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ギリシャ神話、再読

場面ごとの絵画を併せて紹介するギリシャ神話入門書を読んだ。

ギリシャ神話は、大神ゼウスや正妻ヘラ、神殿で有名なアポロン・アルテミス兄妹、海神ポセイドン、その生け贄にされかけるアンドロメダ、乙女座の由来になったペルセポネと冥界王ハデスの物語、絶世の美女ヘレナを巡るトロイア戦争とトロイの木馬、地球の重さを支えるアトラス(地軸の語源)などなど、個性豊かな神々が人間以上に広いスケールで感情を露出しあう物語で、現在でも地理や星座の語源として残る馴染み深いものである。

 神話が日常語に残っていると知ると、目に映る世界の彩りが増す。実際の自然現象や人間同士の争いを神々に仮託して後世に残したことも興味深い。神々のモチーフになった実在の人物はいるのか、ギリシャ神話的なものの見方が現在の文化や人生観にどのような影響を与えているのか。そうしたところに興味が湧いた。

 返却作業中に次に読みたい本に出会い、予約する。最近はその流れで新しい知識にであっている。興味を持つきっかけはタイトルだったり宣伝文だったり、些細なことが多い。未知の分野だと思わせられたら読みたくなることが多いのだが、久しぶりに出会った本を再読することもある。ギリシャ神話を思い出したのも、例に漏れず返却口でだった。神話を題材にした絵画を表紙に据えたその本を見て、西洋文化の基底にあるギリシャ神話について読み直したいと手に取った。

少女の頃、通っていた町の図書館には、里中満智子さんのギリシャ神話や立原えりかさんの星座物語、花物語(絵・もとなおこ)が置かれていた。夢見る少女好みの淡い色彩で描かれた美少女、美少年の挿絵にときめきながら繰るページ。自由勝手な神様たちの愛と戦いの物語。手のひらに落ちる夕方の光。現実と夢の交差する瞬間。在りし日の記憶を甦らせながら、再読した。



でも、12歳の頃とは違い、24歳の私は物語より知識を求めている。知識を得て世界の見方を広げようとしている今の私に、ギリシャ神話はどう映るのか。絵画と併せることで知識欲求を満たしつつ読めるので、ちょうどよかった。西洋に限らず絵画に疎いので、既に知っているギリシャ神話の知識と繋がることで絵画を味わうことができ、好奇心の枠が広がったことが第一の収穫だった。紹介されている絵画は代表的なものだけなんじゃないかと思うが、引用に困らない様子に、いかに西洋の画家たちに刺激深い物語であるかが示されていた。主題ごとに多数の絵画が紹介されていたが、ギュスターヴ・モローの「ヘラクレイトスとレルネのヒュドラ」は光と影の美しさに魅入ってしまったし、グリムショーの「イリス」は翅の透き通る光沢にうっとりした。この二人は他の作品も調べてみるつもり。

 ※ヒュドラは水蛇の怪物で人間を襲って食べていたため、ヘラクレスに退治された。モローの絵画はその退治の場面を描いたもので、対峙するヘラクレスとヒュドラの間に海から光が差し込んでヘラクレスの姿は陽に輝き、ヒュドラは影に移っている。正義のヘラクレスと死に澱むヒュドラが陰影で示されているように感じた。   

イリスは虹の神(精霊だったかもしれません)。キラキラしていて可愛い。


物語について読み直してまず思ったのは、初めて読んだときと変わらず「神様たちも人間も本能や欲求に忠実かつ自己中心的で、奔放すぎる!」ということ。自分の地位が脅かされたり貶められると容赦なく懲らしめる。嫉妬深いヘラがゼウスの愛人に子を産ませる場所を与えず苦しめたり、トロイア戦争に際してミュケナイ王アガメムノンに侮辱されたことを怒ったアルテミスが出陣するのに必要な海風を止めてしまい、怒りを静めるのにその実の娘を殺させたり。自身のプライドのためにあっさり人を殺してしまう恐ろしさは神らしいというべきか。非常に血なまぐさくて、勝手な行動をとる神々である。月の女神セレネが初めて恋した人間の青年を永遠に愛するため不死の命を与えたいと願い、若い姿で眠ったままの青年を夜ごとに愛した話も倒錯的で、その執着心にはぞっとするものがあった。自身の愛を完全なものにするために死体を保存するサイコパスを思い浮かべてしまった。

その一方で、エロスとプシュケー、アポロンと美少年アドニスの純愛やデメテルとペルセポネの母子愛、ナルキッソスの自己愛・外見偏重の美意識、ヘデスのストーカー的な執着愛など様々な愛の形も描かれている。

清濁ごちゃ混ぜな、非常に感情的な生々しさ、カオスっぷりがギリシャ神話の醍醐味なのかもしれない。


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