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売上の変数についての話。

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングに携わっていると、本当に色々な数字を扱うことになるわけですが、中でも重要な指標は最終目的である売上ですよね。では、売上はどのように作られているのでしょうか。
ということで、今週は売上に関わる変数について考えてみます。

売上に関わる変数

売上をどのような切り口から考えるかでその変数は多少変わったりするのですが、最もシンプルな売上の計算式は以下の通りでしょう。

売上 = 顧客数 × 購入回数 × 購入単価

それぞれの変数についてみていきましょう。

購入単価

購入単価を規定するものは、商品価格です。マーケティング戦略において商品価格が重要なことは言わずもがなですよね。マーケティングの根幹をなすPricingがマーケティングの根幹をなす4Pの一角を担うことからもわかると思います。
企業側がいくら自由に価格設定できると言っても、さまざまな環境要因である程度制限されてしまうのも事実です。
価格を左右するものの内部要因は大きく分けて2つです。
ひとつはコストですね。その製品・サービスを提供するにあたってかかるコストを吸収できるだけの価格設定が必要になってきます。

ふたつめはマーケティング戦略です。高価格に設定することで短期的に売上を立ててコストを回収する上澄み吸収価格設定と呼ばれる方針や、低価格に設定することで、市場シェアの最大化を狙う市場浸透価格設定と呼ばれる方針など、マーケティングにおける目標によって価格が制限されることがあります。

さらに、外部要因として需要が関係してきます。学生の頃政治経済の授業で習った「需要曲線」というものですね。
この「需要」はそんなに単純なものでもないそうなんです。なんでも、価格に意味を見出す人もいるとか。
例えば、価格を品質のバロメータとして利用するシーンなどがあります。「安かろう悪かろう」という言葉があるように、安いもの=低品質、高いもの=高品質といった解釈を消費者は無意識的に行なっています。
その他にも名声価格と呼ばれるものも存在します。これは、高価格であることそのものが価値になるケースです。どう言ったものかというと、高級腕時計や高級車などは、価格が高いほど手に入れられる人が減る=希少性が高まり、他者へ地位をアピールすることにつながります。すなわち、「そんな希少なものを手に入れられる私すごくない?」ということですね。
外部要因としては、需要以外にも競合他社の価格などによっても価格が制限されることもありますね。

自由に決められるようで、案外そうでもないのが価格ですね。なので商材によってある程度購入単価は規定されてきてしまいます。

顧客数 vs 購入回数

では、顧客数や購入回数はどうでしょうか。実はこの2つはそれなりの相関があるとされています。
以前、ある特定の要素2割が全体の8割を構成するとしているパレートの法則というものをご紹介しました。マーケティングでもパレートの法則を適用し「売上の8割は全体の2割の顧客の売上によるもの」と言われています。
さらに、「新規顧客獲得は既存顧客維持の5倍のコストがかかる」「顧客の離脱を5%改善すると25%の利益改善につながる」なんてことも言われたりしていますよね。
ここまで読んで、皆さんはどう考えますか。「中の人」ならこう考えます。
「既存顧客へのアプローチは新規顧客獲得よりも低コストだし、離反者が減れば利益が改善される。それなら、既存顧客のうち最も売上を作っている上位2割のロイヤル顧客にアプローチして購入回数を増やしていこう!」
『顧客ロイヤルティのマネジメント』の著者ライクヘルド氏も同様の考え方を提唱しています。

これに異を唱えるのが『ブランディングの科学』で知られるバイロン・シャープ氏です。
購入回数を増やそうとする施策には大きなトラップがあるというのです。そのトラップとは「ダブルジョパディの法則」を指します。ダブルジョパディの法則とは、顧客数が少ないほど購入回数も少なくなる傾向にあるとするものです。
さらに、バイロン氏は顧客が離反していくことはマーケターではコントロールできないとも指摘しています。事実、どんな成長企業であっても一定数の離反していく顧客がいるそうです。顧客の離反をコントロールできないなら、離反していくことで生じる不利益を抑えるには顧客の分母数を増やすしかないのだそうです。また、ダブルジョパディの法則を逆手に取るのであれば、顧客数を増やすことで購入回数も増やすことができます。

近頃のトレンド

ここから先は「中の人」なりの解釈が多分に含まれているので、読まれる際は留意いただきたいのですが、ライクヘルド氏の既存顧客へのアプローチも、バイロン氏の新規顧客獲得を重視するべきだという指摘も、どちらが優れていると言うことはないのだと思っています。
ただし、あえてこの二元論で語るとするならば、近頃は前者の既存顧客へのアプローチが優勢というかトレンドなのではないかなと考えています。
その論拠はサブスクリプションモデルですかね。サブスクリプションモデルはそもそも顧客と一定期間以上つながりを保ち続けることを前提としたビジネスモデルです。そして、このビジネスモデルの鍵を握るのが「解約率(チャーン)」です。いかに離反者を減らすのかが鍵となってくるわけですから、ライクヘルド氏よりの考え方になってきます。
それに加えて、カスタマーサクセスという職もよく目にするようになりました。カスタマーサクセスという考え方は元々、サブスクリプションで営業支援ツールを提供するセールスフォース社が、解約率を下げるために生み出したものとされています。既存の顧客に対して自社商品をより良く活用してもらうために生まれた考え方が浸透し、多くの企業で取り入れられていることからも顧客のロイヤルティマネジメントが重要視されていることが伺えますよね。
さらに、少し前にマーケティング界隈ではLTV(Life Time Value)という考え方が流行っていました。顧客の生涯価値なんて訳し方もされるように、その顧客が一生のうちで自社の商品をどれだけ買うか。ということに主眼を置いた考え方です。これも既存顧客へのアプローチにアプローチに偏重しているような気がします。もちろん、顧客獲得時にLTVが伸びやすいように工夫せよ。という考え方でもあるのですが。
なぜこういった流れにあるのかというと、市場が成熟してしまったからなんだと「中の人」は考えています。成熟した市場では全ての商品がパリティ化してコモディティ化していきます。その上ほとんどの商品カテゴリで「未経験」消費者の数が少ない状態にあるのだと思っています(エビデンスのない感覚論なのですが)。そうなると、新規顧客を獲得するにはブランド・スイッチを促さねばなりません。バラエティ・シーキングを除いて、ブランド・スイッチにはかなりの労力がかかるとされているので、そうであるならば離反者を減らすことで売上を確保しようとする動きは合理的と考えられるような気がします。

まとめ

売上を構成する要素は、商品価格と顧客数、そして購入回数になります。商品価格は自由に決められるようで、実は様々な要因で一定の制限を受けてしまいます。
顧客数と購入回数はそれなりの相関を有しており、ダブルジョパディの法則に収まります。すなわち、顧客数が少ないと購入回数も少なくなるというもの。なので、購入回数を増やしたいなら顧客数を増やせ!ということになります。一方でサブスクリプションというビジネスモデルの普及によって、購入回数を増やす≒離反者や解約率を下げるという方針に舵を切る企業も増えているようですね。
ビジネスをする以上、新規獲得も既存顧客維持もやっていかなければならいことに変わりはないのですが。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
1週間って早いものですね。つい昨日先週の記事を書いたような気がしていたのですが、気づけばもう次の記事を書かなければという状況です。いや、何が言いたいかというと、インプットの時間が十分に取れなかったので「中の人」色が強い記事になってしまったような気がすることへの言い訳です。(笑)
今週はですね、たまたま手元にあった、永井孝尚『世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた』という本を適当に開いてみたらバイロン・シャープ氏『ブランディングの科学』のページだったので、そこから着想を得て「売上」をテーマにしてみました。このテーマに関しては 池田紀行『売上の地図』 がより現代的なマーケティングに即した内容になっているので機会があったら読んでみてください。
それではまた来週お会いしましょう。

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