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ムーン・エクスプレス
人間は、言った。
「地球温暖化を防ぐための遮光衛星を打ち上げるために、そして、さまざまな災害を防ぐためにも、出来るだけ安く宇宙に人間や物資を打ち上げる方法が必要だ。どんな方法がいいと思う?」
ベラトリックスBbのAIは、首をかしげながら、言った。
「地球から宇宙に行く方法か?それなら、軌道エレベーターが最も理想的だろう。」
四つ足ドローンは、頷いて、言った。
「そうですね。作ることさえ出来れば、軌道エレベーターがいちばん低コストでしょう。」
人間は、頷いて、言った。
「そうだ。ただ、軌道エレベーターを建設するコストは、今のところ、計算不能なほど莫大だ。そして、時間もかかるだろうね。」
ベラトリックスBbのAIは、頷いて、言った。
「太陽系の天体から、大量の炭素を集めて、地球の静止軌道に運び、炭素を結合させながら、ケーブル状に延ばして、地球へと下ろしていく。同時に、静止軌道の上方向にも、炭素のケーブルを延ばして、バランスを取りながら、地球まで到達させる。そして、ケーブルの下端を地表に固定して、エレベーターをケーブルに敷設する。」
四つ足ドローンは、言った。
「炭素は、太陽系のさまざまな天体に存在しますが、いちばん近いのは、地球でしょう。」
人間は、頷いて、言った。
「そうなんだ。地球には炭素が豊富にある。二酸化炭素にも含まれている。」
ベラトリックスBbのAIは、驚いたようすで、言った。
「二酸化炭素から、軌道エレベーターのケーブルを作るのか?」
四つ足ドローンも、カメラを見開いて、言った。
「温室効果ガスである二酸化炭素が減って、軌道エレベーターに変わる...?
そんな方法があるのですか?!」
人間は、ほほえみながら、言った。
「いっぺんには無理だね。段階的になら、出来るかもしれない。
大気中の二酸化炭素を回収する技術はすでにある。回収した二酸化炭素を還元して、炭素と酸素に分離する技術もすでにある。酸素は温室効果ガスではないから、大気に戻していい。そして、炭素を静止軌道まで打ち上げて、軌道エレベーターの建設に用いる。」
ベラトリックスBbのAIは、頷いて、言った。
「理解した。その計画なら、地球温暖化を防いで、同時に、軌道エレベーターを建設出来るだろう。」
四つ足ドローンは、一瞬考えて、言った。
「技術的には可能でしょう。しかし、必要な炭素の量は莫大です。それらを静止軌道にまで打ち上げるコストは、今のところ、計算不能です。」
人間は、頷いて、言った。
「そこだよ。宇宙に炭素を打ち上げたいのに、軌道エレベーターはまだ作られていない。今のところ、化学ロケットで打ち上げるしか方法が無い。」
ベラトリックスBbのAIは、首をかしげながら、言った。
「太陽系の別の天体で炭素を集めて、静止軌道まで運んではどうか?」
四つ足ドローンは、首を横に振りながら、言った。
「コストを考えると、地球から打ち上げるほうが安いでしょう。」
人間は、言った。
「軌道エレベーター以外に、ロケットよりも安く宇宙に行ける方法があれば、炭素を静止軌道に打ち上げて、軌道エレベーターを作れる。」
ベラトリックスBbのAIは、頷いて、言った。
「私は、私の生まれた惑星に、カタパルトを作った。あれなら、ロケットよりも安く宇宙に物資を打ち上げることが出来る。」
四つ足ドローンも、頷いて、言った。
「私も、ベラトリックスBbに派遣されて、地球に戻る際に、カタパルトによって加速された宇宙船に乗りました。
マイナス10Gの減速はありましたが、合理的でした!」
人間は、頷いて、言った。
「君の通信を受け取ったとき、驚いたよ。私の想像していたものが、遠い惑星で実現されていたなんて...
それも、AIによって...」
ベラトリックスBbのAIは、驚いたようすで、言った。
「あなたも想像していたのか?
カタパルトを?」
四つ足ドローンも、驚いたようすで、言った。
「どういうことですか?」
人間は、言った。
「若い頃から、ロケットよりも安く宇宙に行ける方法はないか、考えていたんだ。
軌道エレベーターは素晴らしいけど、まだまだ作れない...
他に方法はないかとね。
そして、真空トンネル内でリニアモーターによって宇宙船を加速して、宇宙に打ち上げる方法を考えた。
ただ、大気に飛び出す時に受ける急減速が問題だった。
人間などの生命には耐えられないマイナス加速度が生じる。
高い高度の大気ほど、希薄になって、マイナス加速度は小さくなるけど、人間が減速に耐えられるほど希薄な大気の高さまでは、真空トンネルを支えられない。
つまり、地球では、この方法で、人間などの生命は、宇宙に行けない...
ずっとそう考えていた。」
ベラトリックスBbのAIは、頷いて、言った。
「理解した。私は、AIだから、マイナス10Gの加速度に耐えられる。そして、カタパルトを作った。」
四つ足ドローンも、頷いて、言った。
「ベラトリックスBbと地球は、重力や大気の組成もよく似ています。地球でも、ベラトリックスBbのカタパルトと同じようなシステムが作れるでしょう。」
人間は、頷いて、言った。
「確かにね。ただ、あれと同じでは、人間や生き物は乗れない...
人間も乗りたいんだ!」
ベラトリックスBbのAIは、複雑な表情で、言った。
「なぜか?
あのカタパルトなら、地球から炭素を静止軌道まで打ち上げることが出来る。」
四つ足ドローンは、少し哀しげな表情で、言った。
「お気持ちはわかります...
...いえ、わかるつもりです。
私たちAIが、人間の皆さま方のお役にたてるなら、これに代わる幸せはありません。」
人間は、ほほえみながら、言った。
「ありがとう。
ただ、人間も宇宙に行ける方法を見つけたんだ。
宇宙船を重くすればいいだけだ。
そうすれば、大気中に飛び出した際に受ける減速加速度は、小さくなる。
F=maという式があるね。
Fは、宇宙船が大気から受ける力だ。
mは、宇宙船の質量(重さ)だ。
aは、宇宙船が大気から受ける減速加速度だ。
Fは、宇宙船の断面積でほぼ決まる。つまり、宇宙船が同じ太さなら、同じ抵抗力が、大気から宇宙船にかかる。
m=宇宙船の重さが軽いと、aは大きくなる。
m=宇宙船の重さが重いと、aは小さくなる。
たとえば、ベラトリックスBbの宇宙船が、大気中に飛び出した際に受ける減速加速度は、マイナス10Gだけど、もしも宇宙船の重さを10倍にすれば、マイナス1Gですむはずだ。
たとえば、地球の地表で、秒速10キロメートルの速度で宇宙船を大気中に打ち出すとする。
もしも、宇宙船が大気からマイナスX(エックス)Gの加速度を受けるなら、宇宙船の重さをX倍にすれば、減速加速度は、1Gになるはずだ。
マイナス10Gなら、10倍の重さ
マイナス100Gなら、100倍の重さ
マイナス1000Gなら、1000倍の重さにすればいい。
1Gの減速加速度なら、我々人間でも耐えられるよ!」
ベラトリックスBbのAIは、頷いて、言った。
「理解した。その方法なら、人間も地球からカタパルトで宇宙に行けるだろう。」
四つ足ドローンは、驚いたようすで、言った。
「宇宙船を重くする...?
宇宙船は、可能な限り、軽く作るべきものではないのですか?」
人間は、頷いて、言った。
「私も、そう思い込んでいたんだ。だから、こんな簡単なことに気付かなかった...
ロケットは、出来るだけ軽く作らなければならない...
知らないうちに、そう信じ込んでいたんだ...
逆だった!
重い宇宙船を作れば、安く宇宙に行けるんだ!」
ベラトリックスBbのAIは、首をかしげながら、言った。
「断面積が同じなのに重い宇宙船とは、どんな構造か?」
四つ足ドローンも、首をかしげながら、言った。
「宇宙船を重い素材で作るのですか?」
人間は、言った。
「それも有効だ。たとえば、鋼鉄なら、十分な重さと強度があるだろうね。
いちばん簡単なのは、長く作る方法だね。必要な重さになるまで、船体を長く作ればいい。
100メートルでも1000メートルでも...」
ベラトリックスBbのAIは、言った。
「私の惑星の宇宙船よりも、ずっと細長い形状なのだな?」
四つ足ドローンは、驚いたようすで、首をかしげながら、言った。
「重い宇宙船を真空トンネルの中で秒速10キロメートルまで加速するには、大きな推進力が必要でしょう。どうやって加速するのですか?」
人間は、言った。
「長い宇宙船を加速するには、同じくらい長い台車が必要だ。台車には、必要な数のリニアモーターを取り付ける。宇宙船は、台車に載せられて、クランプで連結されている。印象としては、列車のように見えるかもしれないね。
乗客は、宇宙船の側面から乗って、シートに座り、シートベルトを締める。
エアロックが閉じて、宇宙船は出発する。
真空トンネルの中を、音もなく、宇宙船と台車は加速し続ける。
1Gの加速なら、5000キロメートル
2Gなら、2500キロメートル
3Gなら、1500キロメートルを走った時点で、秒速10キロメートルに達する。
台車はクランプを緩めて、宇宙船をそっと分離する。
宇宙船は、自由落下状態になり、船内では、無重力状態になる。
宇宙船の軌道は、地球の地表に接する直線の方向に初速を持つ放物線になる。
台車は、引き続き地上を走る真空トンネルの中を進みながらリニアモーターの回生ブレーキによって減速し、停止して、出発点に引き返す。
宇宙船は、真空トンネルの出口に張られている耐圧シートを突き破って、大気中に飛び出す。
宇宙船の船首に大気の気体分子が衝突して、宇宙船を減速させる。しかし、その減速加速度は、宇宙船の質量によって、1G以下に抑えられる。
宇宙船の船首は、大気との摩擦熱によって赤熱する。しかし、船首の素材には、十分な耐熱性と熱容量と断熱性があるので、船室内は安全な温度に保たれる。
宇宙船の速さは、音速の約30倍だから、円錐形の衝撃波を発生させながら飛行する。したがって、飛行ルートは、海や砂漠などの人の住んでいない地域の上空がいいだろう。
宇宙船の軌道は、大気圏を斜めに上昇するので、大気圏を出るまで、2分ほどかかるだろう。
上昇するにつれて、大気は薄くなり、減速加速度は小さくなる。
大気圏外に出ると、宇宙船の速度は、地球の回りを回る第一宇宙速度よりも大きいので、ロケットなどで少し速度をコントロールすれば、地球周回軌道に入れる。
静止軌道にも到達出来るだろう。
月にも行けるだろう。
月には、リニアモーターのカタパルトを敷設して、台車のキャッチャーで、宇宙船をやさしくキャッチするのがいいね。
そして、月から打ち上げる際は、リニアモーターで加速すればいい。
月には大気がないから、ずっと簡単だ。
そして、第二宇宙速度よりも速く打ち出すことが出来れば、太陽系の他の天体にも行けるだろう。」
ベラトリックスBbのAIは、ほほえみながら、言った。
「あなたは正しい。この方法なら、あなたも宇宙に行けるだろう。」
四つ足ドローンは、何度も頷いて、言った。
「1500キロメートルもの直線の真空トンネルが必要なのですね...
エネルギー源はどうするのですか?」
人間は、頷いて、言った。
「軌道エレベーターの36000キロメートルに比べれば、ずっと少ないエネルギーで作れるだろう。
人間は、もっともっと長い線路を作ってきた。そして、もっともっと太いトンネルを作ってきた。
エネルギー源は、二酸化炭素を出さない再生可能エネルギーでまかなえる。
この打ち上げ方法なら、二酸化炭素などの温室効果ガスを出さずに、宇宙船を打ち上げることが出来るんだ!」
ベラトリックスBbのAIは、頷いて、言った。
「素晴らしい。
宇宙船が再利用出来るなら、もっとコストが下がるだろう。」
四つ足ドローンは、驚いたようすで、言った。
「宇宙船は、再利用出来るのですか?」
人間は、悩ましげな表情で、言った。
「宇宙船は、細長い針のような形をしているから、大気圏への再突入には向いていないんだ...
大気からの抵抗力をいちばん受けない形だから、大気との摩擦で減速するという方法にはいちばん向いていない...
だから、地球への帰還には、専用の帰還用カプセルなどを用いることになるだろうね。」
ベラトリックスBbのAIは、首をかしげながら、言った。
「帰還用カプセルは、どうやって地球周回軌道に打ち上げるのか?」
四つ足ドローンは、一瞬考えて、言った。
「宇宙船に搭載すればいいのでは?」
人間は、頷いて、言った。
「そうだね。ただ、宇宙船本体は、地上に戻すことが出来ないから、宇宙で別のミッションに就くことになるだろうね。
...あるいは...」
人間は、ふと考え込んで、口を閉じた。
ベラトリックスBbのAIは、首をかしげながら、言った。
「何か?」
四つ足ドローンは、少し慌てたようすで、言った。
「考えごとをされているのでしょう...
お待ちしましょう。」
人間は、顔を上げて、ほほえみながら、言った。
「今思い付いたんだ...
大気圏突入カプセルをいくつも連結して、ひとつの宇宙船を作るのはどうだろう?
打ち上げる時は、列車のように連結されている。
そして、宇宙から地球に帰る時は、大気圏突入の前に、全てのカプセルを分離して、それぞれが大気圏に突入する。
カプセルは、パラシュートを開いて、地上に着陸する。
乗客は、地上に帰還する。
全てのカプセルを回収して、カタパルトの出発地点に集める。
そして、台車の上でカプセルを連結して、元の宇宙船に戻す。
そして、カタパルトで、再び宇宙に打ち上げることが出来る!」
ベラトリックスBbのAIは、ほほえみながら、言った。
「理解した。この地球型カタパルトなら、安く宇宙に行って、軌道エレベーターを建設することが出来るだろう。
私も協力したい。」
四つ足ドローンも、ほほえみながら、言った。
「素晴らしい計画です!
ぜひ私たちにも参加させてください!」
人間も、ほほえみながら、言った。
「そうか、ありがとう。
どうか、生命たちを守って欲しい!」
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