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サクラサク。ep4

吾輩は猫である。名前は朔(さく)。好き勝手にクロと呼ぶニンゲン・サクラをこの小川で待っている。ご主人様の家への帰り道は、未だ思い出せない。
ある日、サクラはいつもよりたくさんのカリカリを袋ごと渡してきた。
何事かと、吾輩は訝しそうな目つきでサクラを見る。

「しばらく、病院へ行くのはお休みするね」

ビョウインって、あれだろう。
知らないニンゲンに尖った針で、刺されるところだろう。
ご主人様もよく吾輩を欺いて、病院へ連れて行った。そういうときは、しばらく口をきいてやらない。

病院へ行くのが厭なのではない。弱虫ではないからな。
嘘をつくのが下手なクセして、何とか連れ出そうと模索するご主人様の心意気が気に食わないのだ。

予防接種だ、猫のためなのだと、困った顔をして笑うくらいなら、最初から嘘も病院も辞めれば良い。

だから、サクラが病院へ行くのを休むのは、大いに賛成だった。
あんな痛い想いをしなければならない場所なんて、無理に行く必要はない。

しかし病院と、この大量のカリカリには、何の因果があるのだ?

その答えに気付くのは、しばらく経ってからだった。

サクラはパタリと、吾輩へ会いに来なくなった。

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