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鑑賞記録|忘れたいことと、食事と、『忘却のサチコ』

『忘却のサチコ』というドラマを見ている。主演の高畑充希さんのコメディエンヌとしての魅力が輝いていて、観るだけで楽しい気分になる、明るいドラマだ。

明るいと言っても、物語の背景はそう明るいものでもなく、主人公のサチコは結婚式会場で新郎に逃げられた過去を持っている。普通に描けば強烈な闇だが、それを軽快に描いてしまえるところがエンターテイメント的で良いなぁと思う。

ちなみにサチコはなかなかの変わり者だ。「変なことをしよう」とか「人と違うことがしたい」と思ってるわけではなく、ただひたすら真面目に生きている結果としておかしなヤツになってしまっていて、愛らしい。

出版社で働いているサチコはもちろん仕事にも真面目一徹で、作家の要望にもひたむきに応える。このあたりは文章を書くのが好きな人には気になる光景でもあると思う。

サチコは結婚式から数ヶ月経っても、元婚約者(俊吾)のことが忘れられない。日常のふとした出来事で、彼もあんなことを言ってたなとか、私はなんて酷いことを言ったんだろうとか、過去のあれこれを思い出し、逃げられてしまった理由を考える。忘れたいのに、忘れられない。

だからサチコは飯を喰う。彼を、自分を、すべてを忘れるため、その瞬間だけは目の前の食事に集中する。サチコがパクパクもりもりと(それでいて美しく)、食べまくるシーンは圧巻だ。

『忘却のサチコ』は、ただのグルメドラマではない。サチコには食べる理由があるのだ。忘れるために。考えないために。食事にはすべてを忘れさせる力がある。食べるという行為の彼方にあるのは、忘却だ。

誰にでも忘れたいことくらいある。サチコがそうであるように、私にも。

過去の出来事はふとした瞬間に顔を出す。忘れたいのに、思い出す。私はそのたびに心臓がひっくり返りそうになって、早く呪いから開放されますようにと願うしかない。自分がやったこと。誰かに言われたこと。起きてしまったこと。何もかも、何もかもが脳にキリキリと刻まれている。

考え疲れた時には、ゆっくりお茶を飲むようにしている。お茶菓子があれば最高だ。テレビもスマホも見るのをやめて、お茶の湯気で顔を蒸しながら、ふうふう、ふうふう、ゆっくり飲む。その時だけは、不思議と何も考えずに済む。まるでトリップでもしたみたいに、無になって、すうっと落ち着く。サチコもきっとこんな感覚なんだろうか。

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