使うためのしまい方と引き出しの選び方
経験から得たものを自分の引き出しにしまっておき、長い年月の中で必要に応じて取り出しその場に活かすということは誰しもやってきたことではあると思う。皆誰しもたくさんの引き出しを抱えて生きておられるかと思う。
私は引き出しにしまう前にそのものの【外側を削ぎ落としてからしまう】。そして幾つかある中で、今この状況に使えるのはどれか【引き出しの選び方】に注意している。今日はその2点について綴ろうと思う。
まず削ぎ落としてしてからしまうことについて、少し噛み砕いていく。
流動的に変わりゆく状況と人に対して、あなたがあの頃にストックしたものを今駆使しても時に的外れにならないだろうか。
私はどの状況においても変わらない本質だけを残して、それ以外は削ぎ落としてからしまう。
数年前に遡る。ホテルマンとして勤務していた頃。
その日は比較的穏やかな一日であったが、午後一とも夕方とも言えない時間にフロントの電話がなった。
私は何気なく受話器を取った。ご立腹だった。内容については割愛するが、数時間前のとあるフロントスタッフの対応が引き金となり、今億単位のお金が動く惨事だとお客様は言う。たまたま受話器を取った私が何故か代表して部屋に呼び出された。
結果からいうと、
このお客様はその後リピーターとなり良きお客様となった。
この結果は外側を削ぎ落とし本質を残したことで得られたと私は認識している。
というのも【クレームが発生したときには真っ先にお客様の言い分を全て吐き出させてとにかく謝罪する】事を前もって教わっていたのだが、私はこれについてもある程度削ぎ落としていた。私はどこを削いで、どこを本質と捉えていたか。
削ぐべきは外側である”最初に全て吐き出させての謝罪”であり、本質は”情報の収集と整理をし改善にあたる”ということだ。
この状況においては、吐き出させることで心中にある感情とその矛先、問題が起きた物理的な細かい状況を取りこぼし無く受け取り、客観的に状況を整理した。お客様と状況に合わせた言葉選びと判断が求められた。
吐き出させることでお客様の気分としてはまずスッキリするはずだ。一見そのようにその場を凌ぐ方法にも見えるが、それだけではその場が一瞬穏やかにはなるがまた同じ事が他で起きるであろうし、このお客様はまたいらっしゃるだろうか。本質や根本の解決に努めることの重要性を改めて感じる。
外側を引き出しにしまっていたら、あの頃の私はどのような対応をしていただろうか。背筋が凍る。
次に引き出しの選び方について触れる。
内装会社に勤めていた頃、内装工事が終わった後に施主に現場を引き渡す際の注意点の一つとして、玄関により力を入れて抜け目なくやることの重要性を教わった。これは施主が完了の検査をする際に、はじめに目に飛び込んでくる玄関の印象が良いと、その後に見る他の部屋についてある程度印象が良くなるからだ。削ぎ落とした私はファーストインプレッションを良くすることでその後全体の評価を引き上げるという方法をしまいこんだ。そして飲食店でまたそれを取り出すことになった。
もちろんお店の入口を見た際に内装会社の引き出しから前述の学びを引き出して、入り口を綺麗にすることでお店全体の印象を良くするというのが自然な引き出し選びであろう。
私の場合この引き出しに手をかけたのは料理を出すところだった。
お通しや最初の1品をより完成度を高くすることで、サービスや料理とお酒についても印象を引き上げようとした。
やはり上手くいった。そういった引き出し選びを繰り返してお店の各所に散りばめると、確かに少しずつ良き変化が連鎖していたように思う。全く関係が無い様に見える両者こそコレまでにない策をお互い持ち合わせていると信じているので、より関係性が薄く思われる引き出したちをあさる。
クセだ。
何かを得たと感じた時に内に秘められた本質を探し出すクセができれば、考えずとも体が自然に削ぎ落とし、気づいたら引き出し選びをしてくれている。
このポイントに気づいたのは今になってからだが、何も苦労して得る必要は無いと考えている。誰かが得たものを共有されたなら、遠慮せずに取り込んで良いではないか。どの道、どうしまってどう引き出すかはその人次第なのだから。