仕事は 段取り次第で 8割は決まってくる #32 段取り八分
父は、鳶職人でした。
鳶職(とびしょく)とは、建築現場などで作業する人達の安全性と作業性を考えて足場を作る仕事です。
足場は、建物と違って最終的には解体してしまうものなのですが、父は、その美しさにも、こだわるような職人でした。
手伝いをしていた時期もありましたので、私自身、足場組立て解体作業主任者の免許を持っています。
そんな父の口癖は、段取り八分でした。
仕事の良し悪しは、段取り次第で、8割方が決まるという意味です。
足場の図面ですが、建物の規模によっては簡易的な場合や、頭の中で描くだけの場合も少なくありませんでした。
父は、そんな建物の図面と現場の状況を見て、どの様な足場が良いかイメージします。
そこから、建枠や長さの異なる単管類、様々な形状のジョイント類、足場板、番線(結束用の太い針金)などの材料と数量をはじき出し、調達して行きます。
また、抱える職人達の技量を見て、誰を、どの位置に配置して、どの様な工程で作業して行くかまでもイメージしてしまいます。
それまでは、何度か現場に足を運び、関係者とやり取りしているのですが、イメージが固まると、とにかく、私達、手元は、気が抜けませんでした。
とにかく、父からのマシンガンの様な指示が飛び交うのです。
また、よくぞ、一人で、そこまでチェックすると思えるくらいに細部に渡って、作業精度を見ています。
場合によっては、父が気に入らないと、やり直しになることもありました。
それでも、キチンと納期までに完了させます。
父は、中卒です。
その中学とて、まともに学校に行かずに、家業の鳶職を手伝っていたと聞きます。
その様な父なのですが、知識や情報など複雑な事象を概念化し、抽象的な考えや物事の本質を見極める能力の高さを見せつけられました。
あるゼネコンの所長から言われたことがあります。
「君のお父さんに任せておけば、どんな現場でも、キチンと納めてくれる。それでいて、美しい足場なので、解体するのがもったいないくらいだよ。」
私は、父を誇らしく思いました。
私は、父の仕事を継ぎませんでしたが、今の仕事に携わりながら、あらためて思うことがあります。
それは、やはり段取り八分です。
段取りとは、事が起きてからのものではありません。
事が起きる前から想定して、どこまで備えることができるかで段取りの質が違ってきます。
チャンスが訪れてから、慌てて準備しても遅いのです。
それを考えたら、段取りとは、明らかにマネジメントの一部です。
マネジメントサイクルとも呼ばれる、PDCAサイクルで例えたら計画Pにあたります。
計画Pがキチンと出来ていると、実行Dで無駄がなくなり、生産性の高い仕事ができます。
もちろん、段取りが良くても、8割に対する残りの2割は仮説であり、予期しないことも起こり得ます。
段取りである計画Pが出来ていることで、良くも悪くも状況の検証Cも対応策の改善Aもスムーズに出来ます。
良い仕事をするためには、常に良い仕事とは何かを考え、それを具体化させる。
そして、良い仕事を追求することこそが大切なのだと思います。
決して、やらされ仕事や思いつき仕事のやっつけ仕事で良い仕事ができる訳がありません。
ましてや、良い仕事がそうであるようにやっつけ仕事も相手に確実に伝わります。
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