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魚の生

漁港から届いた魚が
市場に並ぶ
あわれ 
捕らわれた魚たちよ

おおきな眼を見開き
ギロリと睨めつけ
涙をこらえ
鰓や口をビクッと動かし
大見得を切る
あるいは
静かに
どこか遠くを見ている

買われた魚は
順に
奥に運ばれて行く
最期のときにも
うろたえることなく
魚は魚として 
運命を受け入れ
その生を全うする

魚を食すとき
わたしは
魚の生そのものをかみしめるのだ
甘く ときに 苦い

いとしいひとと離れざるを得なかった
言いようのない切なさも
死に臨んではどこまでも孤独だという
厳然とした事実も

魚よ
わたしの血肉となり
わたしの甘さ苦さに融合せよ
わたしの切なさをともに感じよ

いつか
無数の生と
ともに
天に昇ろう

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