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行動経済学とマーケティング

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングといえば、消費者理解がつきものですよね。経済学の観点からも消費者の行動を理解しようとする試みは無数にあります。基本的に経済学は「人は合理的に動く」という仮定のもと語られることが多いのですが、実際は合理的に動かないのが人間です。そんな非合理的な動きを心理学を用いて解明しようとするのが行動経済学です。
実は、この行動経済学はマーケティングにも多々応用されています。ということで、今回は行動経済学について見ていこうと思います。

価格設定に応用される行動経済学

人間の行動は必ずしも合理的ではないということは先に述べましたが、非合理性にもまた、パターン・クセというものが存在するようです。そのパターンやクセが持つ意味合いを重要視するのが行動経済学の基本的な考え方なのだそうです。
その癖の一つが「限定合理性」と呼ばれるものです。

人々の行動の多くは詳細な計算に基づくものではない。多くの行動は過去の経験や習慣に基づくものであるし、それが結果的にある種の偏ったクセになって現れることになる。

伊藤元重『ビジネス・エコノミクス』日本経済新聞出版社

以上が限定合理性の説明です。価格設定では、たびたびこの限定合理性が利用されています。価格設定といえば、マーケティングの4Pの一角を担う重要な要素です。どのように利用されているのかを見てみましょう。

松竹梅の価格設定

レストランのメニューを例に考えてみましょう。
とあるレストランには、一本1000円のボトルワインと一本2000円のボトルワインがあります。どちらも同程度の売れ行きです。
ところが、一本3000円のボトルワインをメニューに追加すると、以下のようなことが起こります。1000円のボトルワインの売れ行きが下がり、2000円のボトルワインの売れ行きが増える。
正直な話「中の人」はワインの良し悪しなんて、わかりません。(笑)ですから、注文するときはこんな思考になると思うのです。
メニューが二つだけの場合、1000円のワインも2000円のワインも値段相応なのだろうな。といった具合で、その時の懐事情によって購入するワインを変えると思います。
ですが、3000円のメニューが追加された場合はまた異なります。
1000円は値段相応に「美味しくない」と思い、3000円のワインは値段と美味しさが果たして釣り合うのか不安になるし、単純に高い。という消去法である程度美味しさに確らしさのある2000円を選ぶことになりそうです。
値段に松竹梅があると、「高いのは気がひけるし、安いのを買って失敗したくない」という心理が働き、真ん中のグレードを選びやすくなる。
このようにヒューリスティックと呼ばれる、直感や経験から正解らしいものを導き出そうとする行動原理を利用して単価を上げることができるのです。
ついでに言うと、この方法は、価格の持つ「品質保証効果」(高いものは高品質だと思われる)を利用しています。

安いと錯覚させて単価を上げる

例えば、「中の人」が牛丼屋を開いたとして、並盛を550円で販売するとします。オレンジの看板の牛丼チェーン店では並盛448円ですから、ヒューリスティックをもとにすると、皆さんは高いと感じると思います。
ですが、牛丼以外に、A5ランク牛ステーキ丼1650円、低カロリー牛丼880円をメニューに加えると、比較対象が経験則ではなく目の前のメニュー表になります。となると、550円が安く見えてきますよね。
こういったように、単価を引き上げる際に利用される行動経済学の要素を「相対評価のバイアス」と言うそうです。

消費者の行動を誘導する行動経済学

「中の人」が普段使いするスーパーマーケットでは入店からレジまでの動線が左回り(反時計回り)に設計されているように感じます。広告の目玉商品である生鮮食品が入口にあり、鮮魚・精肉コーナーを経て、最後に重たい飲料関係へと続きます。
日本にある大半のスーパーマーケットが同じような構造になっているそうですよ。反時計回りにするのは、右利きの人が多いからだそうです。右利きの人は左手にカゴを持ち、右手で商品を取ります。左回りにすることで、商品を右手側に陳列することができると言うことですね。冷蔵が必要な鮮魚・精肉を後半に、重たくなりがちな飲料は最後に持ってくるという配慮がされているのだそうです。
こうした人の行動原理やクセを利用して問題解決に繋げることを行動経済学では「ナッジ」と言うそうです。

衝動買いを促す行動経済学

行動経済学の教授ダニエル・カーネマン氏によると、人の思考は2分類に分けられるそうです。ひとつめが、直感的で思考に時間がかからないが、バイアスを含むシステム1。もうひとつが、論理的で思考に時間がかかるシステム2だそう。言い換え得ると動物的な直感と、人間的なロジカル思考ですね。
衝動買いを促すにはこの動物的なシステム1に働きかける必要があります。
例えば、清涼飲料水。暑そうな日差しの中で額に玉のような汗を浮かべながら極々と気持ちよさそうに飲むCMや広告を至る所で目にしていたら、自分が猛暑の中で喉が渇いたタイミングでその広告を目にしたときに無性に飲みたくなったりします。喉が渇く→飲み物を買うと言うのは、生理的な欲求に従う行動で合理性が入り込みにくいです。
あるいは、通販番組で、「1時間以内であれば特別価格!」なんて謳い文句も考える時間(=システム2を起動する時間)を与えないための方法です。直感に従って購入を促します。
レストランの1日限定◯食!や季節限定!なども合理的な判断を鈍らせることで衝動買いを促しています。

まとめ

行動経済学は、人間のクセや行動パターンを分析する学問です。それらは企業活動に取り入れられ、様々な手法を生み出しています。価格設定にまつわるものから、消費者の行動をコントロールしようとするものまで。
一見、便利そうに見える手法ですが、行き過ぎると胡散臭くなるのでさじ加減が大事になってきますね。また、近年ではUX(ユーザー・エクスペリエンス)の設計などにも取り入れられるようになりました。
マーケティングの手法を検討する際には、行動経済学の理論を取り入れるのも一つの方法かもしれませんね。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
わかっちゃいるけど、乗せられてしまう。そんなことってよくありますよね。「中の人」も新発売!や季節限定!なんて言葉に弱くて、よく衝動買いをします。(笑)「考える時間を与えない」と表現すると、なんだか悪っぽく聞こえますが、本能に従った行動がとれると言うことは、ストレスなく行動できると言うことですから、UXやCXの設計ではとても重要なことのように感じます。
それでは、また来週お会いしましょう。



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