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サクラサク。ep14

『銀河鉄道の夜』みたいだ。
--黒猫である吾輩・朔(さく)は、生まれて初めて乗る電車を見てそう思った。何しろ、人生(ネコだから猫生だろうか?)の大半を、ご主人様の家で過ごしてきたのだ。
ご主人様が語ってくれる電車なんて乗り物は、小説の中でしか存在しない空想上のものだと思っていた。
それなのに、吾輩は人間•サクラと電車に揺られている。ご主人様の知らないところで。

「電車の中に入ったら、大人しくしていてね。声は出しちゃダメだよ」

サクラが自分の口に人差し指を当てる。

ちえっ。もう少し夜の中で光る電車を見ていたかった。空にはまだ星が瞬いていた。

“明けない夜はないんだ”

ずっと昔、ご主人様が呟いていた言葉を、今そっと引き出しから取り出してみる。 ちゃんと吾輩の頭の中に残っていた。

だけど。文句を言うつもりはないが、ご主人様。

こんなに真っ暗な日は、明けない夜があっても良いのではないだろうか。

サクラは何処へ向かうつもりなのだろう。

「もうすぐしたら、一回電車を乗り換えるからね」

うつらうつらし始めた頃、サクラがそっとささやく。誰も知らない街へ行くはずなのに、ずっと内緒話をするようにコソコソしている。追手でもいるのだろうか。

依然としてサクラの表情は昏い。そして白い。
黒い夜の中に居たせいだろうか、サクラの顔や手が余計に青白く見えた。このまま透けていくのではないかと、そんなわけないはずなのにドキリとした。冷たく感じたのは、夜の肌寒さのせいだけではない。


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