Fujiyama

東南アジアの街や田舎を歩いたり住んだりしながら、人の生きる姿はいろいろあることを感じて…

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東南アジアの街や田舎を歩いたり住んだりしながら、人の生きる姿はいろいろあることを感じてきました。 日本でもどこでも、それぞれに、人は一日一日を生きている。 わたしも、そう。 そんななかで、ふとした瞬間に気づいたことなどを、ここに書きとめておこうと思います。

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最近の記事

雨のしずく

何日ぶりかに梅雨がもどった ガラス窓についた雨のしずく しずくがここにくるまでに吸収した この世のあらゆる物語を凝縮する刹那の輝き ふと気づくと 窓ガラスには ただわたしの不確かな身体が冷たく映っていた しずくはもうない

    • 花の孤独

      あじさいの花が咲いた 公園の入り口のところ われこそはと 無数の花が咲き乱れていた けれでも 花たちは 浮かぬ顔をしている どうしてだろう 世界はしんとしてなにもない 虫も菌もウィルスも何もいない ひといきれやぬくもりもない 梅雨に濡れて あじさいの花はひときわ艶めく でも 花たちが触れるのは ただ空っぽの空気だけ 私たちは 誰に向かって咲いているのだろう 花たちは だんだん空虚な気分になった ひとつまたひとつ 花の魂は衰弱し消えていった 抜け殻となった花は 枯れること

      • こころはどこだ

        わたしのこころはどこにあるのか わたしのこころはどこかにはある 眼の奥のほうに ———— そのうつろな眼のなかにうつろなこころ 青雲のむこうに ———— こころ 風になって飛んでいってしまえ 心理学実験室に ———— 切り刻まれたこころのいたみよ 神のひざの上に ———— カミノミココロノママニ  あなたのなかに ———— [ ]  わたしのこころはどこ

        • 静かな街

          通りを行き交うひとびとは みななぜか口に蓋をされ、心に錠前をかけられている 魂は浮かび上がることができない 狭いからだに閉じ込められ もう息も絶え絶えだ あんなにも たくさんの魂が舞い 渦をまいていたというのに あんなにも 活力 ぬくもり うるおい が充ちていたというのに いまはただ無味乾燥な空気があるだけ 強力なフィルターでぜんぶ濾してしまったように 空虚な空は不気味に静かだ 川の向こうあたり カラスが一羽 乾いた声でカアと啼いた その声は キンとした空気を よく響いた

        雨のしずく

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        • こころの探索
          9本
        • 梅雨のうた
          10本

        記事

          舌をかんだ

          また舌をかんだ こんどは右側の奥のほう コロコロしたしこりが 奥歯に当たる 痛くて仕方ない ということはないが なんとなく 不快 気になって仕方ない ということはないが 一〇パーセントくらい 常に気を取られる でも 実は いつかんだのか覚えていない コロコロ不快なのに気がついて あ かんだみたい———— 膿んで腫れて ということもなく 放っておけば やがて治るだろう かんだことすら 忘れてしまうだろう そして またまた かむだろう いやだいやだといいながら くっつたり

          舌をかんだ

          眠れぬ夜に

          静寂が耳に突き刺さる午前二時 夜の闇は底が抜け 意識はどこまでも沈潜する 黒の世界 あらゆるものが輪郭を失う あらゆる力から解き放たれる わたし あなた ひとびと ものごと おもい みな 小さな粒子となり 溶け出す 無数の粒子が 渾然一体となり 不規則に浮遊し 消え また現れる 黒い海のなかに あのひとのほんのちいさなかけらを見つけた それだけだった やがて粒子たちは それぞれ元のからだに 戻っていった 耳に突き刺さる静寂が戻ってきた どこかで鳥が鳴いている 夜明

          眠れぬ夜に

          四次元のアジト

          初夏の碧い日差しが 高層ビルに反射しあう 露出オーバーな世界が まぶしい ビルの谷間にひっそり 小さな社が佇む こんもり繁る木々は 外界の喧噪と過剰な光を遮断する その昔 真田幸村がここで死んだという 道明寺から天王寺にかけて 激戦のなか多くの将兵が落命したときのことだ いま ガラスとコンクリートとアスファルトの連合体が 死者の無念の魂を がっちりと封じ込めている でも この社の森は 人目を避けるように時間の束を保存する 四次元のアジト 幸村が果たし得なかった想い

          四次元のアジト

          魚の生

          漁港から届いた魚が 市場に並ぶ あわれ  捕らわれた魚たちよ おおきな眼を見開き ギロリと睨めつけ 涙をこらえ 鰓や口をビクッと動かし 大見得を切る あるいは 静かに どこか遠くを見ている 買われた魚は 順に 奥に運ばれて行く 最期のときにも うろたえることなく 魚は魚として  運命を受け入れ その生を全うする 魚を食すとき わたしは 魚の生そのものをかみしめるのだ 甘く ときに 苦い いとしいひとと離れざるを得なかった 言いようのない切なさも 死に臨んではどこまでも

          魚の生

          波と光

          海に波が立つのは 太陽の熱のためだという はるかかなたから じんわりと ぬくめる いま こころに波が立つのは きっと どこか遠くから じんわりとぬくめてくれるひとがいるからに 違いない こころの波に身をゆだね おぼれ 沈んでみよう もっと もっと奥底まで 暗く深い闇のなかまで あなたのぬくもりがひとすじの光となって 届いている それを確かめに その光をたぐりよせ ぬくもりに酔いしれ 意識が消え去ろうとする瞬間 あなたとわたしのほほえみが溶

          波と光

          がらんどうのそらへ

          こんな夜は ガラスの飛行機にのって 空高く飛んで行こう 飛んで行こう 重たい空気をつきぬけて ぶあつい雲をけちらして 高く もっと 高く さえぎるものがなにもない がらんどうのそらへ またたく星たちに 手が届くまで 星にあいさつをして 星とともに謳い 腕を組んで 踊ろう

          がらんどうのそらへ

          灰色の川

          降りそうで降らない 鈍く重たい雲が包み込む 朝 灰色の川 水は生気なく滞り 水辺に生い繁る雑草の緑もさえない 鳥は哀しく啼き 橋を往来する車も ただただ無言のままうつむく 宙ぶらりんの朝は この世のあらゆる精を吸い取り やがて雨に流すのだろう

          灰色の川

          帝塚山四丁目駅のあたり

          チン チン ウーン ゴト ゴト  ガタ ゴト ぱらついていた雨もやみ  雲間には青い空もちらほら 公園で遊ぶ子どもたちのこえがきこえる 電車が通ると ちいさな手をのばして 指をさす 四つ角のケーキ屋さん  最近できた話題のパン屋さん  昔ながらのうどん屋さん  瀟洒なおうち 自転車が側をゆきかう 路面はまだ濡れている 電車は ガタ ゴト  ゆっくり進む * チン チン ウーン ゴト ゴト  ガタ ゴト あのときもこんな梅雨の晴れ間だっ

          帝塚山四丁目駅のあたり

          芽生えのころ

          おさなごが 公園で拾いあつめたドングリを 庭にまいた 冬がすぎ ドングリは人知れず芽を出した 小さなドングリも 大きなドングリも 細長いドングリも ずんぐりむっくりなドングリも みんな芽を出した ドングリの芽は 両手を伸ばして 上へ 上へ 小さな葉っぱの芽も 大きな葉っぱの芽も  ギザギザ葉っぱの芽も まんまる葉っぱの芽も みんな両手を伸ばして 上へ 上へ 梅雨の祝福を一身に浴びて いつの日か  あの雲をこえ あの空をこえ もっともっと果てしなく

          芽生えのころ

          晴れ間に

          ひとりまどろむ ひさびさの陽光に照らされ はりつめた朝の静寂が こころなしかやわらかい ピアノ曲をかけてみる 隣家の娘が調子っぱずれに歌っている 狂気の平行線上にある穏やかな時間 隣家の娘は歌うのをやめた ぼくはピアノ曲をとめた やわらかい静寂をむかえにゆこう

          晴れ間に

          雨の夜に

          闇夜の雨が屋根をたたく ぼくはひとり遠くを想う トン テン カン テン トン トン トン トン タン テン トン カン カン カン (・・・どうしてるかな・・・) ジャンドンドンジャンジャバジャバジャー ゴーゴードンジャンゴーゴーゴー (「あ、もしもし・・・」) トン テン テン トン テン トン トン (「・・・うん、またね・・・」) トン        トン         ト          ト (・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・) ・

          雨の夜に

          雨の合間に

          まだ新鮮な雨のにおいがかぐわしく 自転車をはしらす ヤマボウシのはなが 洗い髪のように艶めく

          雨の合間に