圧倒されて、ずっと自分は、努力もできないし、優秀じゃないと思っています。
周りの方々に、色々と教えてもらってやってこれたなと思っています。とりあえず、「言われたことはやろう」と思い、そのままやってきました。先生に「論文いっぱい読みなさい」って言われたら読み、「留学に行きなさい」って言われたので行きました。当時は全然行きたくなかったんです。海外旅行とかも好きじゃないし、憧れもありませんでした。
―偏見ですが、同世代からすると同世代の女の子は海外旅行好きが多いと思っていました。
藤岡先生:海外に行くと疲れるんです。私が留学したスイスのフリブールは、フランス語圏で、初めはバスや電車に乗るだけでも一苦労でした。
また、予測不能な状態が苦手なんです。でも、留学してかなり変わりました。今はもう何でもこい!みたいな感じですけど...(笑)。
研究も大事だけど人生の方が大切
―留学の期間はどのくらいでしたか?日本との違いで一番感じることは何ですか?
藤岡先生:期間は10カ月くらいで、かなり短くなりました。
海外ではメンタルケアが整っているように思います。
「研究はあなたの人生の一部。健康を優先すること。研究よりもあなたの人生のほうが大事。」と当たり前に言われていました。
大学院生時代は、毎日泣きながら論文や申請書を書いていました。
―そんなに厳しかったんですか!?
藤岡先生:厳しかったのではなく、論文を書くのが苦手だったんです。でも、書くことが仕事だと思って、できるようにならなきゃってもがいていました。毎年一本は書こうと、指導教官には言われていました。とてもいい目標だったと思いますし、そのためのサポートは十分すぎるくらいしてもらいました。とりあえず、なんでもいいから書いて持っていくと、真っ赤になって返ってくるけど、それでも進捗になるので...。本当に感謝しかないです。
若手の学生さんの中には、論文を書くのが苦手と思っている方もいるかもしれませんが、これはやるしかないことかなと思います。
―自分で書かないといけないのでしょうか。
藤岡先生:研究者になりたいなら、誰かにやってもらう選択肢はないと思います。でも、一人でなくても色々と意見を聞きながら、やればいいと言われたことはあります。留学以降、そのペースはとても落ちたので、そろそろ通常営業に戻したいです。
博士の時は、自分の研究のスタイル?働き方?を模索した時代でした。自分のご機嫌取りだったり、モチベーションを維持するために、自分にはどれが一番いいのかを、試してました。すっごい根詰めて働いてみたり、数日休んでみたり。週末の飲み会を楽しみに生きていくみたいな感じに落ち着きました(笑)。生産性はあんまり変わってないと思います。その人それぞれ働き方が多様にあります。
これからがスタート、まずは目の前のことを
―未来のこともお教えください。自分の研究や人生のゴールはありますか?
藤岡先生:博士過程の途中で考えるのをやめました(笑)。
元々いたラボの先生から、「ネイチャーやサイエンスに一本大きな論文を出してようやく就職できる。」と厳しいことを言われていました。意識高く取り組んでいましたが、途中で疲れてしまいました。
敢えてあまり先のことを考えず、今、手元にある論文出そう、この実験終わらせよう、と目の前にあることをひたすら片付けていこうと思っています。
今始まったばっかりなので、この研究室でスタートさせることしか考えていません。教育ができる立場になったので、学生さんの助けになることもやっていきたい、もう少し女性の昆虫研究者を増やしたいとぼんやりとは思っています。
―仕組みを変えていく話の一方で、研究者を選ぶか、研究対象を何にするかは彼女達次第ですもんね。留学先での女性研究者の数はどれくらいでしたか?
藤岡先生:スイスのラボは七割ぐらい女性でした。いいなと思いました。同性の同世代があまりいないのは寂しいです。
―藤岡先生が今後輩出していってください!
藤岡先生:頑張ります!(笑)。でも、どうしたらできるかがまだ分からないです。
私自身が結婚や出産を経験したら分かることもあるかもしれませんが、今はまだ何もわかりません。
研究者の中にも多様な選択肢がある
―藤岡先生もとてもお若いですが、最後に若手研究者に一言お願いします。
藤岡先生:正直、一緒に頑張りましょう!とだけ言いたいのですが....
研究者になってもいいし、企業に就職してもいい...色んな道があるように、実は研究者としても色んな選択肢があるのかなと最近思っています。
論文を書くのが苦手で実験が得意ならテクニシャンになればいいですし、ずっとポスドクとして生きていくのもいいと思います。グループマネージャーのようなポストも海外ではあることを知りました。
―仕事で言うとプロマネみたいなことですね。
藤岡さん:技官さんの仕事も、秘書さんの仕事も、学生さんへのアドバイスもするようです。
多様な働き方があるのは海外だと思うので、その辺も視野にいれて頑張って欲しいです。
先輩研究者の皆様の悩んだこと、どうやって乗り越えたか、成功の裏側などをどんどん発信していきます。
次回もお楽しみにしていてください。
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