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Fujiyama
2021年6月5日 22:46
何日ぶりかに梅雨がもどったガラス窓についた雨のしずくしずくがここにくるまでに吸収したこの世のあらゆる物語を凝縮する刹那の輝きふと気づくと窓ガラスにはただわたしの不確かな身体が冷たく映っていたしずくはもうない
2021年6月4日 01:36
あじさいの花が咲いた公園の入り口のところわれこそはと 無数の花が咲き乱れていたけれでも 花たちは 浮かぬ顔をしているどうしてだろう世界はしんとしてなにもない虫も菌もウィルスも何もいないひといきれやぬくもりもない梅雨に濡れて あじさいの花はひときわ艶めくでも 花たちが触れるのは ただ空っぽの空気だけ私たちは 誰に向かって咲いているのだろう花たちは だんだん空虚な気分になった
2021年6月4日 00:36
わたしのこころはどこにあるのかわたしのこころはどこかにはある眼の奥のほうに ———— そのうつろな眼のなかにうつろなこころ青雲のむこうに ———— こころ 風になって飛んでいってしまえ心理学実験室に ———— 切り刻まれたこころのいたみよ神のひざの上に ———— カミノミココロノママニ あなたのなかに ———— [
2021年6月2日 22:59
通りを行き交うひとびとはみななぜか口に蓋をされ、心に錠前をかけられている魂は浮かび上がることができない狭いからだに閉じ込められ もう息も絶え絶えだあんなにも たくさんの魂が舞い 渦をまいていたというのにあんなにも 活力 ぬくもり うるおい が充ちていたというのにいまはただ無味乾燥な空気があるだけ強力なフィルターでぜんぶ濾してしまったように空虚な空は不気味に静かだ川の向こうあた
2021年6月2日 02:10
また舌をかんだこんどは右側の奥のほうコロコロしたしこりが奥歯に当たる痛くて仕方ない ということはないがなんとなく 不快気になって仕方ない ということはないが一〇パーセントくらい 常に気を取られるでも実は いつかんだのか覚えていないコロコロ不快なのに気がついてあ かんだみたい————膿んで腫れて ということもなく放っておけば やがて治るだろうかんだことすら 忘れてし
2021年6月1日 12:34
静寂が耳に突き刺さる午前二時夜の闇は底が抜け意識はどこまでも沈潜する黒の世界あらゆるものが輪郭を失うあらゆる力から解き放たれるわたし あなたひとびと ものごと おもいみな 小さな粒子となり 溶け出す無数の粒子が渾然一体となり不規則に浮遊し 消え また現れる黒い海のなかにあのひとのほんのちいさなかけらを見つけたそれだけだったやがて粒子たちはそれぞれ元のからだ
2021年5月31日 16:36
初夏の碧い日差しが高層ビルに反射しあう露出オーバーな世界がまぶしいビルの谷間にひっそり小さな社が佇むこんもり繁る木々は外界の喧噪と過剰な光を遮断するその昔真田幸村がここで死んだという道明寺から天王寺にかけて激戦のなか多くの将兵が落命したときのことだいまガラスとコンクリートとアスファルトの連合体が死者の無念の魂をがっちりと封じ込めているでもこの社の森は人目
2021年5月29日 09:45
漁港から届いた魚が市場に並ぶあわれ 捕らわれた魚たちよおおきな眼を見開きギロリと睨めつけ涙をこらえ鰓や口をビクッと動かし大見得を切るあるいは静かにどこか遠くを見ている買われた魚は順に奥に運ばれて行く最期のときにもうろたえることなく魚は魚として 運命を受け入れその生を全うする魚を食すときわたしは魚の生そのものをかみしめるのだ甘く ときに 苦いい
2021年5月27日 23:19
海に波が立つのは太陽の熱のためだというはるかかなたからじんわりと ぬくめるいま こころに波が立つのはきっと どこか遠くからじんわりとぬくめてくれるひとがいるからに違いないこころの波に身をゆだねおぼれ沈んでみようもっと もっと奥底まで暗く深い闇のなかまであなたのぬくもりがひとすじの光となって届いているそれを確かめにその光をたぐりよせ