帝塚山四丁目駅のあたり
チン チン
ウーン
ゴト ゴト
ガタ ゴト
ぱらついていた雨もやみ
雲間には青い空もちらほら
公園で遊ぶ子どもたちのこえがきこえる
電車が通ると ちいさな手をのばして 指をさす
四つ角のケーキ屋さん
最近できた話題のパン屋さん
昔ながらのうどん屋さん
瀟洒なおうち
自転車が側をゆきかう
路面はまだ濡れている
電車は ガタ ゴト
ゆっくり進む
*
チン チン
ウーン
ゴト ゴト
ガタ ゴト
あのときもこんな梅雨の晴れ間だったな
あのおうどん屋さん まだあるんだ
きれいなお店がふえて さすがよね
あのひと どうしてるんだろう
駅のベンチに座って
何台も何台も電車をやりすごして
ずっと
よくそんなにしゃべることあったもんよね
あら うちの制服
わたしも あんなだったな
電車
乗ってみようかな
*
チン チン
ウーン
ゴト ゴト
ガタ ゴト
なんやあ
雨 やんだんや
だったらここで
待っとこう
もしもし
(ごめんね わざわざ)
もうやんでるから
四丁目の駅で待ってるわ
梅雨時に傘忘れるなんて
ぼーっとした子やな
妙に
似てる
*
チン チン
ウーン
ゴト ゴト
ガタ ゴト
帝塚山四丁目の駅からほどちかい女子校の制服の群れが
ゆるやかな坂を上がってくる
一人が手を挙げ走り寄る
片手に傘を二本携えた男がもう片方の手をふる
ゴト ゴト
ガタ ガタン
電車が駅に停まった
扉が開いた
ベンチに座っていた男とその娘が立ち上がる
反対側の歩道から
一人の女性が小走りに駆け寄る
男の眼のなかでふたりの像が重なった
三十年の隔たりが
電流となり 時間を止めた
路面はまだ濡れていた
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