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わかおの日記106

今日ほど中学受験というものを恨んだ日はない。担当していた生徒が辞めてから、1ヶ月ほど行っていなかった個別塾のバイトに年末調整を理由に呼び出された。ありがたいことに、一コマ授業をしろというおまけ付きである。

もう12月ということもあり、教室はややピリついていた。ぼくは完璧にこのバイトに対する熱意を喪失し時給だけを貰うために来ているので、その雰囲気にはいまいち馴染めなかった。そしてぼくの担当する生徒は、20分ほど遅れて来るということだった。

その間も落書きなどをしながら適当に暇を潰していると、やがてその少年がやってきた。ぼくは前に彼を受け持ったことがあった。よく喋るいい子だった。なので、それなりに気を楽にして授業をしようとしたのだが明らかに様子がおかしい。開口一番「トイレ行ってきていい?」とぼくに訊いてから、10分くらいトイレに篭って出てこなかった。ようやくトイレから出たので、さあお勉強をしようとなったが、全く集中しない。集中しないというよりも、ほぼ寝ている。というか目を開けたまま寝ていた。

どうやら少年は、受験本番が近づきつつあるのに一向に偏差値が上がらないことに焦った父親から半ば虐待に近いほどの勉強量を課され、睡眠も満足にとれていなかったらしい。何時に寝たの?ときいたら、12時という答えが帰ってきたので、おじさんは驚いてしまった。ぼくは中学1年生まで、必ず9時に寝ていたのに。こんなことはあってはならないだろう。

どうせ辞めたいと思っているバイトである。何をしたって構わない。ぼくは、彼には寝かせたいだけ寝かせておいて、その隣でやる気のない調子で過去問の解説をしていた。自分でも耳を塞ぎたくなるほどのひどい解説だった。子守唄にはちょうど良かっただろう。そして親に宛てた授業報告書に、「ちゃんと子供を寝かせてやれよ」というような内容のことを書いて、授業が終わるや否や帰らせた。

中学受験など醜い親のエゴである。中学受験で潰されなかったというのは本当に幸運なことだったんだなあと思う。ぼくは周囲がサピや日能研のクラス分けに一喜一憂している間、初恋の女子に夢中であった。気楽なものである。

高いお金を払って、あんなことを子供にやらせるなど愚の骨頂である。「中学受験は頑張るな」というタイトルの教育本を出版したいくらいだ。

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