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物語『動物たちの幸せ談義』

 心安らかに生きられる物語。動物たちが「幸せとは何か?」について語り始めます。最後に白い鳩がやってきて、言います、「手に入れたものはいつか手放さなければいけなくなる。最も大切なことは・・・ではないかしら」と。そして、「そのために必要なものは・・・ではないかしら」と。

 今日は動物たちの「幸せ談義」の日です。たくさんの動物たちが広場に集まってきました。そして、「幸せとは何か?」について語り始めました。
 一番目にカバが言いました。
「幸せって、やっぱり食べることだよ。お腹いっぱい食べられたら、生きていける。食欲とか性欲とか、感覚的な欲望を満たせば、それで幸せだよ」
 二番目にクマが言いました。
「いやいや。食べ物や着る服や住む家を手に入れるためには、お金が必要だ。お金をたくさん持つことが幸せなんじゃないかな。お金があればなに不自由なく暮らせるから」
 三番目にイヌが言いました。
「いやいや。ただ単にお金がたくさんあればいいっていうもんじゃないよ。好きなことを仕事にできるっていうことが幸福だ。一日の大半は仕事をして過ごすんだ。好きなことを仕事にしながらお金を手に入れることができれば、それでハッピーだ」
 四番目にヒョウが言いました。
「いやいや。健康な体でいることが大切だよ。病気にかかったりケガをしたりした時はつらいものだ。健康があってこそ、仕事やいろいろなことにチャレンジできるんだから」
 五番目にヒツジが言いました。
「いいえ。自分だけがいいというのでは本当に幸福にはなれないわ。家族がみんな元気でいることが幸福だと思うわ。家族がいるからこそ、自分が存在できるわけでしょう?」
 六番目にウマが言いました。
「いやいや。家族なんて、ただ血がつながっているというだけじゃないか。大切なのは友達だよ。自分のことを本当に理解してくれて、何でも話すことができる大切な友達がいるということが、幸福だよ」
 七番目にシカが言いました。
「いいえ。友達よりも、好きな異性と一緒でいられることが幸せではないでしょうか。友達なんてやがて離れてしまうけど、愛する人とはずっと一緒ですから。好きな人と一緒にいられれば、うれしい気持ちがずっと続きます」
 八番目にハムスターが言いました。
「いいえ。家族でも友人でも恋人でも、裏切る可能性があるわ。裏切らないのはペットよ。ペットと一緒に生きる生活こそ、幸せな生活よ。ペットは私に対して無償の愛を表現してくれる。絶対に裏切ったりしないから」
九番目にウシが言いました。
「いやいや。家族や友人や恋人やペットと一緒にいられても、悩みがあったり憂鬱だったりしたら、頭の中は不安でいっぱい。心配事がなくなって、心の底から笑えることが一番幸せなことだと思うけど」
 十番目にネコがいいました。
「いやいや。やっぱり自由に生きるということが幸福だよ。誰かに指示されて、やりたくもないことを無理にやらされるなんて、最低だよ。何の束縛もなく、自分の思ったように行動でき、好きな時間に自分の好きなことができるということが、幸福だよ」
 
 みんなの意見を聞いていたオウムが言いました。
「『幸せが何か』は、動物それぞれで、なぜ違うんだろう?」
 フクロウが言いました。
「それは、動物それぞれで価値観が異なるからではないかしら。動物それぞれで育ってきた環境が違いますし、受けてきた教育も違いますから」
 オウムが言いました。
「なるほど。でも、『幸せは何か』について様々な価値観がある中で、僕はどうして生きていったらいいんだろう?」
 フクロウは言いました。
「それは、『自分は何を幸せと感じるのか?』、『自分にとって幸せとは何か?』を考え続け、そして、その問いに自分なりの答えを出すことだと思うわ。なぜって、あなたが幸せかどうかを決めるのは、他人ではなく、あなた自身だから。他人ではなく、自分自身が『自分は幸福だ』と思えることが大切でしょ?」
 その時、白い鳩が飛んで来て、言いました。
「手に入れたものはいつか手放さなければいけなくなる。食べ物もお金も仕事も健康も家族も友達も恋人もペットも心配事のない状況も自由な状況も、やがていつか失われる。だから、最も大切なのは、欲を手放して執着しないことではないかしら? そしてそのためには、『見極め』が必要。真実・ありのままを見る目を研ぎ澄まし、『本当の自分自身が何者であるか』を見極める知性を持つことが必要・・・。私はそんなふうに思うわ」
 そう言うと、白い鳩は大空へ飛び立っていきました。そして、天高く舞い上がると、白い鳩はピカッと光り輝きました。次の瞬間、白い鳩は消え、目に見えなくなりました。

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