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消費者の意識を変える レーン・チェンジ法とは

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
「ウェブ解析を用いてユーザーのニーズを正しく理解し、事業の成果を導くこと」というのがウェブ解析士の役割であると公式テキストに記されています。”事業の成果”を言い換えると、売上(利益)を上げることですね。
さて、売上を上げるには、顧客に自社の製品・サービスを買ってもらうことです。購買行動を起こしてもらうように喚起するのがマーケターの腕の見せ所ですよね。そこで今回は、購買行動を促す方法を、”リスク感”と”コスト意識”に着目して見てみましょう。


行動する人、しない人

さて、あなたが新商品をリリースして実際に買ってくれる=行動してくれる人はどれほどいるでしょうか。
以前、別の記事でイノベーター理論を紹介したことがあります。

紹介した内容によると、初動で購入してくれる人は市場全体の1割〜2割程度でしたね。

残りの8割程度は基本的に様子見です。遠巻きに、多くの人が行動していることを確認してから、ようやく重い腰を上げて動き出します。
人間は「損失回避の法則」という法則に従って、基本的には得をすることよりも、損をしないことを選びます。「買って失敗したらどうしよう」といったリスクを回避しようとするから、他の人の行動を観察する=失敗しない確率を上げることでようやく行動に移すことができるようになるそうです。

リスク感の低減方法

上記のことを逆手に取ると、「リスク感を緩和することができれば行動してくれる」ということが言えますよね。そんな特性を利用した広告手法を、私たちは常に目にしています。
例えば、「返金保証」や「返品OK」といった手法です。「効果がなければ全額返金保証!」なんて謳い文句のダイエット・サプリやパーソナル・トレーニングの広告をよく目にしますよね。そうすることで、リスク感を緩和して行動してもらおうという狙いがあります。
こうした「返品マーケティング」と呼ばれる手法ですが、実は実際に返金・返品を請求する人は1割以下に留まるそうですよ。返金申請するのにも時間的にも精神的にもコストがかかりますからね。なんせ、上述した通り行動する人は1割〜2割です。

このように、初回購入を促すことはリピート施策としても機能します。というのも、初めての購入はリスク感を強く感じますが、2回目となるとそのハードルはぐっと低くなります。「慣れ」というのはリスク感をコントロールする上でとても大事なことなんですね。初回無料や、試供品の進呈も「使ったことある」という意識をつけることでリスク感を緩和させる役割を担います。その他にも、テレビでよく見るタレントを広告に起用することも「馴染みある」という点で初回購入時のリスク感を緩和させる効果があるのだそうです。

レーン・チェンジという手法

さて、上述したように、身近に感じてもらうことでリスク感を緩和することができます。しかし、それだけでは「実際に買ってみよう」とはならないのも事実です。では、どうやって行動に移して貰えば良いのでしょうか。その一つの答えがレーン・チェンジ法と呼ばれるものなのだそうです。マーケティング的にはリポジショニングに近い考え方です。自社商品のポジションを近くのポジションに移してみるという考え方を指します。
3車線+合流車線がある高速道路で、一番左の合流車線から一番右の追越車線に一気に移ろうとするとかなり恐怖を感じますよね。しかし、合流車線から隣の走行車線に移動するだけであればそれほど難しいことではありません。同様に、ポジショニングも近くの競争軸に転換することはそれほどエネルギーをかけずに需要を生むことができるのだそうです。
例えば、小型化が行き詰まったポータブル音楽プレイヤーは、「移動中に音楽をきく」というポジションから「ジョギングしながら音楽をきく」にレーン・チェンジしたことで新たな需要を取り込むことができたのだとか。
レーン・チェンジする際に重要なのは、乗り換え先のレーンに馴染みがあることだそうです。
例えば、携帯電動歯ブラシの例を見てみましょう。従来は衛生用品に分類されます。しかし、ターゲットを若いOLさんに絞って使用場面を想定すると、ランチ後の洗面所が想起されますね。そこで同時に行うであろう行動が化粧直しです。ということで、女性向け携帯電動歯ブラシは化粧品市場にポジションを置かれるようになったそうですよ。

もっと身近な事例をあげると、ハイボールもレーン・チェンジによって需要を増やしたのだとか。
ウイスキーといえば、二軒目のお店でボトルキープするようなお酒で、居酒屋でワイワイ・ごくごく飲むようなお酒ではありませんでした。今でもウイスキーと聞くとそんなイメージですよね。
1980年代中盤以降はウイスキーの消費量が低迷していたそうです。1980年代中盤以降といえばバブル経済ですよね。バブルで盛り上がり、女性の飲酒が習慣化したり、外食産業の盛り上がりなどで、食事と一緒に飲むお酒の消費量が拡大傾向にあったことから、「食中酒」というポジションを狙ったと言われています。この時、ウイスキーが見つけたのが、生ビールや酎ハイといった隣のレーンで賑わいを見せるお酒だったのだそうですよ。
ハイボールは取手のついたジョッキで乾杯、ごくごく飲むというスタイルですよね。グラスでしっとり飲むウイスキーのイメージとは対照的です。しかし、消費者はこのジョッキで飲むスタイルは生ビールや酎ハイで経験済みの馴染みのあるスタイルだったので、すんなりと受け入れられました。今ではビールなどの醸造酒よりも、ウイスキーのような蒸留酒の方が糖質が少ないなどで一杯目からハイボールという人も増えてきましたね。

まとめ

今回は「買う」という行動を起こしてもらうための方法をご紹介しました。
そもそも、すぐ行動に移してくれる人は市場全体で1〜2割しかいません。残りの8割を動かすには、リスク感の低減が必要なのだそうです。しかし、リスク感を抑えただけでは実際に買うには至りません。そのために馴染みのあるものに寄せていくレーン・チェンジ法を用いて需要を拡大するという方法も一つの解決策になりうるようです。馴染みあるものに寄せるという方法そのものも、リスク感を低減させることに繋がりますね。
”リスク感”をコントロールすることで、売り上げに影響を与えることができそうですよ、というのがこの記事の総括になります。

今回は、博報堂行動デザイン研究所が出している『「行動デザイン」の教科書』という書籍から一部抜粋・要約する形で方法論をご紹介しました。興味がある方は書籍の方で詳述されているのでご一読ください。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
以前も行動経済学については記事に記していましたが、それをさらに方法論に落としたものが行動デザインなのだそうですよ。とても面白い分野ですよね。これらをどうやってウェブ戦略に活用するかを今後考えて行きたいです。

「中の人」は毎週「今週はnoteお休みしようかしら」と思いつつも、「毎週連続投稿記録が、、、」という呪縛によって、液晶に向かいキーボードを叩くという行動をさせられているわけです。noteさんが毎回「●週連続投稿です!」みたいなコメントをくれるものだから、それを目当てに頑張っちゃいますよね。これも一つの行動デザインであり、UXの設計につながる部分なんだろうなと思いながら今週の記事を書いていました。笑
それではまた来週お会いしましょう。

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