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犬の乳歯が残ってる!抜歯すべきか、するならいつか?(獣医師作成記事)

犬の乳歯遺残は口臭と歯周病の原因になります。乳歯が残っているなら抜歯をすべきですが、そのタイミングや乳歯抜歯のみで麻酔をかけることへの抵抗感もあるはず。抜歯の時期や方法について解説していきます。

犬の乳歯がまだ残ってる!抜歯したほうがいい?

しほ先生『愛犬の乳歯について相談したい」という飼い主様がいらっしゃっています。とうの先生、よろしくお願いいたします。』

とうの獣医『獣医師のとうのです。よろしくお願いいたします。』

相談者『はじめまして。よろしくお願いいたします。我が家では6ヶ月のトイプードルを飼っています。
先月、動物病院で健診を受けたのですが、乳歯が残っているとの指摘を受けました。そろそろ避妊手術を受けさせたいとも考えているので、その手術と同時に乳歯の抜歯をしてもらうべきか、乳歯が残っていても気にしなくていいのか、と決められずにいます。どうしたら良いでしょうか?』

とうの獣医『ご相談ありがとうございます。小型犬は乳歯が残りやすいですから、実に多くの飼い主さんがこの問題に直面します。
まず、歯の生え替わりの時期と乳歯が残ってしまう状態についてお話しますね。』

乳歯遺残とそのリスク

乳歯が生え変わりの時期を過ぎても残っている状態のことを「乳歯遺残(にゅうしいざん)」と言います。乳歯が残りやすいのは上下とも犬歯の部分で、永久歯に比べ、細くて鋭い形をしています。
もちろん、犬歯以外も乳歯が残ることがありますから、わからない場合は動物病院で診てもらいましょう。

乳歯の写真

乳歯の生え変わりは一般的に5〜7ヶ月令で起きます。乳歯と入れ替わりに永久歯が生えるか、または乳歯の横から永久歯が生え始めて、徐々に乳歯がぐらついて抜けます。乳歯が早くに抜けることで、永久歯が正常な位置(乳歯が生えていたあたり)に動き、正常な噛み合わせになります。

乳歯は早ければ4ヶ月令ごろから生え変わり始め、6ヶ月になる頃には全て生え変わっていることもあります。逆に7ヶ月令を過ぎても乳歯のグラつきがなく、横から永久歯が生えてきている場合は乳歯遺残となる可能性が高くなってきます。この場合は乳歯抜歯を行わないと、歯並びが悪くなり不正咬合(噛み合わせが悪い)や、歯周病となるリスクが高まります。

相談者『やっぱり、乳歯が残っているのは良くないし、抜いておいた方がいいのですね!』

とうの獣医『そうですね。実際に乳歯が残ったままになっている犬の歯科健診をしてみると、2歳くらいの若齢の子でも乳歯と永久歯の間を中心に歯石がついてしまい、歯肉炎が起きていることがあります。たった2〜3歳でも歯周病が始まっているんですよ。』

相談者『なるほど。では乳歯が抜けないようなら、抜歯をするということは心に決めました!あとは時期をいつにするか迷っているのですが…。
避妊手術と一緒に処置をしてもらえることもあると聞きましたが、本当ですか?』

とうの獣医『はい。病院によって方針は様々ですが、乳歯抜歯は避妊・去勢手術と一緒に処置をすることは一般的に可能です。
乳歯抜歯も全身麻酔が必要ですが、避妊去勢手術と一緒にすれば麻酔が1回で済むというメリットがあります。特に、女の子の場合は初回発情(ヒート)前に避妊手術を受けることで、その後に乳腺腫瘍が発生する確率が変わってきますので、6ヶ月令を目安に避妊手術を受け、その際に残っている乳歯を抜いてしまうパターンが多いです。
私が飼い主様にオススメしている流れを説明しますね。』

犬の乳歯の抜歯はいつ?

乳歯抜歯のタイミング

乳歯抜歯のタイミングはいつ?

①6ヶ月令を過ぎている。
②乳歯のグラつきがない。
③横から永久歯が生えてきている。

上の3つ全てにあてはまる場合は、避妊去勢手術と同時に抜歯を勧めます。

特に避妊の場合は今後の病気の可能性を考えると、初回発情前の手術が理想的です。このため、残っている乳歯の本数が多くても、避妊手術のタイミングに合わせて乳歯抜歯を行うことが多いです。この時点で乳歯のぐらつきがなく、永久歯が生えてきていない歯は一旦様子見とすることもあります。

去勢手術(男の子)の場合は、乳歯の生え変わり状況に応じて7ヶ月令以降まで待つこともあります。いずれにせよ、7ヶ月令を過ぎて永久歯とグラつきのない乳歯が同時に生えている(乳歯が永久歯の邪魔をしている)場合は、早めの処置を勧めています。

1歳を過ぎても乳歯遺残がある場合は、できるだけ早い乳歯抜歯と歯周病対策のためのスケーリング処置を勧めます。

先ほど「避妊去勢手術と一緒にすれば麻酔が1回で済む」とお話したばかりですが、麻酔は持病やリスク犬種(短頭種など)でない場合は、基本的に安全にかけられるものですから、絶対に人生(犬生)で1回で済ませないといけない!というものではないのです。

相談者『わかりました。来週、かかりつけで避妊手術の相談をしようと思っていたので、その時に乳歯抜歯を一緒にしてもらえるか聞いてみます。
乳歯抜歯って、どんな処置をするんですか??痛いのでしょうか??』

とうの獣医『乳歯抜歯は全身麻酔下で行います。金属製の細い専用の器具を歯と歯肉の間に入れて抜けやすくしてからスポン!と抜きます。ぐらつきがある歯の場合はすぐに抜けますし、痛みは少ないですが、全くグラつきのない歯の場合は根元までしっかり歯肉から分離しないといけないので、それなりに痛みがあります。
鎮痛剤として局所麻酔や全身の痛み止めを使い、できるだけ痛みを感じないよう工夫します。』

相談者『なるほど。うちの子は女の子だし、もう6ヶ月だし…。歯周病や乳腺腫瘍など今後のことを考えると、早く決断した方が良さそうですね。』

とうの獣医『そうですね。ただし、焦りは禁物です。犬はとても個性豊かな動物です。体の大小だけでなく、歯の生え変わりも体の成長も、その子その子によって違います。
大事な我が子が手術を受けるのですから、主治医の先生とよく相談して、わからないことや不安に思うことはしっかり聞き、納得した上で、”我が子にあったプラン”を決めてください。』

相談者『わかりました。確かに、いつ乳歯が抜けるかも、いつヒートが来るかも、それぞれによって違うし絶対の正解なんてきっと無いですよね。
少し気持ちが楽になりました。動物病院では先生に遠慮してしまって気後れしがちですけど、しっかり相談して決めたいと思います。ありがとうございます!』

終わりに 犬の乳歯抜歯で愛犬を守る

【要点】

  • 乳歯遺残は、不正咬合や歯周病の原因となる。

  • 6ヶ月令を過ぎても乳歯にグラつきがなく、横から永久歯が生えている場合は乳歯抜歯処置について主治医に相談する。

とうの獣医『乳歯遺残と処置のタイミングについてご理解いただけたでしょうか?ここでご説明したものはあくまで一例であり、その子その子によって状況は変わってきますが、参考になれば幸いです。』

しほ先生『はい、よく分かりました。
そもそも乳歯がどれなのか、わからないという方も多いと思うので、まず病院で歯を診てもらうのがいいかもしれないですね。』

とうの獣医『しほ先生のおっしゃる通りです。成犬になるまで乳歯が残っていることに気付かない、という飼い主さんもいます。ワクチンをペットショップで済ませていて、1歳半を過ぎて初めて病院にワクチンを受けにきた際に初めて乳歯のことを知った、というパターンです。
その時にはすでに歯石の沈着が始まっていたりするので、処置としては抜歯とスケーリングが必要になってきます。』

しほ先生『そうですよね…。
ワクチンや避妊去勢手術のことは教えてもらえても、乳歯遺残のことを知る機会はあまり無いですよね。
とても参考になりました。ありがとうございました。』

とうの獣医『いえ、こちらこそありがとうございました。』

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