1105-07ベルカント_かに

知りたい日本料理5―メインの料理って?

2006年5月28日 (日)

「会席料理」の内容もよくご説明していないのに、今回のタイトルはちょっと順番が違うかもしれません…。

しかしここのところ、お客様から電話でのお問い合わせでよく聞かれるので、ちょっとお話をしたくなりました。

予約の電話を受けていてよく聞かれるのが
「どんなものが出るの?」
という質問です。

この場合お客様が聞きたいことは、前後のお話の流れで、  

 1.単純に品数を聞いている場合
 2.「先附」「前菜」「お椀」など、出る料理の項目を
   聞いている場合
 3.海老、本まぐろ、鮎など、食材を聞いている場合

だいたい、この三つのうちのどれか、ということになります。

そして、料理についてさらにいろいろとお話をしていくと次に出てくるのが、
「―で、メインって何になるのかな?肉?魚?」
という質問です。

う~~ん、日本料理のメインかぁ…。

この仕事についてすぐ、お客様からこの質問を初めてされたとき、私はものすごく動揺しました。

一瞬、頭の中が真っ白になって絶句してしまったのを覚えています。

(なんだろう―?焼き物?揚げ物?…それとも刺身?)

その時の私にはどれといって特定もできず、しどろもどろのご説明になってしまったのですが、そういえばあれ以来、いったい何回この質問をお受けしていることでしょう。

日本料理の料理人は、親方から仕事を教えてもらうとき、
「椀さし」
と言われます。

これは、「お椀」と「刺身」が特に重要だよ、という意味なのですね。

実際、料理人がもっとも力を入れて作るのは、昔からこの二品でした。

お椀は、日本料理のなかでもっともその季節々々をあらわす一品であり、その店のランクは、お椀の出来でわかる、と言われるほどのものです。

お椀に使う出汁は、鰹と昆布とよい水でひくシンプルなものですが、いっさいのごまかしがきかない繊細なものですし、一椀のなかに季節をあらわすためには、料理人のセンスと最大限の技量が問われます。

一方お造りは、「生魚を切って盛り付けるだけ」というシンプルさですが、そのためにかえって刃物のキレ、魚の目利き、組み合わせ、食べ時の見計らい、盛り付けのセンス、あしらいの知識などなど、技術と心遣いが必要な、料理人のすべてが表れる一皿になります。

しかし、正直に「お椀と刺身です」と申し上げて、納得していただけるお客様はそう居ないですよね―。

お客様に限らず、ほとんどの方々のリアクションは
「えっ?!そうなの?!」
というものだと思うんです-。

実際、まあ「刺身」はいいとしても、「お椀」をご理解いただくのはちょっと難しいのが実情ですよねぇ……。

うう~ん、ちょっと困った感じになっちゃいましたが、実は日本料理には特別「これがメイン」という概念はありません。

確かに「椀さし」というものに料理人は力を入れますが、だからといってそれが「=メイン」ということではないんですね。

「メイン料理」とは洋コース料理の影響で刷り込まれたものなのでしょうが、日本料理の場合は、先附から食事、水菓子にいたるまで、それぞれがバランスよく組みあがって一つの流れを作っているものなのです。

どの椀も皿も鉢も、同じような比重で互いに並び立ち、それぞれ違った美味しさを楽しんでふと気付くと、一つの流れが見えてくる、それが日本料理の考え方だと思います。

それでもあえて言うなら、珍しい食材が入ったので、それを焼き物にしてみた、という日はそれがメインでしょうし、旬の時期に、初めてそれを調理して出す、というならその日はそれがメインになると思いますが、いかがでしょうか―。

食のグローバル化はある意味で楽しみが増え、味の世界が広がって良いことなのですが、西洋料理と日本料理、それぞれ食文化の歴史が違うものを同じ土俵で比べるのは、そう簡単に出来ることではありませんね…。

え?それで、お前はお客様にどう答えているのかって話ですか?

ええとですねぇ……

「はい、お客様、料理長は今月、献立の中で特に焼物がお勧めだと申しております。今月の焼物は○○を使い、このように仕上げてございますが、いかがでしょうか?」

「はい、お客様、今月は○○の時期でございます。椀種とお造りでご用意しておりますが、ご希望によりオプションで揚げ物にすることも可能です。いかがでしょうか?」

「はいお客様、申し訳ないのですが、牛肉を使った献立は今月ご用意がございません。
ご相談ですが、別途単品でご用意させていただけると存じますので、どのようなものをご希望でらっしゃいますか?」

誰ですか?口の上手いセールスマンのようだと言っている方は?
だってセールスマンですもん!!

ちょっと違う話ですケド、電話1本で、接待なら料理&飲物で1人単価@8,000UPのお客様が来てくださるんですよ!!

こんなありがたいお話&チャンスはありません♪

まあ、ぶっちゃけた話、メイン料理が日本料理に有るとか無いとかは、実はお客様にはナンの関係も無い話なんでしょうねぇ…。

先方は、自分の理解る範囲で料理の話をしたいワケですし、ゲストへの気持ちとして、何かこうメインになるような、理解りやすいものをド~ンと出したいのでしょう―。

ですからこれは、我々店側が、いかにそのお話を上手く受けて、双方にとって良い結果にするか、ということなんだと思います。

知識や勉強はとても大切ですが、しかしそこで覚えたことがすべてではありませんし、実際の営業の邪魔をしては本末転倒、なんとかして営業に結びつけるべし、というのが、私の持論でございます。

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