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とにかく定時で帰りたい! 「わたし、定時で帰ります。」を観て

吉高由里子さん主演の『わたし、定時で帰ります』というドラマを見ている。正直内容がめちゃくちゃ面白いというわけでもないのだけど、テレビの番組表でタイトルを見ると「そういえば定時で帰れたのかな……」と心配になってつい録画してしまう。ドラマを見ているというよりか、舞台となる会社内の様子を覗き見している感覚で、たまに見ている。

昨日は第4話の放送だった。2話と3話は見ていなかったけど、こちらとしても社内の様子を窺っているだけなので特に問題ない。「一体どうなっちゃうのー!?」などと熱を入れずに気楽に見られるところが良い。このドラマは良くも悪くも(悪くはない気がするけど)、分かりやすいのだ。

制作側の意図としても、「物語」を見せるというよりか、「仕事効率化」の実例を見せたいのかな、という気がする(私が勝手に気がしているだけかもしれない)。とにかくまあ、ドラマというフォーマットは気軽だし、さりげなく日本のお茶の間に新たな価値観が浸透していくならええじゃないか。思わずテレビの前でええじゃないかを小躍りしたくもなるというものだ。


吉高さん演じる主人公はとにかく定時で帰ることに情熱を注いでいる女である(もちろんそれ以外のことにも情熱を注いではいるが)。彼女は以前の会社で働きすぎて入院騒動に発展したことがあり、「無理はしない」と心に決めて生きているのだ。そういう「心に決めたこと」あっての方針を持つ人の労働というものは、どうやったって応援したくなるのが人情というものだ。ああここは人情の町、次郎長の町(東京が舞台だけど)。

もちろん彼女と同じ会社で働く人たちにも様々なポリシーがあって、定時で帰りたい人もいればそうでない人もいる。考えてみれば会社という場は特殊なもので、どんなに毎日通っていても、全体を俯瞰して見る機会というのはまず訪れない。働いているのだから当然のことで、人は自分のことしか見られないのだ。他の人がどんなふうに働いてるかとか、何を考えているかとか、そんなこと分かるはずもないし、そりゃそうである。会社に来たからには働くのが当然だし、ただただ毎日全体を俯瞰して見ていたら「いや何サボってんですか?」という話である。そこで本作の出番である。私たち視聴者は完全なる俯瞰の立場で会社全体を見ることができるのだ。客観性は何においても重要である。

このドラマを俯瞰で見ていると、そりゃあもう「吉高由里子よ、どうか今日も定時で帰ってくれーー!!」という願いだけが加速していく。このドラマの最重要事項はそこにあるのだ。定時で帰るか、帰らないか。問題はそこにある。

どうせ同じ分だけ仕事をするなら、速いに越したことはない(と、少なくとも私は考える)。早くやったらその分だけ時間が浮くし、実際、吉高由里子は定時で帰った後にハッピーアワーのビールを飲むことに心血を注いでおり、ああ、どうか今日も吉高由里子が定時で帰れますように。ああどうか、ビールを飲んで「ぷはー!」が出来ますように、そう願うばかりだ(そういえば、あの「ぷはー!」ってなんなんだろう。なぜ人はビールを飲んだ後に「ぷはー!」と言いたくなるのか不思議だ。やはり炭酸だから自然と半濁音が漏れるのだろうか)。


ところかわって、北欧のスウェーデンでは「フィーカ」というお茶タイムが伝統的に根付いているそうだ。幼稚園でも、家庭でも、仕事中でも、老若男女お茶をして気持ちを切り替えるらしい(そういう番組を見た)。フィーカの時間においては上下関係もなくなり、みんな一所に集まって和やかな談笑の時を過ごすのだそうだ。フィーカの時間は1回15分から30分ほど。それを1日に2回〜3回は行うのに、スウェーデンの国民一人当たりのGDPは日本の1.5倍だそうだ。

この番組を見たとき、私は頭をズガンと殴られたような感じがした。こんなに優雅にお茶をしていながら日本の1.5倍とはこれいかに。テレビ取材では良いところしか映していないというのはあると推測されるけど、それにしたって数字の差は絶対だ。スウェーデンの人たちはどんだけ効率が良いんだ。めちゃくちゃ要領いいじゃん。しかも要領が良すぎて、「要領がいいですよオーラ」すらも匂わせないスタイリッシュな佇まいなのが凄すぎる。なんで「やってますよ感」が出ないんだ。実際はやっているにも関わらず。

私たちはスウェーデンから学ぶべきことがきっとたくさんある。『スウェーデンに学ぶ仕事効率化の実例』みたいな本が出版されたら良いのになと思う。定時で帰りたい人、そうでもない人、いろいろいるだろうけれども、一人一人の生き方とか価値観はさておき、日本という国を良くしていくためにもっと仕事効率化の「ノウハウ」が浸透していって欲しいと切に願った。だって同じことやってるのに無駄に時間が掛かってたら虚しいやん。我々が必死で働いてる間にスウェーデンの人らはお茶飲んでんねんで!それで1.5倍とか!私は悔しい!知らんけど!

自分自身、働いていた頃には常に定時で帰ることに命を懸けていた(何度か転職を繰り返したので、定時どころか夜中まで働いた会社もあったけど)。初めて入った会社では「毎度毎度定時で帰りやがってあの野郎」的な空気が漂っていたのも事実である(そこでは残業が当たり前で、かつ残業代という概念が存在しなかった)。

それでも、いつも何度でも私は定時で帰りたかったし、「定時で帰る」という姿勢を身をもって示すことで、個人も会社も国も、効率良く働ける、無駄の少ない、良い方向に変わっていって欲しかった。だいたい効率良くやれば定時で終わる量なのに、無駄に時間をかけてサービス残業して、定時で帰る人には陰で文句を言って、いったい何の意味があるのか。謎だ、謎なのである。なぜ同じ量の仕事をして、定時に帰れる者とそうでない者がいるんだ。なぜもっと効率アップに命を注がないんだ!みんな一生懸命なのはわかるけど!

白い目で見られながら定時退社を繰り返していていた頃に感じたのは、「各自が行なった仕事の量が可視化されていないぞ問題」だった。人によって働き方がそれぞれ違うならば、せめて仕事を「時間」の軸だけではなくて「量」の軸で見る必要がある。やっている量が明らかになれば、いくら所要時間が短くても、「まあ、やることやってるもんね……」になるだろう。さらには「同じことやってて、こんなすぐ終わるの!?すげー!」に変わっていくかもしれない。そもそも割り振りの段階で業務範囲を明確に区切ったり、量の可視化を図っていくのも必要だろう。

もちろん要領のいい人ばかりではないので、どうしても時間がかかってしまう人もいるだろう。配分したのが同じ量なのだから、その人にだけ残業代を払うのも憚られるし、かといって完全裁量労働制にして残業代がゼロになるのもよろしくない。ゆくゆく職場がブラック化していくのはもっとよろしくない。私は労働のエキスパートではないので、具体的にどうしたらいいかとかそんなことはわからないけど、とにかくみんな私生活も充実して楽しく働ける世の中になってほしい。

日本人みんなが仕事効率化やらビジネスのあり方について熱心に考えていると言ったら、そういうわけではないと思う。教育の機会が得られない人とかいろんな人がいるだろうし、でもみんな働かなきゃいけないのは事実で、必死で毎日を生きている中でただ漠然と「仕事がなかなか終わらない」とか、「職場がブラック」と悩んでいる人は多いと思う。だからこそ「仕事効率化のノウハウ」が具体的に、ドラマという親しみやすいフォーマットを通して日本中のお茶の間に届き、新たな価値観が一人ひとりに浸透していけばいいのになと思った。

ああどうか、来週も吉高由里子さんが定時で帰れますように。

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