最近の記事

短編:溶けない甘味と始発

タバコがミルクチョコレートみたいに甘ったるかったらよかったのに。 甘い物は好きだけれども永遠に食べ続けることはできない性分の私は、UCCのブラック缶をうるさくゴミ箱に投げた。イライラしている。タバコを止めたばかりの私にとって喫煙できない長時間の寒空は苦痛でしかない。そこまで吸ってたわけじゃない。キャンパス内に喫煙所はないし、近隣の灰皿は大学生を嫌って姿を消した。だから合理的な理由だから。と言い聞かせる私。の背後からささやく低音。 「タバコ吸う女の人、好きだったのにやめちゃ

    • 音楽:NICO終了。ぼくの音楽の全てだった。

      ぼくの神様が終了したのがつい先日。 ここ数か月止まっていたLINE公式アカウントの通知とTwitterの通知が同時に鳴り響く。その発信主は唐突に自分達の音楽の終焉を告げた。 ぼくの器用貧乏な神様、「NICO Touches the Walls」。 CMやアニメのタイアップをしていながらも、同世代のUNISON SQUARE GARDEN や[Alexandros]ほどの知名度を持つことがなかったバンドであったが、NICOの全楽曲にはもっと多くの共感と感動を呼ぶ力があった

      • 短編:夢見る乾燥とベッド

        キスをされた夢を見た。飛び起きた。夢とも似つかぬリアルさに寝汗がすごい。寝覚めの悪い私にしては珍しく、ハッと目が覚めた驚き。えもいわれぬ焦燥感のお蔭だろう。 何故か、左胸が激しく脈を打っている。唇の妙にリアルな感覚に起因することは確かだが感情的な動機は理解できなかった。恐怖か高揚かもわからぬが、ただ後ろめたさだけはどこか覚えている。しばらく心臓が落ち着くまでレースのカーテンの隙間からこぼれる白く濁った太陽光を見つめていた。すぐ横にいる男は今の私の心の動揺など一切知らず、小さ

        • 短編:炭酸という自傷とピアス

          プシュッという音が私の敗戦を告げた。 「よかったじゃん。そんなこと知らずにさっき好きな男とか聞きまくってたよ。ごめんごめん。」 「いや、僕も言うタイミング失ってたんで。仕方ないですよね。」 濃いめの眉を困らせたようにして笑いながら、彼は横を歩く。声が震えたのにはばれていなかった。ハイボールでも作ろうと思って買いたしたレモン味の炭酸水を数秒かけて飲みこむ。のどを刺す痛みを無視して私は言葉を紡いだ。 「確かに君たち仲良かったよね。怪しいとは思ってた。」 「別にまだ付き合

        短編:溶けない甘味と始発

          エッセイ:心が死んでる女のなんでもない帰省

          夏休みに履きなれない下駄を五月蝿く鳴らす男女を鬱陶しく思いながら、逆方向の路線に乗り込む。ぼくは田舎に帰る電車に小走りで乗り込んだ。 慌てて家を出たのは、昨日も酒缶を開けていたからだった。飲みきれなかったストゼロが寝起きの机の上に置いてあった。流しに行くのも勿体ない不味すぎる毒をぼくはベランダで育てているオジギソウにたまにやっていた。ベランダの小さな緑。私の存在を認知してくれる小さな緑。 一昨日見た時には可愛らしくない桃色の花を咲かせていて愛おしく思ったが、今日の朝には枯れ

          エッセイ:心が死んでる女のなんでもない帰省

          書評:大学生が少女地獄を流し読みしました

          テストが終わった~とSNSに投稿して夏休みに突入したぼくはそりゃあ暇で暇で、世の中の中高生と社会人の憎悪を肴に酒を飲めるくらいには暇だった。 そんな一日をむさぼった後にはさすがに「明日は頑張ろう」という百万回は脳裏に投影されたフレーズと眠りにつくわけです。このフレーズの幻影に運よく囚われてしまった翌る日、ぼくは個人経営のいかにもな喫茶店で読書をしようと思い立ったわけです。ぼくにとって喫茶店と読書は非日常なことがばれますね。 もう名前を忘れたナントカという特製コーヒーと、バ

          書評:大学生が少女地獄を流し読みしました

          エッセイ:大学3年目夏夜のベランダ

          梅雨が明けて夏が来た。 大学生になって迎える何度目かの夏の空はやはり何回みても透き通る空の色で他の季節に比べてどこか特別だ。ただ、それ以上に夜の夏に愛おしさを感じるようになった。夕立で雨の匂いになった洗濯物をつまみながらそんな感傷的な気持ちになった。 夏というのは特別な季節で、五感をより明瞭なものにさせる。 20をすぎてはじめての夏は酒とタバコで味付けをした。友達とプールに行ったり自転車で熱いアスファルトを駆け抜けたのは遠い過去の思い出で、三ツ矢サイダーの代わりにストゼロ

          エッセイ:大学3年目夏夜のベランダ

          椎名林檎を好きな女=メンヘラみたいな

          別に音楽的な分析をするとかではなく、ふと思っただけの手記的なものだから、暇つぶしに流し読みしてくだしあ。 先日カラオケに行ったとき先輩が「本能」を歌っていた。それでふと「あれ、ぼく今までじっくり椎名林檎聞いたことないな」とふと思い立ってカラオケから帰ってからはずっと椎名林檎を聞いていた。 椎名林檎は1998年にデビューして現在も活動しているわけなのでめちゃくちゃアルバム多いし全然聞き終わることができない。たぶんまだ4割くらいしか曲としては聞けてないので、椎名林檎の音楽的な

          椎名林檎を好きな女=メンヘラみたいな

          ドタキャンされたのでAKIRAを見た話

          宅飲みする予定ががドタキャンされて突然暇になった日曜の11:30。 雨の日だから外にお出かけするのも違うし、かと言って今から誰かTwitterで呼びかけて遊ぶのも面倒に思ってしまった帰り道でふと 「あ、映画見よう」 などと思いたった。 雨の日に映画を見るというのは決して社会的テンプレではない気がする(いや、割とメジャーか?)。とりあえずなんとなく風物詩的な要素を感じずにはいられない。如何せん、普段からyoutubeの実況動画を垂れ流して生活する人種なので映画などというもの

          ドタキャンされたのでAKIRAを見た話

          音楽:wowaka追悼とボカロ世代のぼく

          wowakaが亡くなったことを聞いたのは友人からだった、Twitterを見れば1面ニュースに上がっていた。 齢20のぼくにとっては死は身近なものではなく、受け止めるとか受け入れられないとか以前の問題で対応をすることすら困難だった。ただ言いようのない虚無感と一瞬間程を過ごした。ボカロ全盛期を牽引しその波がすぎた後も、音楽好きの今の世代にとっては人生の中に常に居たアーティストだ。常在化した存在であったwowakaが居なくなった。ぼくなんかはそこまでのファンじゃないかもしれない。

          音楽:wowaka追悼とボカロ世代のぼく

          QUIZ MASTERが神盤だった件(全曲感想)

          NICO Touches the Wallsの新譜QUIZMASTERを聞いた。NICOファンを名乗るぼくだけどラストNICOは一昨年のニコフェスなので、どちらかといえば”古参ぶりたがるくせに最近聞いてないファン”層にいる奴の一人だ。 好きなアルバムは青盤赤盤、オーロラ!というファンの目線で2019/6/5リリースの新譜『QUIZMASTER』の感想について書いていこうなどと思うのでよろしくお願いいたします。 そもそもQUIZMASTERについてさて、そもそもこのアルバム

          QUIZ MASTERが神盤だった件(全曲感想)