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わくわくすることに進んでみたら、人生が変わった

わくわくして動き出さずにはいられない原動力「わくわくエンジン®」を持って活動している方たちを紹介する連載「わくわくエンジン図鑑」。

今回は、高校入学前までどうせ自分は何もできない、と思っていたカズヤ君のストーリー。
15歳で人生が変わった、とは?

カズヤ君のお母さん(以下、母)と、カズヤ君が中学3年生の時に出会った、親でも先生でもない第三の大人、越智さんと浜本さんの3人にお話を聞きました。


「困った子」として過ごした幼少期


 カズヤは吃音があるせいか言葉がうまく出ず、小さい頃手足を出すことが多くありました。そのため、「困った子」として集団生活を送ってきました。

3歳児健診では「集団生活がしづらいのでは」ということで、発達支援センターへ行くようすすめられ、小学校入学までの1年半通いました。医師からの病名はつかず、吃音も深刻なものではないとのことだったので、小学校にも特別な申告は不要として入学。

それでもやはり、小学校でも「困った子」というレッテルがついてしまいました。先生が対応できないとのことで、2年生から支援級へ在籍。支援学級在籍のまま小学校を卒業しました。


「どうせ自分は何もできない」状態から…


 中学校では担任の先生がそれまでの小学校生活のしんどさを理解し、カズヤにいつも寄り添ってくださり、通常学級で過ごしました。

くさつ未来プロジェクト(キーパーソン21のパートナー団体)開催の「すきなものビンゴ&お仕事マップ」のワークショップに参加したのは中学3年生の夏。

カズヤは進路選択を迫られているのに、何をしたいのか分からない状態でした。小学校生活で「どうせ自分は何もできないから何もやらなくてもよい」という気持ちが育ってしまったようで、中学3年間で取り払うことはできなかったのです。

ワークショップのチラシ

 
ワークショップでは、ナビゲーターの越智さんがカズヤに寄り添って接してくれました。

―越智さん、カズヤ君とお話してみてどうでしたか?

越智 「すきなものビンゴ」ではみんなの好きなものを聞くのですが、なかなか教えてくれませんでした。だるそうにしていて、時間がかかりながらも、やっとゲームが好きだと教えてくれて。そこで「どんなところが好きなん?」とか「他のゲームのおもしろさとは何が違うの?」とか聞いてみると、色々教えてくれて盛り上がりました。

でも、他の話題に移るとまたあまり答えてくれなくなったり、シートに書いてみてねと言ってもふざけて適当なことを書いたり。
楽しかったことを聞くと、「ない。楽しくなかったことは文化祭」とカズヤ君が言ったので「実は私も文化祭あんまり好きじゃなかってん」と話すと、笑ってくれて、反応してくれました。

少しずつ少しずつ自分との共通点や、カズヤ君ならではの視点を探していき、話してくれるところを深堀りしていきました。反応が無いことが多かったけれど、笑顔で、ただただカズヤ君のこと知りたい!という態度でいることは気をつけて。

実際のワークショップの様子

すると今度は話の中で銃が好き、アニメが好きということが分かってきたので、話が合いそうな浜本さんを呼ぶと、2人で盛り上がる様子もありました。

浜本 はい、それでその話の流れで夏休みに「東京の秋葉原へ行く」ことが目標になったのです。この日のワークショップを企画した当時の団体の代表にも「浜本さん、すぐにカズヤと秋葉原行ってきて!」と背中を押してもらったので、2人で行くことにしました。


初めての親なしでのお出かけ


浜本 事情により秋葉原に行くのは難しくなり、大阪の日本橋という秋葉原に似た場所へ車で出かけました。車で1時間半、車中で色々としゃべりながら、行って帰ってくるまで5時間くらいだったかな。

日本橋では、僕もフィギュアが好きなので「これ買いたいねん」とか言って自分も楽しみながらアニメショップ巡りをしました。

お昼はおごってあげようかなと思っていたのに、「いやや」と言うので、一緒に安い店を探して、一番安い200円のうどんを自分で頼んでいました。ちなみに僕は贅沢に230円のきざみうどんに(笑)。

思い出のうどん屋

楽しんでくれているような雰囲気を感じながらも、決して「楽しい」とは言いませんでしたが、でも帰りたがりもしなかったし、自然な感じで僕の事を受け入れてくれてたのかなとは思いました。

「こうした方がいいよ」とか「これやったら」とか言うのではなく、とにかく「カズヤがやりたいことやろうや」というスタンスでいました。
実は僕オタクで、日本橋で買い物したかったので、僕自身のやりたいこともできました(笑)。

越智 お出かけに連れて行ってあげる、のではなく、対等に一緒に楽しむのが良かったんだと思う。私はアニメとか詳しくないので、これは浜本さんだったからできたこと。
 

小さな一歩から、人生が変わった


 一方でカズヤはゲームの影響で、街中でも平気で銃を撃つしぐさをすることが多々あり、私にとっては正直恥ずかしかったので、堂々と銃を撃つことができる「ライフル競技」を勧めていました。

カズヤはなかなか踏ん切りがつかず過ごしていましたが、そこでも浜本さんが後押ししてくださり、高校のライフル射撃部の部活体験会に浜本さんとカズヤと私の3人で参加できたのです。親ではない大人がバックアップしたことで、甘えてばかりはいられない、覚悟せざるを得なかったと思います。

結局そのライフル射撃部のある高校は距離の遠さもあり受験をしませんでしたが、ライフル射撃の講座を見つけ、現在週1回片道10キロを自転車で通っています。通い続けて1年半経ち、大会にも出場予定です。

高校は通信制の学校に決めました。校風の影響もあり、積極的に行動することができています。投資部という部活に所属し、東京証券取引所の見学のために1人で東京にも行きました。秋葉原にも立ち寄ったようですが、「大阪で十分だ」と言っていました。都会過ぎてびっくりしたのだと思います(笑)。

その他にも、大阪へアニメのイベントに参加するためにコスチュームを製作し、お友達と約束を取り付けて行ったり。
好きなことをやりはじめたことから、自信がついてきているようです。

「僕の人生が変わった」と言っていました。
その言葉に私自身が驚いています。私からすると「もっと頑張ってほしいなぁ」とは思いますが、本人にしたら、昔には想像できなかったくらいに輝いている自分がいるのだと思います。

集団生活でつまずいてしまった(?)分、成長は遅いのかもしれませんが、人生100年時代を思えば1年2年遅くても大丈夫!と言い聞かせている私が時々います。

―カズヤ君の変化を聞いて、いかがですか?

越智 カズヤ君とお話した後、あの関わり方で良かったのかなと分からず、自分で色々と振り返って、悩んでいました。カズヤ君の「わくわくエンジン」が見つけられなかったことも当時は残念に思っていました。
でもその後の変化、成長を聞けて本当に良かった!

子どもって、その時に大人に見せている姿がすべてじゃない。カズヤ君もあの時はだるそうにしたり、大人を試すようなことを言ったりしていたけど、ただただ興味をもって聴いて、私はあなたのこと知りたいんだっていうことが伝わるだけで、嬉しかったんだな、と感じました。

子どもの感じてること、思ってることを、そう思うんだね、そうなんだね、とそのまま受けとめることが、わくわくエンジンを見つけるよりも大事。

これはカズヤ君と会えたから分かったこと。カズヤ君との時間があったから、今の私があると思っています。私もカズヤ君のおかげで変わりました。また会いたいです。

浜本 「人生が変わった」と言ってるなんて、驚きました。一緒に日本橋に行った日に、何か激変したかと言えば分からない。彼の中の初めのちっちゃい一歩だったかもしれない、でもそれが今のカズヤに繋がっていると思うと、本当に良かったなあって思います。

ライフル体験の後もカズヤ親子とのやり取りは続けていて、高校入学が決まったことも教えてくれたので、入学祝いでハンバーグも食べに行きました。
これからも節目節目でたまに登場するおとなでいたいって思います。
 


子どもだけでなく親が変わることの大切さ


 「すきなものビンゴ」のナビゲーター養成講座(※)を受けたことで、私自身も変わることができたと思っています。
※ワークショップの中で子どもと対話し、気持ちや考えを引き出して認めるナビゲーターとなれる講座

自分のすきなものや、わくわくエンジンを見つめることで、自分を追求することができました。また、相手の思いを引き出す技術を身につけ、発言を受けとめて「それってイイね!」、「そんなものもあるんだね」と自分とは違った多様性を受け入れられるようになっていきました。これらを子育てにも活かすことができたと思います。

もっと早く「わくわくエンジン」のプログラムに出合っていれば、カズヤのしんどさをもっと早くに開放してあげられたのかな、と申し訳ない気持ちで過ごしています。
 
 高校卒業後のことは全く定まっていません。選択と決定の連続ですが、わくわくすることに進むことで道は開けると本人は思っています。母親として、それをサポートし寄り添っていけたら、カズヤが自身の人生に主体性をもって生きていけるのかなと思います。
まだまだ途上ですが、「わくわくエンジン」に出合えたことに心から感謝しています。


(お話を聞いて)
カズヤ君をおおらかに見守りながらも一緒に成長し、変化しているお母さんと、自分の子・親戚の子でもないのにカズヤ君のことを考えて悩んでしまうくらいひたすら寄り添う越智さんに、遠出や部活の体験まで一緒に行ってしまう浜本さん。
3人ともそれぞれの役割があって、素敵すぎて、温かすぎて…こんな大人たちが周りにいたら、子どもにとってどんなにいいだろう、そんな社会ってどんなにいいだろう…と憧れました。
そんな社会に少しでも近づけるように、みんなで作っていけたらいいなと思っています。(ライター・しほ)

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