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人と比べても仕方ない。やりたいことをやっていい。京都大学 大出 高弘 先生

別所先生にご紹介いただきました大出先生にインタビューさせていただきました。

昆虫の羽の起源と形態進化の研究をしている大出先生。
アメリカにも留学もしていたようですが、その当時の自分には早すぎたとのことでした。
ハイレベルな結果を要求される代わりにすごく自由なことに戸惑ったそうです。
人と比べるのではなく、自分の中でマックスを出すことで深めていけるとのことでした。
比べるなら過去の自分。成長を積み重ねていきたいと感じました。

進化発生学の分野。昆虫の羽の起源と形態進化の研究

ー今、どんな研究をされていますか?
 
大出先生:研究対象は昆虫で、昆虫の羽の起源や昆虫の形態進化に興味があります。色々手を広げがちなんですが...(笑)。進化発生学の分野をメインに、主に昆虫を比較し研究しています。

鳥の翼がどうやって進化したのかということはよく知られていますが、昆虫の場合150年以上議論されてきた今も、わかってないことがまだまだあります。
昆虫にははっきりと羽の進化の中間段階を示す化石が見つかっていません。今、生きている昆虫を使って、羽のあるものとないものを比較し、どこが違うのかを見つけるアプローチをしています。

昆虫は、体の色んな場所を変形させて、新しい形を作ることがあります。カブトムシの角もそのひとつです。

例えば、変形の素となる細胞が頭で作られると角になったり、胸で作られると羽が生えたりするのではないかと考えています。ハサミ虫のハサミ、ゾウムシの象の鼻のようなもの、コオロギの頭が変形したものなど、色々比較して、変形原理を知りたいなと思っています。
これは妄想ですが...(笑)、変形原理が理解できれば、そのスイッチのようなものに共通する原理があるんじゃないかなと思って研究しています。

研究室で一緒にやっている学生の芯となるテーマは、大きく括ると「昆虫の形」に収束しますが、それぞれ違うことをやっていて、それがいいなと思っています。学生の頃は、初めから好きなことやっていいよ、と言われてもなかなか難しいです。ある程度提示しつつ、みんなでひとつのことをするのではなく、それぞれが色んな事をやっています。

大出先生にオンラインでインタビューさせていただきました。

「かっこいい」昆虫に興味を持ったのは、大学時代。

ーなぜ昆虫の形態変化の研究を始められたのですか?

大出先生:時間がいっぱいあるし、何しようかなと考えていた高校生の時、日本の食料自給率の低さや、レーチェルカーソンの沈黙の春が話題になっていて、環境問題に興味を持ちました。

高校の授業は基本寝てましたね(笑)。高校では剣道ばっかりやっていました。
3年生から生物だけは面白いなと思い興味を持っていたので、バイオテクノロジーを使って環境問題に携われたらいいな、と言うくらいのざっくりした感じでしたが...(笑)。

中学は野球部で、めちゃくちゃ下手で、球技が苦手でした(笑)。高校では運動部という選択肢しかなく、一緒に入った友達に誘われて、見学に行ってみたんです。剣道って人の頭を叩きますよね。そんな発想なかった!面白いな、と思い始めました。

大学に入ってからはちゃんと勉強したいと農学部に入りました。「環境」と名のつく講義には全部出ていました。環境のことを考えよう!と、当時大学で大講義室のエアコンを切ったり、そんなこともしてました。強硬派ですね(笑)。

農学部で学び、食料の話を聞いていると、技術的な問題というより、分配の問題なのかなと思いました。理系的には食糧生産量を上げないといけないという話や解決の仕方を提示していますが、ただ量産したら解決なのかな?そこが問題なのかな?と思っていました。

最近ではフードロスの問題があります。生産量はあるけどそれが分配できてないことに問題があるのではないか、と考えるようになって、わかんなくなっちゃいました(笑)。
問題が大きすぎて、解決方法もわからないまま、このまま環境問題をやってていいのかな、と感じていました。

しかし、モヤモヤしていてもしようがないので、とにかく、アウトプットを最大化するしかない。環境問題に拘らず、自分でやってみて、自分が自分の中から出てくる面白いなと思うものをやっていくしかない、と思いました。

色々講義を受ける中で、昆虫の講義を聞いた時、「ハエのひとつの遺伝子を発現させると、触角の代わりに肢ができます」みたいな話があり、遺伝子すごいなとピンときました。
一つの遺伝子でこんな形が変わるのか、としっくりきて、形の研究がしたいと思いました。

ー幼い頃からトランスフォーマーとかが好きなのかなと勝手に思っていました。そんなことないんですね(笑)。幼い頃からめちゃめちゃ昆虫好き!っていう研究者の方も多いですよね。

大出先生:全然です(笑)。実は、幼い頃から昆虫が好きでなかったというのが、めちゃめちゃコンプレックスなんですよ(笑)!
小学校の頃は動物の置物やぬいぐるみが好きでした。今も部屋にいます(笑)。今、無理やりこじつけると、動物の形が好きという原体験があるのかなと思っていますが、動物に詳しくないし、博士的なキャラでもないし、昆虫がすごく好きだったわけではないですね。

幼い頃から昆虫が好きだったという研究者の方は多いです。いつも教えてもらっていて、全然違う思考性なんだろうな、すごいなと感じています。研究者によって昆虫というテーマでも、それぞれに興味を持っている切り口が違い、色々な方向性から見れるので、それもいいのかなと思っています。

実験対象のフタホシコオロギ
実験対象のミツカドコオロギ

辛かった。思い出したくないアメリカ留学経験

ーアメリカに留学されていたのですね。お聞きしたいです。

大出先生:留学...超失敗してるんですよ。暗い話になっちゃいますよ〜。
アメリカに2年間行きました。ずっと海外に行きたかったんです。海外に行きたくて研究者になったという側面もあります。

学術振興会の研究員としてお金を頂いて行きましたが、うまくいかず、半年くらいであまり研究室に行けなくなっちゃって、朝起きてずっとジャンプ読んでました(笑)。そのうちボスからも何も言われなくなって、無職になって日本に戻ってきました。所属場所もなく、もう研究人生終わりにしようと思ってました。

とにかく毎週剣道にだけは行っていました。日本の先生が道場開いている剣道場で、アーティストや社会人や現地の人と剣道をするのがめちゃくちゃ楽しかったです。日本の上下関係の厳しい雰囲気でなく、終わったら飲んでわいわい交流して。日本では味わえない光景でとても面白かったです。

日本に帰ってきて、たまたま用事で名古屋大学に行った時、博士課程の時の指導教員だった新美輝幸先生に、一緒に飲む?って誘ってもらいました。

ー大出先生に魅力があったから誘っていただいたんですね。

大出先生:僕は、新美先生の博士課程1期生でした。先生が次に移るタイミングで、内部のことをわかってるちょうどいい人間だったのかもしれません。お互いマッチした部分があったのかもしれないですね。
新美先生から、「研究室に来る?」って言われた時、めっちゃ握手して、気持ち悪いって言われました(笑)。精神的にだいぶ参っていましたからね。

失敗だったと思う留学で得たこと

ー新美先生にはアメリカの話はしていたんですか?

大出先生:してたと思いますね。留学の頃の嫌な記憶は全部なくなってます(笑)。
ある意味めちゃくちゃいい環境でした。ポスドクとして大きな研究室に行きました。中途半端な結果は許されずハイレベルな結果を要求されるけど、あれやれこれやれと言われず自由にできました。三ヶ月は実験しなくていいからと言われたり、自由にテーマを考えることができました。そこまで自由がある経験が初めて過ぎて、戸惑いました。

学術振興会の申請書を書く時に、自分なりにプロジェクトを考えて張り切って行ったのですが、ちゃんと考えろと言われ、研究室のメンバーといろいろ話をしても研究が深まってる感じもしなくて...。

私の当時の段階としては早すぎたのかなと今となっては思います。きちんと問題を立てて、ある程度のゴールまで研究全体をデザインすることに切迫感を持って要求され、何もできなかった。

質の高い研究ができるような研究設定が博士課程の終わりまでにトレーニングできてなかったんだなと自覚させられました。
その後、モヤモヤしながら取り組んだことが、自分では伸びた部分だなと思っています。

学生のころからトレーニングはもっと意識的にしておくべきでした。

あとは”諦め”です。自分を追い詰めてもどうにもならないなと思いました。
研究職は、精神的に強くないと厳しいなと大学院のころから思っていて、メンタル鍛える為にアグレッシブで評判のボスのところに行ったら完全に潰れました(笑)。
一番大変な経験でしたね。

大出先生の研究室の様子

絶滅形質を再現したい。ゲノム編集動物園を創ってみたい。

ー研究デザインの話が出ましたが、人生のキャリアデザインはありますか?どこを目指していますか?

大出先生:絶滅形質の復活に興味を持っています。

ここは、倫理的な問題も含めて考えていかなければならないセンシティブなところですが、絶滅形質を再現することをやっていきたいと思っています。
ひとつは羽の中間段階を作っていきたいのと、他にも巨大化をやっていきたいです。
ゲノム編集で、例えば絶滅した巨大昆虫が再現できました、ってなった時に、ゲノム編集動物園みたいなのを作ったら面白いなと思っています。

最近は、ゲノム編集がますます自由にできるようになってきています。
大学院の頃から羽の進化の研究をやっていたんですけど、古生物や化石の話も絡んできます。始祖鳥のように、羽が生えていく過程は、ずっとわかっていませんでした。

昆虫が初めて飛んだ瞬間があるじゃないですか。想像するとどんな感じだろうって、たまらなくて(笑)。羽が生えていく過程を今いる昆虫から再現できないかと考えています。

海外では、マンモスや恐竜を復活させる研究が評価されて資金を調達しています。
昆虫は昔は大きかった、開張60センチのメガニューラという名前のトンボがいたと言われています。いたってことは、なれるってことだよな、と興味を持っています。

ージュラシックパークみたいなことですよね。

大出先生:ひとつのアプローチとして、学術的に出来た時に、研究室に置いておくのはもったいないと思っています。それを実際に見て、考えることができるパークがあったらどうだろうかと妄想しています。

人と比べてもしょうがない。何かわかんないけどやりたいことをやっていい

ー若手研究者に一言お願いします。

大出先生:全然うまくいってないので、偉そうな事言えませんよ。

ー実は僕、あんまり落ち込むことがないんです。悩んだり落ち込んだことのある方の考えは、成長に起因する部分があると思うのでお話いただけたら参考になると思います!

大出先生:先のことはわかんないですよね。
よく教授になりたいのかと聞かれることがあるんですが、わかんないじゃないですか。長い目で見てもわかんない。
ローリングストーンズのギタリスト、キースリチャーズが、ロックってなんですか?って聞かれた時、考え込んで、「ようやくわかってきたところだ」って言ったらしいんです。それはすごくいいなと僕は思っています。わかんないんだけどなんかやりたいんだよなってことをやっていいんじゃないかなと思います。

わかんないけどできることだったら、とりあえず外に出すものは多いと思います。人と比べてもしょうがないんです。あの人と比べて出せてない、というのは相対的なものだけど、自分の中ではこれがマックスを出せばいい。その時々で、運がよければ役に立つこともあるかもしれないなと思います。自分なりには深めていけますよね。

学生時代、進路で迷ってた時に読んだ、「人間のやりたいことは、人間について知りたいことか、自然について知りたいことしかない」という大阪大学の石黒先生の記事が心に残っています。

自分なりの大きな方向性としては、自然を考えながら生きていくほうがいいな、とざっくり決めています。先のことはよくわかんないけど、自然のことを知りたい、目の前のことをやって行くしかないと思っています。

ー今、学生さんもインターン行く人も多いし、何か目的を持ってやらないといけないいイメージがありますよね~

大出先生:そのために、何かをしなければって状況になってしまっていますもんね。

ー本当にやりたいことなのか。やっておいたほうが就活に有利だからやっているのか。
でもみんながやっていたら同じようにするのが日本の学生の特徴なのかもしれません。

大出先生:もったいないと思ってしまいますね。心の奥から理由もわからないけど自分がやってみたいことをやってほしいです。


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